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2009年 10月 20日

書籍紹介 ⑦

手塚治虫 作 『七色いんこ』(1981年から82年 週刊「少年チャンピオン」連載)

 マンガの神様、手塚治虫が残した、どセンター演劇漫画。一話完結で毎回芝居のタイトルが付けられ、その作品にちなんだストーリーが展開。代役専門の天才俳優で実はドロボーの七色いんこと彼を追う女刑事、千里万里子の活躍を描く。七色いんこの愛犬にして相棒の玉サブローの人気も高い。シェイクスピアの作品では『ハムレット』『じゃじゃ馬ならし』『ベニスの商人』『オセロ』(作品名は漫画に依拠)の4作品がピックアップ(『オンディーヌ』の回にリア王の台詞の朗読あり)されている。

 基本は一話完結だが全体を貫くストーリーも存在し、ハムレットに重ねあわされる七色いんこの物語は波乱万丈、ラストシーンは大いなる感動を呼び起こす。演劇青年でもあった手塚の隠れた名作である。

 単行本は表紙が都内の劇場の客席が背景になっており、各話の冒頭には上演の舞台写真が掲載されていた。

書籍紹介 ⑥

河合祥一郎 著 『謎ときシェイクスピア』(2008年 新潮選書)

 まず驚くのは、目次の2ページうしろ、項をめくると目に飛び込んでくる“登場人物”表。その一行目にはこう書かれている。

ウィリアム・シェイクスピア・・・謎の男 通称ウィル

まさに推理小説のノリである。そう、つまりこの本は全体を推理小説に見立てたシェイクスピア探しの本なのだ。第一部『シェイクスピアとは誰か』が問題編。第二部『ストラトフォードの謎の男』が解決編、という具合に。つまり根強く残る、シェイクスピア別人説に真っ向から切り込み、そして著者ならではの大胆で示唆に富んだ結論へと読者を導くのだ。推理小説の常道として、解説ではネタばれ禁止なので結論は伏せるが、ひとたび読みだすと、寝食を忘れて没頭すること間違いなしである。

 第三部では、実践編としてシェイクスピアへの痛烈な批判であろう、ロバート・グリーンの有名なことば“成り上がり者のカラス”の正体を探る。『ヘンリー六世』第三部第一幕第四場のヨーク公の台詞“女の皮に包まれた虎の心”のパロディ、“虎の心を役者の皮で包んで”とあることから、シェイクスピアが対象とされる斯界への常識に果敢に挑むその姿勢は文句なしにカッコいい。

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