所長メッセージ

宮田 慶子

新国立劇場 
演劇研修所長
宮田 慶子

宮田 慶子

新国立劇場 
演劇研修所長
宮田 慶子

「俳優」をめざす自覚

「演劇」そして「俳優」の仕事の魅力は、自分自身の身体と心と頭脳を使って、世界中のすべて―「社会」「歴史」「文化」「生活」「思想」「時代」「他人」など-と、全身でつながることです。

俳優は、あらゆる時代のあらゆる国で生まれた戯曲を通して、さまざまな多様性に満ちた「人間」について考え、「人間」を作り出し、「人間」を表現していきます。その作業は、ときに驚くほど大胆であり、また比類のないほど繊細で知的であり、その緻密さと美しさは、まさに「人間」そのものの可能性を追い求める芸術だと言えます。

演劇研修所では、「明晰な日本語による台詞表現」「深い理解力と思考力」「柔軟でタフな身体」、そして「豊かで個性ある人間性」を目指して、あらゆる角度からのレッスンが積み重ねられます。さらに、「自立した俳優・演劇人になる」という明確な目的を持つと同時に、「ものを作る・生み出す」創造者としての、自覚的な生き方が求められます。

研修生としての時間は、俳優としての基本的な技術を習得すると同時に、「俳優の生活の仕方」を習得するための時間でもあります。それは、24時間365日、自分を管理し調整し、見えない物に向かって己れを高めて行くという生活習慣を身につけることです。身体訓練も発声もダンスも日舞もアクションも、またあらゆるメソッドのレッスンも、すべては的確な自己認識と、たゆまぬ向上心と好奇心によって支えられるのです。

「世界」と出会い、多様性を尊重し、「人間」の誇りと自由を大切にする……その想いを多くの観客の皆様に届けて共有したいという、「演劇の可能性」を信じる俳優をめざします。 目的意識をしっかりと持ち続けて、俳優・演劇人として、そしてまた一人の人間として、これからの人生の基礎となり、そして財産となる、素晴らしい時間を経験してほしいと思います。

プロフィール

1980年、劇団青年座(文芸部)に入団。83年青年座スタジオ公演『ひといきといき』の作・演出でデビュー。翻訳劇、近代古典、ストレートプレイ、ミュージカル、商業演劇、小劇場と多方面にわたる作品を手がける一方、演劇教育や日本各地での演劇振興・交流に積極的に取り組んでいる。公益社団法人日本劇団協議会常務理事。紀伊国屋演劇賞個人賞、芸術選奨文部大臣新人賞毎日芸術賞千田是也賞、読売演劇大賞最優秀演出家賞など受賞多数。新国立劇場では『ディア・ライアー』などを演出。2010年9月~2017年8月まで新国立劇場演劇芸術監督をつとめる。その後、『ヘッダ・ガーブレル』『わが町』『おどくみ』『朱雀家の滅亡』『負傷者16人─ SIXTEEN WOUNDED─』『るつぼ』『長い墓標の列』『つく、きえる』『ピグマリオン』『永遠の一瞬─ Time Stands Still─』『三文オペラ』『海の夫人』『パッション』「かぐや姫伝説」より 月・こうこう,風・そうそう』『君が人生の時』『消えていくなら朝』など。また、オペラ『沈黙』(12・15年)を演出。研修所公演に『MOTHER-君わらひたまふことなかれ』『美しい日々』『るつぼ』『社会の柱』『マニラ瑞穂記』『理想の夫』『ブルーストッキングの女たち』など。