2016/2017シーズン オープニング公演 ワルキューレ2016/2017シーズン オープニング公演 ワルキューレ

INTERVIEW インタビュー ヴォータン役 グリア・グリムスレイINTERVIEW インタビュー ヴォータン役 グリア・グリムスレイ

昨年10月からスタートしたゲッツ・フリードリヒ演出「ニーベルングの指環」。この上演では、世界的なヘルデンテノール、ステファン・グールドが、自身にとって初めて4作すべてに出演することに大きな注目が集まっている。『ラインの黄金』では初役ローゲに挑戦し、「ひねくれた語り手」という通常のキャラクターを超えた、気品あるローゲ像を描き、絶賛を浴びた。そのグールドが、2016/2017シーズンの開幕作品『ワルキューレ』では、ジークムント役で再び新国立劇場に帰ってくる。
<ジ・アトレ5月号より>

2010・11年『トリスタンとイゾルデ』より 撮影:三枝近志

ジークムントは死後も彼のモティーフが最後に登場します
彼が「指環」の中でいかに重要な存在かよくわかりますジークムントは死後も彼のモティーフが最後に登場します
彼が「指環」の中でいかに重要な存在かよくわかります

――昨年の『ラインの黄金』では、ヘルデンテノールのグールドさんが初めてローゲ役に挑戦され、とても話題となりました。まずはゲッツ・フリードリヒの演出についての印象をお聞かせください。
グールド(以下G) ゲッツ・フリードリヒの演出には煌めきがあります。今回の演出は初めての体験でしたが、改めてフリードリヒと一緒に仕事をしたかったと思わずにはいられませんでした。彼は神話という大きな構成を保ちながら、それを今の私たちに訴えかけてきます。『ワルキューレ』では、迫りくる大きな悲劇の始まりを目の当たりにすることになるでしょうね。
――ローゲ役の手ごたえはいかがでしたか?
G 初めてのローゲに興奮さえ覚えました。なにしろ、これだけ多くのワーグナーの舞台に立ちながら、ローゲ役は初めてでしたし、皆さんから、それもオペラに対する造詣の深い日本の聴衆の皆さんから、私の描いたローゲ像を評価していただけたのは本当にうれしかったですね。
――今年10月の『ワルキューレ』でグールドさんは、ローゲとはまったく異なるキャラクター、ジークムントを歌います。彼は冒頭で、自分の名前は「フリートムント(平安)」でもなく、「フローヴァルト(喜び)」でもなく、「ヴェーヴァルト(悲しみ)」だと語っていますね。
G ええ、ジークムントは「指環」に出てくるテノールの役の中でも最も複雑な役どころです。この冒頭の部分にしても、一見、ワーグナーの言葉遊びのように見えますが、この3つの語がそれぞれに意味を持っているのです。〝喜び〞としてその名を知られたかったが、結局は「指環」の中で最も悲劇的なヒーローとなるジークムントの深い〝悲しみ〞がそこにはあります。彼には、彼を育ててくれた両親もいれば、妹もいたのです。でもそれらすべてを奪われ、戦うことを余儀なくされます。さらには、指環の呪いを解くためにヴォータンは彼をヒーローに仕立て上げようとしながら、結局は自らの手でその剣を折って、死をもたらします。〝家族〞と〝平安〞を奪われる悲しみと、社会に裏切られる不幸を、ジークムントは体現しているのです。
2015年10月『ラインの黄金』より 撮影:寺司正彦
――ジークムントとジークリンデ、双子の兄妹の愛を、あなたはどのようにとらえていますか?
G 2人が愛を確かめ合う第1幕でジークムントが歌い始める「冬の嵐は過ぎ去り」は、イタリア・オペラのアリアに負けないほど、叙情的で美しい歌です。でも2人が声を完全に合わせてひとつとなって歌うことはありませんし、2人が互いの問いかけに応えあうこともありません。これは2人の魂がひとつになることが許されないことを示唆しています。
2015年10月『ラインの黄金』より 撮影:寺司正彦
――『ワルキューレ』だけに登場するジークムントは、「指環」全体のなかではそれほど長く登場するわけではありません。しかし彼が果たす役割は、実は、とても大きいですね。
G ええ。ジークムントは作品の半ばで殺されてしまいますが、彼のモティーフは最後にまた出てきます。つまり、彼は死後も存在しているのです。これだけでも彼がいかに重要な存在なのかがよくわかります。ジークムントこそがヴォータンの目的を果たす存在でしたが、そのジークムントをヴォータン自身が殺すことになるのです。つまりヴォータンの意図が成し遂げられないだけでなく、そこに生じたヴォータンの自己矛盾から娘のブリュンヒルデとの間に確執が生じてしまうのです。なぜヴォータンはブリュンヒルデを罰したのか、彼は果たして本当にブリュンヒルデを罰したのか、ブリュンヒルデは彼の本当の意志に沿っていたのではないだろうか、ヴォータンの本当の望みは一体何だったのか、といった哲学的な問いかけが付きつけられるのです。そして、その源にジークムントがいることに我々は気づかされます。

