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関連書籍

書籍紹介 ⑬

出口典雄 著 『シェイクスピアは止まらない』(1988年 講談社)

 回を重ねたこのコーナーも今回で最終回。

 最後は、日本で全37作を演出した唯一の演出家、出口氏の著作。今は無き、渋谷ジャンジャンでの公演に接した方もおられるかと思いますが、氏は現在も精力的に活動を続けておられ、11月15日まで新宿の紀伊國屋ホールで『ハムレット』を上演されてました。

 この本にはまず、ご自分の演出の秘訣といいますか、日常の些細なことからヒントを得てシェイクスピアに敷衍していくコツが語られ、次いで当時の世界的な演出家の舞台(ピーター・ホール、デボラ・ウォーナー、イングマル・ベルイマン)についての解読へと続き、シェイクスピア上演の最前線からの提言で締めくくられます。一言で言えばこの本に書かれているのは、いかにシェイクスピアを現代の同時代劇として上演、演出、演技するかということなのです。シェイクスピア=コンテンポラリーなのです。

 

書籍紹介 ⑫

ジョセフィン・テイ 作/小泉喜美子 訳 『時の娘』(1977年 ハヤカワ・ミステリ文庫)

 かの江戸川乱歩も賞賛した歴史推理小説。入院を余儀なくされたスコットランド・ヤードの警部がリチャード三世の殺人について、残された歴史資料からのみ推理をめぐらす、所謂、“安楽椅子探偵”ものである。いかにもイギリスの古典的推理小説らしくユーモアに満ち、話もゆったりと展開するのだが、これからの季節にじっくり読むには最適の味わい深い小説である。最後に示唆される、エドワードの王子殺しの犯人は「ほほー」という感じ。

『THE DAUGHTER OF TIME』 Josephine Tey

 

エリザベス・ピーターズ 作/安野 玲 訳 『リチャード三世「殺人」事件』(2003年 扶桑社ミステリー)

 こちらは、上記『時の娘』へのオマージュともいえる推理小説。アメリカの図書館司書のジャクリーンが夏休みに招かれた英国貴族のカントリー・ハウス。そこでは『リチャード三世』の登場人物に扮装した人々のパーティが開かれていた。そしてお決まりの連続殺人、というかそれぞれの人物が劇中で殺された状況下と同じように襲われるという事件が勃発。そして最後には残忍な殺人が…。『リチャード三世』と『時の娘』を足して、炭酸を加えたような清涼感漂う一品である。

『THE MURDERS OF RICHARD III』 Elizabeth Peters

書籍紹介 ⑪

小谷野 敦 著 『リチャード三世は悪人か』(2007年 NTT出版)

 なんとも刺激的なタイトルである。さぞ、挑発的な内容で奇想天外な説が展開されているだろう、と思いきやこれがなんと、ちゃんとした英国史から始まり、シェイクスピアのリチャード像、リチャードの実像をめぐる論争の歴史、そして要となるエドワードの王子殺しの検証へと展開する、至極まともな(失礼!)リチャード論なのである。しかも文章は平易、引用や比喩も豊富でぐいぐい読ませる力をもっている。現時点での日本語で書かれたリチャード論の決定版と言ってもよい。第一章の百年戦争から薔薇戦争への解説など、『ヘンリー六世』観劇前にぜひ一読をお勧めします。

 後半の、マクベス、リア王、オセローの各論も秀逸。

書籍紹介 ⑩

福尾芳昭 著 『シェイクスピア劇のオペラを楽しもう』(2004年 音楽之友社)

 シェイクスピアを原作とするオペラの解説本。あらすじと作曲家紹介から原作との相違までを詳説。サリエリの『ファルスタッフ』からライマンの『リア王』までを取り上げる。

 著者によれば、世界の全オペラの約1%がシェイクスピア原作であり、この割合はゲーテ、プーシキンを凌駕しているそうである。つまり、イギリスはオペラの輸出国ではないが、オペラ原作の輸出では世界一といえるのだろう。

 ところで、シェイクスピア原作オペラの第一人者といえばもちろんヴェルディだが、もう一方の雄、ワーグナーにもシェイクスピア原作オペラがあるのはご存知だろうか。二作目の『恋愛禁制(Das Liebesver-bot)』というオペラで原作はなんと『尺には尺を』(この“暗い喜劇”を選んだところがいかにも彼らしいが)。このオペラは「ワーグナーはイマイチ苦手」という人にぜひおススメ。何より明るく、序曲冒頭から楽しげな雰囲気満載である。二幕のフリートリヒ(原作のアンジェロ)の独唱では後年の片鱗を覗かせる充実した響きが横溢。日本でも若杉弘=都響による演奏会形式、東京オペラプロデュースによる上演(再演は新国立劇場中劇場)などがあり、録音ではサヴァーリッシュ盤(プライの熱唱)が感動的である。

 21世紀に初演されたオペラには、『テンペスト』(トーマス・アデス作曲)がある。コヴェントガーデンでの貴重なレパートリーとなっており、作曲者本人の指揮によるCDも発売された。こちらはキーンリィサイドやボストリッジが好演。新国立劇場にも出演済みのシンディア・シーデンが超高音域でのエアリエルを聴かせる。ただあまりにコロラトゥーラすぎて言葉はほとんど聞き取れない。観劇者の言によれば、舞台美術も含めたトータルな演出が素晴らしかったとのこと。BBCが収録した映像のDVD化を切に希望するところ。

 もう一枚CDの紹介を。

 『シェイクスピア・ソングス』。イギリスの往年の名カウンター・テナー、アルフレッド・デラーが残したアルバムでLP時代からの名盤である。オフィーリアやデズデモーナなどが当時、劇中で歌っていたであろう歌を集めたものだが、デラーの素朴で虚飾のない、澄んだ歌声がストレートに聴く者の胸を打つ。特にエアリエルのアリア二曲は、まさに妖精?と錯覚するほど玄妙な歌唱で絶品というほかない。

書籍紹介 ⑨

ローレンス・オリヴィエ 著/倉橋 健、甲斐萬里江 訳 『演技について』(1989年 早川書房)

 不世出のシェイクスピア俳優、オリヴィエが役作りについて赤裸々に語った俳優指南書。数々のシェイクスピアのタイトル・ロールを演じた彼らしく、一章まるごとシェイクスピアに割いている。

 『リチャード三世』は最初はやりたくなかったらしく、過去に評判のいい舞台があるので自分には分が悪くなる、と思っていたようだ。面白いのは役作りの研究を始めると、イメージと並行して声のトーンを決める、という件。彼曰くリチャードは“細いが、細見の剣のように鋭い、力強い声”だそうだ。この声は幸運なことに、彼自身の監督・主演映画で我々も見る(聴く)ことができる。余談だが、この映画では冒頭のリチャードの独白に『ヘンリー六世』第三部からの「つけたし」を行い、長大な独白となっている。私見ではオリヴィエの沙翁映画では最も飽きずに見ることができる。

 巻末に詳細な、オリヴィエの出演舞台、映画、テレビのリストつき。

 『ON ACTING』 Laurence Olivier

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