G.ロッシーニ セビリアの理髪師
  アルマヴィーヴァ伯爵 ロジーナ
初演(2005.10) F.v.ボートマー R.シャハム
再演(2006.12) L.ブラウンリー D.バルチェッローナ

シーン1(第1幕)

まず冒頭の場面を見てみよう。これはバルトロの家で、娘のロジーナに一目惚れをした伯爵が、彼女にラブソングを歌おうとやってくる。それで、部下のフィオレッロという男に頼んで楽隊を連れてこいと。彼らに伴奏させて自分がムードのある歌を歌ってロジーナに愛を告げるんだと言う場面である。それで、これは夜明けの場面なので、みんな静かにしていなければいけない。伯爵は自分は普通の書生だと名乗っている。「リゴレット」のマントヴァ公爵でもそうだが、金持ちで伯爵だから自分のことを好きになってくれということではなく、自分は一庶民なんだとを身を偽ってきているわけである。だから、彼がビッグバンドを抱えているとおかしい。その一番最初のシーンというのは、部下のフィオレッロがここにやってきてみんなに「静かにしろ=ピアノ、ピアニッシモ」と歌うところである。「ピアノ、ピアニッシモ」というのは音楽記号にもあるのでお分かりだと思うが、「静かに、静かに」というところである。でもそれを、ケップリンガー氏は、「静かに」と言うからには何か周りにうるさくなるとか、うるさくなりそうなことがあるから「しーっ」て言うのだから、逆に「ピアノ、ピアニッシモ」という前に何かばかな音を立てさせようと提案した。で、まず作ったのがこのシーンである。

2005年公演より

画面の左側からフィオレッロが入ってくる。紙には住所が書いてあって、ここの住所が伯爵が自分を呼んで演奏しろと言った場所だなと確認する。仲間を呼ぶ。口笛を吹く。仲間が集まってくる。すると一人が普通に“ボン・ジョールノ!”と朝の挨拶を大きな声ですると、皆が「しーっ」と言って「ピアノ、ピアニッシモ」が続く。
で、再演のとき、同じことをやったのでは能がないし、面白くないだろうということで私たちが考え出したことは何かをこれから見てみよう。

2006年公演より

基本的に初演と同じだが、「ボンジョールノ」と言ったことに対して、みんなが「しーっ」とやっている。しーってやるために体を乗り出した人が、この前のごみ箱を倒してしまってより大きな音をたててしまったというばかなことをやるという演出になっている。ケップリンガー氏もこの演出の話をしたらとても喜んでいらした。

ただ断っておくと、どのプロダクションの再演でもいつもこんなことをやっているわけではなく、こういう喜劇だからこそ、こんな演出を入れている。