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2009年 10月 19日

ストラットフォード、ウォリック城

スワン劇場は改装中

スワン劇場は改装中

シェイクスピアは1564年にストラットフォードに生まれ、1616年にやはりストラットフォードでなくなった。この生没年は、「ヒトゴロシ」、「イロイロ」と覚えるようにと、むかしむかし小田島雄志先生に教わった。
テュークスベリーからタクシーで約二時間、二十五年ぶりに立ち寄ったこの町、云わずと知れたシェイクスピア専門劇団、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの本拠地でもある。
現在メインシアターのスワン劇場は改装中だが、その代替劇場で、2008年に「ヘンリー六世」三部作を上演したコートヤード・シアターで、「冬物語」を観劇。そこで、今回、シェイクスピア大学の監修をお願いしている河合祥一郎さんにばったり。
この機会にと、ストラットフォードからバスで40分程度のところにある、「ヘンリー6世」でも大活躍の「キングメーカー」ウォリック伯爵を生んだ名家ネヴィル家の居城、ウォリック城まで足をのばしてみた。
シェイクスピアが自作中でも、格別な思いを披歴したとされる、故郷ウォリックシャーの、ここは中心地の一つである。アトラクションや、展示等、サーヴィス精神にあふれる観光スポットだが、ネヴィル家のステイタスの一端に触れた思い。
何しろ「キングメーカー」といわれただけあって、王位の行方を思うままに差配したらしい大プロデューサー、ウォリック。そんな彼も、「ヘンリー六世」第三部、死の場面では恐ろしく孤独だった。自らは演出者として、夢を作ることが生きがいの人生だったらしい永遠のナンバー2。彼の生と死は、僕たちライブアートの仕掛け人にとって、他人事とは思えない感興がある。
10月11日、稽古場では一、二、三部、ノンストップの通し稽古を敢行した。全編見渡してみると、ストーリーの質というか、目の付けどころがよくわかり、俳優諸氏の表情にもメリハリがついてくる。
ホッと一息つく間もなく、スタッフはいよいよ劇場の仕込みにかかる。キャストは稽古場最後の通し稽古クール。そしていよいよ16日からは俳優諸君も劇場入り。ここまではともかく「順調」にきている…。

ウォリック城

ウォリック城

書籍紹介 ⑤

狩野良規 著 『映画になったシェイクスピア シェイクスピア映画への招待』(2001年 三修社:シェイクスピア・ブックス)

 文字通り、映像になったシェイクスピア作品の評論。それも映画にとどまらず、テレビ、舞台での映像まで網羅したファン感涙の書。

 『ヘンリー六世』は、1988年に来日公演もされたイングリッシュ・シェイクスピア・カンパニー(ESC)の『薔薇戦争七部作』を紹介。ご記憶の方もおられるでしょうが、あの舞台をもろ手を上げて肯定はしないまでも、著者は“感動を覚え”と温かく評価。特筆すべきは、シェイクスピアが『ヘンリー六世』を処女作に選んだことに着目、劇作家のその後の作品の主題に多大な影響を及ぼしたとし、英国史劇群を喜劇、悲劇に劣らない不可避な作品群と位置づけている。紙数の都合もあろうが、BBC制作の37作品もぜひ著者に評論していただきたかった。

 三修社『シェイクスピア・オン・スクリーン シェイクスピア映画への招待』 改題

書籍紹介 ④

安西徹雄 著 『仕事場のシェイクスピア』(1997年 ちくま学芸文庫)

 数々のシェイクスピアを演出した著者がシェイクスピアの生涯に迫った迫真の書。シェイクスピア本人の記録や公文書は極めて少ないが、同時代人の手紙や証言から彼の生い立ちからロンドンでの演劇人としての日常までドキュメントタッチで綴る。もちろん二次的資料や多分に著者の推測も交じるが、元来英文学者である氏が大英博物館で、種々の文献を具に調査した結果に裏打ちされてもいるので説得力は十分。

 特に劇作家が所属した劇団が単なる職業的集団ではなく、“強い連帯感によって結ばれた、きわめて人間的な共同体”であったと推論する件は感動的。当時の俳優が半年に150ステージ、しかも日替わりで30作品、うち月二回は新作を上演していたというだけでも驚異的な記録である。

 新潮社『劇場人シェイクスピア』 改題

書籍紹介 ③

伊形 洋 著 『シェイクスピア 劇のありか』(1982年 南雲堂:演劇らいぶらり3)

 主要作品を時代を追って解読。

 序章で『ヘンリー六世』から『リチャード三世』への、劇作家の成長の軌跡を追う。特にリチャードという魅力的なキャラクターを創造したシェイクスピアが、そこに新たな劇世界の可能性を見出し、そこにこそ“劇のありか”を見出したと喝破する論旨は見事の一語。

 その他、どちらかと言えばマイナーな作品である『尺には尺を』『終わりよければすべてよし』のほか、『アントニーとクレオパトラ』『冬物語』なども読み解く。また筆者ならではの硬質な文体が読後にえもいわれぬカタルシスを残す。

 絶版だが、ネット古書等でも入手可能。

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