2013年11月30日
ロンドン紀行 ファイナル
拙い文章でしたが、ロンドン紀行をお読みくださいまして、ありがとうございました。
(作品に関しての掘り下げた丁寧な文章は小田島先生の連載のほうをお読みください。とても勉強になります。そうですね?恒志さん。)
ロンドンに行った経験が、この芝居にどう影響しているかは分かりませんが、マイナスになっているという事はなく、きっとフレディへの血肉に繋がったと思います。地名のワードを目にしただけで、ビジョンが頭の中で浮き上がってくる、それだけでも僕にとっては演じる上で、この上なく手助けになります。
さて、稽古は9月後半から始まり、約2ヶ月弱という長丁場。
いまこれを書いているのが11月29日深夜(残すところ公演もあと2回)。
夏のカオリが残る頃に始まり、秋を感じる事無く、いつのまにか冬に。そして迫り来る新年。稽古をやっているときは、本番なんてまだ随分先だなぁ、と感じていたのが懐かしいです。あと2日となってしまった、今はこの仲の良いカンパニーが解散するのが寂しい気持ちでいっぱいです。
ただ、そんな気持ちを抱きつつも、やることはただひとつ。
丁寧に“生きる事”
このキャスト・スタッフで、創ってきたものを大切に、表現する。
それを胸の奥に、感じながら、100年前の英国にトリップ。
まだご覧になられていない?
それは大変です。是非劇場へ。
もうご覧になられた?
それはありがとうございます。さぁもう一度、劇場へ。
それでは、新国立劇場でおまちしております。
お付き合いくださいまして、
ありがとうございました。
フレディ・エインスフォード・ヒル役
橋本淳
2013年11月29日
ロンドン紀行 5日目その3 & 6日目帰国
明日は帰国の日。
アパートに帰る前に、もう一度街を名残惜しげに歩き回る。
夕暮れ時に歩くのもまた風情があっていいですね。
地下鉄もテムズ川も、どこを見ても憂います。
いつもよりたくさん空気を吸い込み深呼吸、ロンドンのニオイも風も、全身で感じる。今生の別れのように。(浸り過ぎ)
写真をランダムに。
明日は早朝の便なので、早めに床につかなくては。
夜も更ける前に、アパートに着き、身支度を済ませる。なかなか寝付けない。興奮しているからなのか、遠足の前日の小学生よろしく寝付けない。と、考えていると気づけば朝。(案外すんなり熟睡していたようです)
裏口にエサを求めて来るハリネズミくん達にも、別れを告げて、
近くのスタバにて朝食&コーヒー。(相変わらずアツシとは言ってくれず、アチュのままでした、これはこれで良しとしましょう)
ヒースロー・エクスプレスの切符を購入。(着いたときと同じ失敗は繰り返さないようにと、手汗でヒタヒタになった右手でガッシリと握りしめる)
帰りは何事もなくすんなりと。
出国審査もあっけないもので、スンッと通され何事も無く機内へ。
英語に対する苦手意識も若干薄れて、CAさんとも楽しげに少しだけ会話。少しだけ、ここ重要です。
そして無事に帰国。
滞在期間5日間と少し、という短めな旅でした。
正直なところ、もう少しは居たかったな、と。
ピグマリオンの出演が決まったことで、
ロンドンへ行くキッカケが出来て本当に良かった。なかなか行くという決心はつかないもので、フィールドワークという目的のおかげで、行動に移せました。
さらには紀行までも書く事になるなんて。
光栄至極に存じまするですよ。
拙い文章の紀行でしたが、読んでくださいまして、
ありがとうございました。
橋本淳
2013年11月26日
ロンドン紀行5日目 その2
な、な、なんだ、なんだ!?事件かなんなのか?
