2016/2017シーズン オープニング公演 ワルキューレ2016/2017シーズン オープニング公演 ワルキューレ

INTERVIEW インタビュー ヴォータン役 グリア・グリムスレイINTERVIEW インタビュー ヴォータン役 グリア・グリムスレイ

圧倒的な名演となった3月の『サロメ』でヨハナーンを演じ、緊迫感みなぎるドラマを盛り上げたグリア・グリムスレイが、新シーズンのオープニング『ワルキューレ』で帰ってくる!
グリムスレイは、ニューヨークやベルリンなど世界各地でヴォータンを演じ、バルセロナの『ワルキューレ』ではイレーネ・テオリンと共演済み。彼の威厳ある崇高な声で、神の長ヴォータンをどのように演じてくれるか、楽しみでならない。グリムスレイにとってヴォータンとは──『サロメ』の公演後に話をうかがった。
<ジ・アトレ5月号より>

2016年3月『サロメ』より 撮影:寺司正彦

ワーグナー作品を歌うのに大事なことは「柔軟性」ですワーグナー作品を歌うのに大事なことは「柔軟性」です

――『サロメ』は素晴らしい公演でした。歌手の皆さんが舞台上でお互い刺激し合い、さらに見事な舞台になったように感じましたが、皆さんの間で化学反応が起こっていたのではないでしょうか。
グリムスレイ(以下G) その通りです。素晴らしい歌手仲間とマエストロとオーケストラ、私たちは一体となっていました。短期間でお互いを尊敬し、信頼し合うことができる関係になりましたが、そのような状態になると、舞台上で魔法のようなことが起きるのです。それが毎公演起こっていました。
――エッティンガーさんの指揮で歌うのは初めてでしたか。
G 彼の指揮で歌うのは初めてでしたが、実は何年も前に、ある公演で一緒に歌ったことがあるのですよ。彼は歌手でしたからね。今回、最初に顔を合わせたとき、「以前どこかで絶対に会ったことがあるはずだ……」と感じて、
2016年3月『サロメ』より 撮影:寺司正彦
思い出しました。彼は、歌手としてのバックグラウンドがありますから、舞台上の歌手に対して鋭い感覚を持っています。同時にオーケストラとも良好な関係を築いて、驚くような音楽的要求にもオーケストラが応えていました。我々歌手は皆それにインスピレーションを受けながら、歌唱できました。彼は本当の意味でのマエストロですね。
――新国立劇場はいかがでしたか。
G とても歌いやすい劇場ですね。素晴らしい響きです。舞台上にいて、オーケストラの音も他の歌手の声も聴こえますし、客席でも、歌手すべての声が聴こえます。自分の声がちゃんと届いていることが分かるので、安心して歌うことができました。私だけでなく、他の歌手からも安心感が感じられました。
2016年3月『サロメ』より 撮影:寺司正彦
――そんなグリムスレイさんは、今年10月『ワルキューレ』にヴォータン役で、来年6月『ジークフリート』にさすらい人役で再び新国立劇場に出演します。
G ヴォータンを歌うのは大好きです。ただし、身体的にも精神的にもスタミナを要求される役です。健康を保つために普段からエクササイズをしていますが、ヴォータンを歌う際、時には食生活を変えることもあります。上演時間5時間分のエネルギーをいかにきちんと摂取するか、気をつけなければなりません。
――ヴォータンを最初に歌ったのはいつですか。
G 2005年、シアトル・オペラです。このとき『ラインの黄金』『ワルキューレ』『ジークフリート』の3作すべてを歌いました。
――その後も定期的にヴォータンを歌っていらっしゃるのでしょうか。
G シアトルだけでも「ニーベルングの指環」は3回歌っていますし、ほかの劇場でも歌っています。ただ、同時に、私は他の作曲家の作品も楽しんで演じています。ワーグナーだけでなく、プッチーニやヴェルディなど、いろいろな音楽を歌うことで、それぞれの作品を演じる糧になると思いますから。中にはワーグナーしか歌わない歌手もいますが、声楽的なアプローチにおいて、なにか限定されてしまっているように感じるのです。私はワーグナーの役を歌うことが本当に好きですが、ワーグナー作品を歌うのに大事なことは、様々なことに対応できる「柔軟性」だと思うのですよ。他の作曲家の作品も歌う「柔軟性」があってこそ、ワーグナーをより豊かに歌うことができるのです。

