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2009年 11月 17日

書籍紹介 ⑫

ジョセフィン・テイ 作/小泉喜美子 訳 『時の娘』(1977年 ハヤカワ・ミステリ文庫)

 かの江戸川乱歩も賞賛した歴史推理小説。入院を余儀なくされたスコットランド・ヤードの警部がリチャード三世の殺人について、残された歴史資料からのみ推理をめぐらす、所謂、“安楽椅子探偵”ものである。いかにもイギリスの古典的推理小説らしくユーモアに満ち、話もゆったりと展開するのだが、これからの季節にじっくり読むには最適の味わい深い小説である。最後に示唆される、エドワードの王子殺しの犯人は「ほほー」という感じ。

『THE DAUGHTER OF TIME』 Josephine Tey

 

エリザベス・ピーターズ 作/安野 玲 訳 『リチャード三世「殺人」事件』(2003年 扶桑社ミステリー)

 こちらは、上記『時の娘』へのオマージュともいえる推理小説。アメリカの図書館司書のジャクリーンが夏休みに招かれた英国貴族のカントリー・ハウス。そこでは『リチャード三世』の登場人物に扮装した人々のパーティが開かれていた。そしてお決まりの連続殺人、というかそれぞれの人物が劇中で殺された状況下と同じように襲われるという事件が勃発。そして最後には残忍な殺人が…。『リチャード三世』と『時の娘』を足して、炭酸を加えたような清涼感漂う一品である。

『THE MURDERS OF RICHARD III』 Elizabeth Peters

書籍紹介 ⑪

小谷野 敦 著 『リチャード三世は悪人か』(2007年 NTT出版)

 なんとも刺激的なタイトルである。さぞ、挑発的な内容で奇想天外な説が展開されているだろう、と思いきやこれがなんと、ちゃんとした英国史から始まり、シェイクスピアのリチャード像、リチャードの実像をめぐる論争の歴史、そして要となるエドワードの王子殺しの検証へと展開する、至極まともな(失礼!)リチャード論なのである。しかも文章は平易、引用や比喩も豊富でぐいぐい読ませる力をもっている。現時点での日本語で書かれたリチャード論の決定版と言ってもよい。第一章の百年戦争から薔薇戦争への解説など、『ヘンリー六世』観劇前にぜひ一読をお勧めします。

 後半の、マクベス、リア王、オセローの各論も秀逸。

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