と緊張していると、ふと思い出す。
ロンドンの電車はよく止まるということを。しかも今日は日曜日。ストライキか整備か詳しくは分からないが、そんなことで止まったようだ。しかしまぁ、地元の方は慣れているのか、何喰わぬ顔でホームをあとにしていく。こんなことが頻繁にあるというのは日本では想像出来ませんね。仕事の時とかに、電車が動かないとかになったら、不便で仕方ないでしょうが、誰も文句を言わずに従っているお国柄は素敵ですね。このゆったり感、好きです。 なんとか動いている電車を乗り継いで、遠回りながらも目的地に到着。ロンドンと言えばこの駅は有名ですね。『キングスクロス駅』。そうです。ハリー・ポッターに登場するあの駅。今では観光スポットになっているらしく、映画に出てくるシーンのように、9と4分の3番線に入り込むカートが。写真スポットになっていてすごい人の列が。(並ぶ時間と元気がなかったので横から撮影)
たいして他に見るとこもないので(失礼・・)すぐに次へ移動。
またもやイギリスならではの場所へ。(滞在最終日なのもあり完全に観光モードでお送りしています。)
『アビー・ロード』
ビートルズのジャケット写真でとても有名ですね。彼らが使用していたレコーディングスタジオの入り口の壁には、ファンからのメッセージで彩られてます。
観光客のみなさんが、あのジャケ写と同じアングルで撮りたいと思っていてもこれがなかなか難しい。この道はかなりの車の交通量、さらに道路のど真ん中に三脚を置いて撮らなくてはならず、難易度はウルトラC級。少し斜めからは撮れるんですが、ね。
中心地へ移動。今回は電車ではなく、乗りたかった2階建てバスで。2階の1番前に乗って終点までと思って意気揚々と乗車、したのですが、すでにその席にはダンディなおじさまが・・・。先客がいたので諦めて違う席へ。いつかは降りるでしょう。
うん。
・ ・・うん。
・・・。
おじさま・・・。終点まで、その席に座っておりました・・。
うん、残念です。きっと僕と同じ思いだったのでしょう。でも、見晴らしはその席でも良かったので良しとします。うん。
最後までもう一歩な旅でしたが、明日は帰国の日。
もうしばらくお付き合いください。
橋本淳
2013年11月20日
ロンドン紀行5日目 その1
この日は行きたいところをとりあえず歩き回る日でした。
まずは『スピタルフィールド・マーケット』に行くべく、北西に位置する、リヴァプール・ストリート駅へ。とても広く、エスカレーターで地上に上がると、天窓から日の光が綺麗に入り込む開放感のある素敵な駅。
まだ午前の早い時間ということもあり、人がまばらでゆったりとした時間の流れ。中心街とは違い道も広く、居心地が良い。倉庫のような場所に、所狭しに並ぶ店、衣類や革小物、雑貨などアーティスチックなモノが多数。お腹が空いたなぁと思っていると、目の前には、パンやカップケーキのお店。か、かわいい。男の感性でもそう感じてしまう。自分も列に入り、カップケーキをお一つ購入。(食べかけの写真で申し訳ない)
かぷっと、かぶりつく。
うん、美味し・・・うっ、甘い。さすがの海外クオリティ。
美味しいは美味しいですが、甘さがハンパではない。毎日こういうものを食していたら、体重が間違いなくfatな海外クオリティになってしまいます。日本食などのヘルシーなものを好む方が多いのは分かります、ね。
さらに北の方へ行くと。ブリックレーン・マーケット。こちらはエスニックな雰囲気。
若者が多いような印象、古着やら美味しそうな屋台(中華、寿司、アジア料理etc)が沢山。ここの市場が僕は一番好きでした。通りではおじさま達がチェスを嗜んでいたりと、自由で素朴な感じが良いですね。
高揚感の中、キョロキョロとオノボリサン状態で歩いていると、
1人のガタイの大きな青年に声を掛けられる。
「hey!! Please,exchange.」(両替してくれない?)
「Ah….!!!!!!!!!」
そこで思い出したのです。持っていたガイドブックに書いてあったことを。
最近多発している、スリの事件でのよくある手口
両替してくれと声をかける
↓
両替に応じてお金のやり取りをし、男は去る。
↓
そこへ警察官が「何をしている?」と入ってくる
↓
身分証を出せ。財布を見せろと色々見られる
↓
怪しいことがないと分かると警察官が解放
↓
また他の男が写真を撮ってくれないかと声を掛けてくる
↓
撮ってあげると男は去る。ふと、気がつくと現金やカードが無くなっている。
という手口。もちろん警察官は偽物で、おそらくここで取られて。カメラ男が時間稼ぎと言うやり口。
これがふと頭に浮かんだ。
周りをすっと見回すと10m程横に、警察官が!!!
す、す、スラれる。そう感じた僕は、両替男に
「sorry 金がないから出来ないんだ」
と、その場を足早に去る。
まだ背中の方でなにかを言っている男。
あと僅かな滞在時間でも油断は禁物と心に誓う・・・。
はたしてあれは詐欺の手口だったのか、
本当に困っていての「両替してくれ」だったのか。
真っ白な善人者だったのなら申し訳ない・・・。
橋本 淳
2013年11月18日
翻訳者雑感その4 ~言葉遊びの話~
ところで、このブログを書き始めたときに名前を出した『るつぼ』の翻訳者・水谷八也さんからメールでこんなコメントを頂いた ― 「少々(ショーショー)だなんて、バーナード言ってるんじゃない!」 うーん、さすが。声に出して言ってみたいダジャレ。
ショーの言葉へのこだわりは、訛りの表記だけではなく、ちょっとした表現や言葉遊びにも表われている。例えば、イライザが初めてウィンポール・ストリートを訪ねてきた時のこと。ヒギンズ「名前は?」 ― イライザ「イライザ・ドゥーリトル」 ―
ヒギンズ: イライザ、エリザベス、ベッツィ、ベス、
森へ出かけた、目当ては鳥の巣、
ピカリング: 見つけた巣の中、卵が4つ、
ヒギンズ: 一人一つで、残りは3つ。
(Higgins: Eliza, Elizabeth, Betsy and Bess,
They went to the woods to get a bird’s nes’:
Pickering: They found a nest with four eggs in it:
Higgins: They took one apiece, and left three in it.)
