



『ピグマリオン』の思い出
大学三年生のとき、演習の授業で『ピグマリオン』を読んだ。原書で外国の戯曲を読むのは、個人的な興味で読んでいたシェイクスピアを別にすれば、初めての経験だった。これがすこぶる面白かった。いわゆる輪読形式で、分担を割り振って読んでいったのだが、散文の「読み」以上に戯曲のセリフの解釈は人それぞれなのだということを思い知ったのだ。なるほど、あいつはあそこを笑えるセリフととったわけか、とか、ああ、女性としてはここに怒りを読みとるのだな、とか。おまけに、教室では「訳読」する前に担当箇所の原文を声に出して読むわけだが、この戯曲ほど「音声」が意味を持つ本もそうはない。いつもは自分の英語のお粗末な発音にコンプレックスを感じていた僕も、この授業ではある程度貢献できたような気になった。うまい、へた、の問題ではなく、発音も人それぞれなのだということを皆に実感させただろうから。ヒギンズ教授の矯正を受けた後の綺麗な発音は僕には到底無理だったけれども。
そして、もう一つ。有名な映画『マイ・フェア・レディ』とは違うということも知った。途中まではほぼ同じプロットで展開するのだが、映画を見た後の(たいていの映画はそうだが)「夢に浸っているような気分」と違って「夢から覚めた気分」、いや、「夢から覚まされた気分」になったのだ。僕が男だからだろうか? そのときの初体験の実感を思い出しながら、20歳の頃の自分と相談しつつ、今、テキストを改めて読み直している。やっぱり面白い。



『ピグマリオン』の初演は1913年、今からちょうど100年前の作品です。
					一人の下町娘が立派なレディに変身するという、いわば
					「サクセスストーリー」が、物語の軸となって展開しますが、
					その方法が“言葉”であるところに、この作品の最大の魅力があります。
					下町言葉と上級言葉の違いを、英語から日本語に移し変える作業という意味で、
					新翻訳にこだわってきている[JAPAN MEETS… ─現代劇の系譜をひもとく─]シリーズ
					の第8弾として、最もふさわしく、又、興味深い上演であるといえます。
					言葉は、その音声の中に、出自や生活環境、地域性、風土を映し出し、それによって、
					その人物の人生や、思考までもが既定されているという設定は、生きている人間すべてが
					何らかの“枠”にしばられていることを、シニカルに言い当てています。
人間が言葉を生むのか ─?
					言葉が人間を形作るのか ─?
毒舌家、皮肉屋であり、常に本質を問い続けたバーナード・ショーならではの、
					機知とたくらみに富んだ作品です。
					ミュージカル版である『マイ・フェア・レディ』とは違う、
					辛口な視点の生きた『ピグマリオン』を作りたいと思っています。


「OPUS/作品」(9月公演・小劇場)、「エドワード二世」(10月公演・小劇場)、「ピグマリオン」(11-12月公演・中劇場)、「アルトナの幽閉者」(2014年2-3月公演・小劇場)の四作品の特別割引通し券を発売します。(「ピグマリオン」S席・他作品A席)
一般:21,000円 (正価24,150円)
					会員:18,900円 (郵送申込、先行販売期間)、19,950円(一般発売日以降)
2013年6月23日(日) 前売開始
					会員先行販売期間:2013年6月2日(日)~ 6月19日(水)
新国立劇場ボックスオフィス
(受付時間:10:00〜18:00)
					03-5352-9999
					または新国立劇場ボックスオフィス窓口まで