ヴォータンを人間として演じる。それはワーグナーの意図でもありますヴォータンを人間として演じる。それはワーグナーの意図でもあります

――ヴォータンは神の長ですが、人間的な面もあります。ヴォータン役のアプローチとして、「神」として演じるか、「人間」的に演じるか、2タイプあるかと思いますが、グリムスレイさんはどちらでしょう。
G 私は「人間」の方向から演じます。ヴォータンはもちろん神ですから、それを尊重した上で、ですが。「ニーベルングの指環」は北欧神話などを基につくられていますが、神話とは人間がつくったものですから、人間の問題をそのまま神に置き換えた物語なんですよ。 たとえば、ヴォータンは、娘のブリュンヒルデに永遠の別れを告げますが、彼は本当は別れたくない。私にも娘がいますから、その気持ちはよく分かります。演者がすべきことは、物語の状況と人物関係の分析です。ヴォータンを神としてそのまま描くことは不可能ですし、同時に、神を演じようとすることは危険です。それは、舞台上の物語を体験し、感情移入しようとする観客を遮断してしまうことになります。
――観客を、登場人物の感情に巻き込むためにも、人間的に演じるべきということですね。
G そうです。ワーグナーが神話上の人物を描いたのは、ギリシャ劇と結びつけたかったからです。オペラの起源と同様に、ワーグナーもいかにしてギリシャ劇を再創造しようか考えていた人です。劇場に集まった人たちがカタルシスを共有するためにギリシャ劇は始まりましたが、同じようにワーグナーも観客にカタルシスを共有してほしかったのです。ですから、ヴォータンを人間として演じるのは、作曲家の意図なのです。
――先ほどおっしゃったヴォータンがブリュンヒルデに別れを告げる場面は、どんな気持ちで歌っていますか。
G たいていの公演は、あの場面はかなり感情的になっています。舞台上で涙を流して演じていますよ。
――そうなのですか。ところで、ヴォータンの音楽面での特徴は何でしょう。
G 私がレパートリーとする他の役との最も大きな違いは、ひとりの生き様を見せるのに3作を要するということです。『ワルキューレ』と『ジークフリート』は、その中でも最も上演時間の長い作品ですが、さらに難しいことに、例えば『ワルキューレ』でヴォータンの最後の歌は、観客に「この歌で終わり」と思われないように歌わなければなりません。つまり「まだ語り切れていないことがある」と感じていただける状態で終わるのが望ましいと思っています。そのためには身体的にスタミナが要求され、それが音楽性にも投影されると思います。
――グリムスレイさんはベルリン・ドイツ・オペラでゲッツ・フリードリヒ演出「ニーベルングの指環」に出演されていますね。新国立劇場のプロダクションとは異なりますが、そのときのフリードリヒ演出の印象を教えてください。
G 私が出演した「指環」の中で最も印象に残っている演出が、ベルリンのフリードリヒ版です。残念ながらフリードリヒさんが亡くなった後でしたので、彼のアシスタントを長年務め、演出の意図を細部まで正確に知っている演出助手と仕事をしました。ベルリンのフリードリヒ版のヴォータンは、人間の側面を持った神でした。そして、戦争による完全なる破壊をいつでももたらすことのできる神、という描き方でした。 ベルリンの『ワルキューレ』では、ヴォータンのモノローグの中で、彼が胸に手を当て、膝から崩れ落ちる動きがあります。演出助手にその意味を尋ねたら、フリードリヒさんはこの舞台を制作中に心臓発作を起こしたそうで、それをモノローグに入れたのだそうです。以来、ベルリンでヴォータンを歌うたび、その瞬間になるとフリードリヒさんとの繋がりを感じるのですよ。
――演出家個人の経験が演出に現れているのですね。秋の舞台が楽しみです。再来日をお待ちしております。

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