オペラの舞台でジークムントを歌うのは初めて 最高の状態で臨みたいと思いますオペラの舞台でジークムントを歌うのは初めて 最高の状態で臨みたいと思います

――『ワルキューレ』で、あなたが最も心魅かれるところはどこでしょうか?

G やはり、「冬の嵐は過ぎ去り」が歌われる第1幕第3場は好きですね。本当に美しい歌で、彼がこれからたどる悲劇、ひいてはこの楽劇の迎える悲劇を思うと、いろいろなことを考えさせられます。

 それから、第2幕第4場でブリュンヒルデと対峙し、英雄はヴァルハラに迎えられる、と告げられる場面も好きです。ここで聴衆は、ドラマの方向性が大きく変わったことを、改めて目の当たりにすることになるのです。
――ところで、以前、グールドさんは日本の能を観てみたいとおっしゃっていました。昨年は観劇できましたか?
G 残念ながら、前回日本にうかがったときには公演、あるいはリハーサルと能の公演日が重なってしまい、行けませんでした。でも、知れば知るほど、能はとてもオペラ的で、奥が深いですね。次回にはぜひとも見てみたいと思っています。
――相撲、そして日本料理もお好きでしたね。

G ええ、相撲は毎場所欠かさず見ていますよ。白鵬は相変わらず強いですが、若手も頑張っているので楽しみです。先場所は個人的には稀勢の里を応援していましたし、今後は逸ノ城も楽しみです。

 そして和食ですね。ただ、和食のレストランの多くは日本人向けのサイズで、私にはちょっとスペースがきついことがよくあるのが残念です。前回、毎日のように通ったデパ地下に今度も出没することになりそうです(笑)。でも、相撲や食べ物だけでなく、私にとって日本は今や第ニの故郷ともいえる存在なので、うかがうのが今から本当に楽しみです。
――この夏、日本にいらっしゃる前にはバイロイト音楽祭に出演されると聞きました。
G はい。2010年に新国立劇場で初めて歌った『トリスタンとイゾルデ』のトリスタンで出演します。バイロイト音楽祭には2004年からたびたび参加しています。バイロイトでも日本の皆さんにお目にかかれればうれしいですね。実はその前にはベルリン・ドイツ・オペラでもトリスタンを歌う予定です。
――今回の『ワルキューレ』は、グールドさんにとって舞台上演での初めてのジークムントになるそうですね。
G その通りです。ジークムント役は、演奏会形式で歌ったことはあるのですが、完全なプロダクションとしてオペラの舞台で歌うのは初めてとなります。それも4部作のすべてに出演する「指環」の第2作目ですから、私自身、とてもワクワクしています。新国立劇場は私の大好きな劇場のひとつです。出演者、スタッフ、そして聴衆の皆さん、すべてが最高の劇場で歌うのですから、私も最高の状態で臨みたいと考えています。『神々の黄昏』に向かう悲劇の始まりである『ワルキューレ』で皆さんとお目にかかるのが本当に楽しみでなりません。

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