翻訳だとイマイチ伝わりにくいのだが、要するに、あれ? 4人で4つの卵を一人一つずつ取ったら、残りは0でしょ? 何で3つ? と思わせるのがミソ。答え ― イライザ(Eliza)、ベッツィ(Betsy)、ベス(Beth)はすべて「エリザベス(Elizabeth)」という名前の呼び名のバリエーションだから、これは4人ではなく1人の話。一人一つずつ卵を取ったというのは一人で一つ取ったというだけのこと。
翻訳する際、できるだけわかりやすく意味を伝える努力はするべきだと思うのだが ― 例えば、せめて最後の行を「一人一つずつ取ったら・・・」とするとか ― こういう詩のようなスタイルだと、意味だけじゃなくリズムも重要になる。殊に、2行目の最後など、「巣(ネスト)」(nest)という単語をわざわざ省略した「ネス」(nes’)という表記を使うことでちゃんと脚韻を踏んでいる、というような「意識的」な原文の場合、こちらとしてもそれなりの工夫をして訳す必要があるだろう。この4行を訳す時に何度も声に出してリズムを整えながら微調整していったのだが、喫茶店や電車の中でも作業していたので、回りから不審の目で見られてしまった。(でも、回りの目を気にせず「言葉」に夢中になる男たちの間抜けさ加減が伝われば本望です。)言葉遊びやダジャレを訳す場合、意味よりも雰囲気を伝えることを優先させることが多い。だが、雰囲気だけでなく意味も大事なセリフの場合、どこかで妥協せざるを得なくなる。今回、訳しきれずに最も唸ったセリフが、アルフレッド・ドゥーリトルの高度(?)な洒落。紳士の身分になった(いや、させられた)ことに文句を言う彼に、ヒギンズ夫人が「遺産の受け取りを断ることもできるんですよ」と言うと、「そこが悲しいとこなんですよ、奥さん。いらねぇやい、って口で言うんのは簡単だけど・・・」このまま何もなしでやっていくのが怖くなって受け取らざるを得なくなった。中産階級の紳士になると、自分じゃ何もさせてもらえなくて、みんなが駄賃目当てに勝手に世話を焼く。それを嘆くセリフが ―
ドゥーリトル: もあや(もはや)、あっぽう(八方)うさがり(ふさがり)だ。どっちか選ぶしかねえ、救貧院の「おかゆ地獄」か中産ケーキューの「おせっかい攻撃」か。
この二つの選択肢がどうしても訳せなかった。原文では ―
…it’s a choice between the Skilly of the workhouse and the Char Bydis of the middle class…
この Skilly というのは救貧院(workhouse)で出されるお粥のこと。Char Bydis というのは恐らくCharwoman(雑役婦)のChar にbiddy(女性)の複数形の変形をつけたもの(つまり、身の回りの世話をする女中)、と意味は解釈できる。だが、これが「between Scylla and Charybdis(スキュラとカリュブディス に挟まれて)」という言い方の洒落だと分かると簡単には訳せなくなる。ギリシャ神話の中で、Scylla (スキュラ)は海の岩に住む6首12足の怪物のこと。Charybdis(カリュブディス)は海の渦巻きの擬人化された怪物のこと。船でこの間を通ることは「前門の虎、後門の狼」みたいなもので、「進退きわまる」という意味。ギリシャの英雄オデュッセウス(中に兵隊を入れたトロイの木馬をトロイアに送り込んだ知将)は、渦巻きに飲まれて全滅するのを避けるためにスキュラの岩の方を通ることを選んで、部下を6人犠牲にした。
救貧院の「スキリー(お粥)」を食べる悲惨さと中産階級の「チャービディス(女中)」に世話を焼かれることのどちらかを選ぶということを、二つの怪物「スキュラとカリュブディス」に挟まれた状態になぞらえて八方ふさがりであることを示す ― こんな洒落訳せっこない! 洒落として訳すのは諦めて、とにかく意味をなんとか表わしてみた。それにしても、当時の観客はわかって聞いていたのだろうか・・・
言葉の専門家ヒギンズ教授でもピカリング大佐でもなく、ドゥーリトルという人物がこういう洒落たセリフを言う、というのが何ともおかしい。実はもう一つ・・・