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わが町案内版

第一回  21世紀のソーントン・ワイルダー

 今回から、毎週水曜日にソーントン・ワイルダーや『わが町』のことを書きます翻訳を担当した水谷八也です。水曜ワイルダー約1000字劇場、よろしくお付き合い願います。

 さて、2010年はなぜかワイルダーの当たり年でした、生誕113年という中途半端な年なのに。10年から11年にかけて上演された(る)『わが町』は、わたしたちのものを含めると6本になり、さらに若い劇作家、柴幸男さんと演出家の中野成樹さんが「ワイ・ワイ・ワイルダー!」という企画を立ち上げ、4月から1年間、集中的にワイルダーの戯曲を上演しています。
 柴さんや中野さんのような若い演劇人が、これまでの劇団の養成所の発表会で上演されるのとはちょっと違ったスタンスで、ワイルダーの演劇観をかなり本気で面白がっている、ということを日本の現代演劇に詳しい8年生の学生から聞いたのは去年のことでした。「へぇー」と思うと同時、心のどこかでその動きに対して、「そうだよねー」と深く納得できる部分もありました。なぜ納得できる部分があったのか、これを説明するのはかなりの時間が必要なんですが、このブログであちこち寄り道をしながら、説明できればと思ってます。
 ワイルダーは、劇作家で、小説家で、批評家で、演劇研究家でもあった人です。ピュリッツァー賞も小説で1回、演劇で2回受賞していて、二つの分野でこの賞を取ったのはワイルダーくらいでしょう。でもオニールやウィリアムズ、ミラーに比べると地味な感じがするし、研究書もそんなにあるわけではありません。
 しかしアメリカで一番上演回数の多い戯曲は、アマチュアも含めれば、『わが町』だと言われています。1938年の初演以来、各国語に翻訳され、一時は地球上で『わが町』が上演されてない夜はない、と言われたほどです。ひょっとすると日本でも劇団の研究生の発表などを含めたら、その上演はかなりの頻度だと思います。でもその割に、ご本人に関しても作品に関しても、あまり語られるチャンスはありませんでした。程度の差はあるにせよ、この矛盾はアメリカでも日本でもほぼ同じ現象です。上演する作品としては人気がありながら、軽い扱いしか受けないのは、アマチュアのための作品だと思われているからかもしれません。でも簡単に「理解」できてしまうから、底が浅いとは限りませんよね。この戯曲には、演劇史と演劇知が絡み合い、歴史の先頭(現在)にいる「わたし」の姿を見せてくれるようにできています。その仕組みを、来週からボツボツと・・・。

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