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王子タミーノが大蛇に襲われ、夜の女王に仕える3人の侍女に助けられる。夜の女王の娘パミーナが悪者ザラストロに捕らえられていると聞いたタミーノは、彼女の救出を決意。身を守るためタミーノは魔笛を、お供の鳥刺しパパゲーノは魔法の鈴を与えられ、ザラストロの神殿へ向かう。タミーノはザラストロが徳の高い僧だと知り、パミーナと結ばれるために修行をする事に。試練を乗り越えた2人は、祝福のうちに結ばれる。夜の女王は雷鳴とともに地獄に落ち、ザラストロを讃える声が響く。
「魔笛」の登場人物に夜の女王がいなかったら、このオペラは今ほど有名にはならなかったでしょう。夜の女王のアリア「地獄の復讐心が胸の中で燃え」は、モーツァルトが書いたオペラ・アリアの中でもダントツ人気があります。超高音の連打が3点F(高いファ)にまで達する迫力の歌唱は、動画が全盛の昨今SNSでもたくさん流されています。
夜の女王は確かに悪事を計画しました。ザラストロの元に連れてこられたパミーナのところに、夜になると母親が現れ、彼女に短剣を渡してザラストロを殺せと命じるのです。
でもなぜ、夜の女王はそこまで追い詰められてしまったのでしょう?
彼女自身の言葉によれば、夜の女王の夫は死が近づいた時に、自分が所有する宝は妻と娘に残すが、権力のシンボルである〈太陽の環〉はザラストロに受け継がせると決めました。その時からザラストロは彼女の不倶戴天の敵となったのです。しかもその後ザラストロはパミーナを、(実はこの母親の元に残しておくべきではないという理由なのですが)勝手に連れ去ってしまいます。これで怒らない母親がいるでしょうか?しかも娘を救うために差し向けた若者タミーノはザラストロの世界に寝返ってしまいます。
物事はどちらの側から見るかによって風景が全く違うもの。おそらく、夜の女王の側から見た「魔笛」も、かなり違うストーリーを持っていると思われます。
- 【作曲】ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト/1791年
- 【台本】エマヌエル・シカネーダー(ドイツ語)
- 【初演】1791年9月30日/ウィーン/アウフ・デア・ヴィーデン劇場
- 【制作】新国立劇場2018年
- 【構成】2幕/約2時間40分
- 【演出】ウィリアム・ケントリッジ
- 【美術】ウィリアム・ケントリッジ/ザビーネ・トイニッセン
- 【衣裳】グレタ・ゴアリス
- 【照明】ジェニファー・ティプトン
- 【プロジェクション】キャサリン・メイバーグ