『ワルキューレ』は、「ニーベルングの指環」4部作の“序夜”『ラインの黄金』に続く作品で、“第1日”にあたります。
昨年上演した『ラインの黄金』では、4部作において起こるすべての問題の種が蒔かれ、登場人物の行動とその結果が、生々しく表現されていました。これに対して『ワルキューレ』では、それぞれの登場人物の心の奥深くがありありと描かれており、「指環」の中では最も叙情的な楽劇となっています。中心となるのは、男女の愛、夫婦の諍い、子の成長と反抗、そして親子の別れなど、いずれも現代の人間関係の身近な問題と共通する世界なのです。
第1幕は、別れ別れになっていたヴェルズング族の双子の兄妹・ジークムントとジークリンデの愛と葛藤を描きます。第2幕は、神々の長ヴォータンと正妻である女神フリッカとの争いで始まります。ヴォータンは、愛娘ブリュンヒルデに自らの心の内を吐露します。第3場になると、双子の兄妹の苦しい逃避行、そしてブリュンヒルデは人間であるジークムントの愛のありかたに心打たれ、神々の長たる父の命令に背くという重大な決意をするのです。第3幕の冒頭は有名な「ワルキューレの騎行」で、ここではワルキューレとはどんなに勇敢な女性たちであるか目に見えるような、まさにワーグナー的な描写になっています。第2場以降になると神たる父ヴォータンと愛娘ブリュンヒルデのきわめて内面的なやりとりが続き、「ヴォータンの告別」そして「魔の炎の音楽」として知られる壮大な幕切れに至ります。
ワーグナーの作曲のしかたは、『ラインの黄金』と『ワルキューレ』ではかなり異なります。『ラインの黄金』では、舞台上で次々に起こる出来事を聴き手が正しく理解できるように、リアルな表現が中心でした。示導動機も、単純明快に使われておりました。『ワルキューレ』になると、登場人物の心情を伝えるために、示導動機は変化し転調することが多くなります。音楽も非常に感覚的になり、表現がより幅広く豊かになっています。ワーグナーが苦手な方でも聴きやすい作品といえるのではないでしょうか。
しかも『ワルキューレ』には、数多くの名場面があります。ブリュンヒルデが父ヴォータンに反抗することを決心する場面や、愛娘ブリュンヒルデに父ヴォータンが別れを告げる場面など、聴き手の心は大きく揺さぶられます。登場人物の心の移り変わりとともに、音楽が嵐のように盛り上がっていく大きなクライマックスがいくつもあり、登場人物の心の中で何が起きているか深く分け入る音楽の表現力は、抵抗しがたいほど素晴らしいのです。お客様に、必ず深い感動と共感を体験していただけることと確信いたしております。
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