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鵜山紀行

古都ヨークへ…

ミッセルゲートバー

ミックルゲートバー

稽古場は、相変わらずテーブル稽古。読み合わせも終盤に入って、そろそろ各場のからみあいが見えてきというところ。
さて、「ヘンリー六世」ゆかりの戦跡ツアー、と言えば聞こえはいいが、イギリス国内の古戦場には、別に名高い寺やお城が立っているわけじゃない。運がよければ記念碑らしきものに出くわすこともあるが、大抵は、ただの原っぱ。地元の人たちに道を尋ねても、ちゃんと答えが返って来る確率はかなり低い。わずかに残った城壁、由来を記したプレートなど、かすかな手掛かりをたよりに、ひたすら歩き、こののんびりゆったりと起伏を繰り返す平和な丘陵地帯を、かつて駆け抜けていった軍馬の蹄の音や、戦士たちのときの声の残響に、ただただ思いをはせるという、何とも不思議な二週間だった。
ツアーのスタート地点は、白薔薇ゆかりの古都ヨーク市。3月31日のお昼過ぎに、ロンドンから北へ鉄道で約2時間。ローマ、バイキング、ノルマン人の時代からイングランドの北の拠点におり立った。
駅舎を出ると、すぐ目の前に、旧市街をぐるりと取り囲む城壁が迫っている。透きとおった青天のもと、城壁を支える緑の土手には、数限りない黄水仙が風に揺れて、古都の額縁に、思いがけないいろどりをそえている。
この城壁にそってしばらく歩くと「ヘンリー六世」第三部の二幕二場、白薔薇を紋章とするヨーク家の首魁、ヨーク公、リチャード・プランタジネットが、ヘンリー六世の妃、マーガレットになぶり殺しにされた末、その生首をさらされたといわれる城門、ミックルゲートバーが今もその面影を残し、そびえ立っていた。

はじまった!

この10月27日から新国立劇場で上演する『ヘンリー六世』三部作。先日、8月17日には出演者38人全員の顔合わせ。その後、三部通しの「読み合わせ」を決行。
朝10時、スタッフ、キャストうちそろって、「よろしくお願いします」のご挨拶。11時前に読み合わせスタート。途中台本の訂正や駄目出し、休憩を含めて、読み終わったのは夜の10時近く。あたり前の話だが、大変に読みごたえ、座りごたえのある稽古初日。これから初日まで2カ月余り。とにかく楽しみ満載の稽古場。
2009/2010演劇シーズンの幕あけに『ヘンリー六世』を選んだのは、もちろん三部作一挙上演というお祭り気分にどっぷり浸ってみたかったからだが、もう一つ、作品の舞台となった英仏の「百年戦争」から、ランカスター、ヨーク両家の戦い、「薔薇戦争」につながる西ヨーロッパの15世紀。さらにそこに重ね合わされた、作者シェイクスピアの生きた16、17世紀。この「時代の風景」が、まさに今日のわれわれに通じる、市民社会の世界観、人生観の原風景だと感じたからだ。
実はこの春、稽古場に入りびたりになる前に、「百年戦争」や、「薔薇戦争」の残り香に、触れておきたいと思いたって、演劇評論家の大笹吉雄さん、舞台装置家の島次郎さん、そしてわれわれ夫婦の計四人、『ヘンリー六世』ゆかりの、英仏戦跡ツアーを計画した。といっても、各自財布は自分持ちの、気ままな漫遊旅行だ。

鵜山紀行

演劇芸術監督で演出を手がける鵜山仁が、「ヘンリー六世」の演出プランのために出かけた取材旅行や、作品へのこだわり、さらには日常で感じた面白い・すごい・楽しいといった出来事などについて、大いに健筆をふるいます。どうぞお楽しみに。

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