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おススメ!『トミイのスカートからミシンがとびだした話』⑧あの頃の熱気、そしてその後

第19期生公演『トミイのスカートからミシンがとびだした話』(11月11日(火)~16日(日))は開幕直前!

「望みを若き世代に」―――敗戦後、三好十郎は新しい演劇運動の発生を若い世代に期待しました。『トミイ』はその機運の中で作られた作品です。その頃の熱気とその後について紹介しますーーー


三好十郎は、まず1946年2月に戯曲研究会を開始しました。その意図や戯曲作法(ではないと三好は言っていますが、創作上の真髄を感じさせる要素)が「戯曲研究会のノートから」(三好十郎の仕事 別巻、學藝書林、1968年)にまとめられており、これだけでも、作劇に関わる若い世代にとって大きな道標が示されていました。

そして、1950年には大映多摩川撮影所の俳優を中心としたグループに請われ、後に戯曲座となるグループの指導を始めます。『トミイ』は、1951年11月にそのグループの二つ目の公演として上演されました。


三好の指導が非常に厳しかったことは多くの証言がありますが、同時に、その指導は深い愛情を携えたものでもあったことが、三好の次のコメントから感じられます。

「この人たちを支持してくださる方は、どうぞ一回や二回でなく、この二三年の間ずーっとこの人たちの勉強を見守り、励ましてやっていただきたいのです。」(三好十郎著作集第60巻より「戯曲座のために」(戯曲座パンフレット、1952年2月所収))

「公演をやる時になると、俺が育てたにしては出来すぎてると思うほどに皆がよくなって来て、普段は俺が育てたにしては、出来が悪すぎると思うのは不思議な事だ。」(三好十郎著作集第10巻より「戯曲座にて」、1953年2月))


しかし、1955年8月、三好は戯曲座を解散します。三好は、その理由を次のように述べています。

「まるで、私と一、二の古い人たちを駅員として、多数の演劇研究志望者たちが僅かの間立ち寄って又去って行く停車場のようなものになってしまった」(「若い世代に失望」、悲劇喜劇1955年10月号)


この後、三好は演劇指導を望む者に限定し、「演劇ゼミナール戯曲座」として、全員の相互研究の形をとり、若い世代の育成活動を続けました。


1955年12月29日、三好はゼミナールから帰宅して家の裏口を入ったところで喀血、それ以来、安静生活に入り、一歩も外出することなく、1958年12月16日、56歳の生涯を終えます。

病床にあっても、テープレコーダーへの吹込みや口述筆記等による劇作や執筆活動を続け、未完の戯曲『神という殺人者』『橋の下』を遺し、同年12月19日、読売新聞朝刊に絶筆「悪人を求む」が掲載されました。

三好の人生は、最期まで妥協のない壮絶なものでした。



さて、戯曲研究会や戯曲座からは、どのような人が巣立っていったのでしょうか?

戯曲研究会から秋元松代氏が輩出したことは、ご存じの方も多いと思います。

秋元氏は、『常陸坊海尊』、『かさぶた式部考』、『近松心中物語』ほか、数々の傑作を生み出してきた大劇作家です。

新国立劇場では、『マニラ瑞穂記』を2014年4月に栗山民也氏の演出により上演しました。当研修所公演としても、2011年1月第4期公演(演出:栗山氏)、2021年2月第14期公演(演出:宮田慶子)として上演しました。


また、戯曲座には、『トミイ』上演の頃、シナリオ・ライター大野靖子氏が在籍していました。

大野氏は、NHK大河ドラマ『国盗り物語』『花神』の脚本を担当、映画『居酒屋兆治』では、第7回日本アカデミー賞優秀脚本賞を受賞したほか、数多くのテレビドラマ、映画の脚本を執筆しました。

大野氏は、当時の親友として新宿ゴールデン街の有名ママや民放プロデューサー等の名前を「悲劇喜劇」1984年11月号への寄稿文に紹介しています。

戯曲研究会に参加しその後、戯曲座の多くの公演の演出を任された石崎一正氏は、自身が退団後、雨森雅司氏が研究生になったことを、同じく「悲劇喜劇」1984年11月号への寄稿文にて紹介しています。雨森氏は、アニメ「天才バカボン」のパパの声で名を馳せた俳優です。

石崎氏はまた、「年度は忘れたが、中央公論が演劇界の年度総括として、三大劇団の後に次代の劇団の一つとして、戯曲座をとりあげたこともあった」とも記しており、当時の戯曲座は注目度が高く、多方面から異才を集めていたことが窺われます。


さて、今回の『トミイ』を演じる第19期生12名も、将来が楽しみな才能あふれる俳優たちです。好評だった今年8月公演、井上ひさし作『少年口伝隊一九四五』に続いて、大劇作家の作品に、注目の演出家・田中麻衣子の指導の下、必死に、食らいつくように稽古に励んでいます。


熱気あふれる第19期生12名が演じる『トミイのスカートからミシンがとびだした話』の上演は、11月11日(火)から16日(日)まで、新国立劇場小劇場にて。詳細はこちら。チケット絶賛発売中!お見逃しなく!



(注)文中に記載の書籍のほか、以下の書籍を参考にしました。

・「泣かぬ鬼父三好十郎」(三好まり著、東京白川書院、1981年)

・「三好十郎傳 悲しい火だるま」(片島紀男著、五月書房、2004年)

・「劇作家 三好十郎」(三好十郎没後50年記念誌編集委員会編、書肆草茫々、2008年)


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