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2010年 12月 17日

森下竜一さんのわが町

続いてはさいたまゴールドシアターの森下竜一さんの登場です。

私にとっての我が町は、生まれ育った軍港の町、佐世保です。

南部の高台にあった私の家からは金市がスクリーン上に収められる眺めだった。前方に烏帽子岳や弓張岳の緑深い山なみ左手には朝日に映える港があり艦船が見え霧笛も聞こえた。

私の父は海軍の士官で、兄は予備学生、私は予科練として海軍にはいった。私にとって忘れられない思い出は海軍に入るまでに過した中学生活の二年間だ。棕櫚の皮で作ったカバンで通学し勉学より軍事教練が優先され陸軍から配属された教官にビンタを喰らい、みんなふっ飛んでいた。悪夢にひとしい灰色の時代だったが、僕達なりに束の間の時間に少しでも楽しみをみつけ過ごすことが出来た。空腹をかかえながらも悄気ることはなかった。帰郷のたびに駅に着くと後方に赤崎の山と港に停泊している船が見え駅の正面に聳える教会の高い塔、わが町に帰って来たことを実感できるひとときです。

文庫本の帯

今回の『わが町』は、このブログで「水曜ワイルダー約1000字劇場」を連載いただいている水谷八也さんの新翻訳でお届けするのですが、これまでに色々な方に翻訳されてきました。古くは森本薫さんから、最近では柴幸男さんが翻案した『わが星』という岸田國士戯曲賞受賞作もあります。

海外の翻訳戯曲を多く出版しているハヤカワ演劇文庫では、鳴海四郎さん訳の『わが町』が2007年に発行されています。そこで今回、新国立劇場の『わが町』上演に合わせて、文庫本に帯を掛けていただきました。よく本屋さんで、“テレビドラマ化決定!”とか“来春、映画公開!”という帯が掛かった書籍がありますが、あんな感じですね。小堺さん、斉藤さんの大きめの写真が人目を引くデザインになっています。首都圏ターミナル駅の主要な書店に置いてありますので、お手にとっていただければと思います。

ちなみに、水谷さんの翻訳(今回の上演版)は、同じ早川書房から出ている演劇誌『悲劇喜劇』2011年1月号でお読みになることができます。2つの翻訳を読み比べてみても面白いかも知れません。本屋さんの棚の中でも、『わが町』盛り上がってきています!(ま)

ハヤカワ演劇文庫『わが町』(鳴海四郎訳)

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