シェイクスピア大学校


『ヘンリー六世』上演記念 シェイクスピア大学校
開校記念特別講座
5月30日(土)17時〜 新国立劇場中劇場
特別講師:ジョン・ケアード
(ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー名誉アソシエート・ディレクター、『夏の夜の夢』演出)
特別ゲスト:『夏の夜の夢』出演者
村井国夫
麻実れい
チョウソンハ
司会:鵜山 仁(演劇芸術監督)
通訳:垣ヶ原美枝

『夏の夜の夢』が作られるプロセスが見えてくる

ジョン●死刑という言葉が出てきますね。シェイクスピアが書いている世界がどんなものであったか、チラッと影が見える。彼は、『ロミオとジュリエット』を書きながら、たぶんこれバカみたいと思ったところがあったんじゃないでしょうか。ロミオとジュリエットも森を抜けておばさんのところへ逃げていけばよかったのにと思いながら書いていたかもしれない。その答えとして、ロミオとジュリエットは、『夏の夜の夢』ではライサンダーとハーミアだと考えられます。彼らはそれなりに抜け出して森を越えておばさんの家に行き着いたとします。どうなるかというと、ロミオはジュリエットに会う前にロザラインという女性に恋をしています。彼女は芝居に出てこないのですが、ロザラインはハーミアに当てはまります。『ロミオとジュリエット』を書いている時に、ロザラインについての芝居を書かなきゃいけないなあと思っていたのでしょう。ロミオとジュリエットが森を抜け出して、その後をロザラインが追っかけていったらどうなるかなあ? と新しい筋を考えたのではないでしょうか。そう考えると『夏の夜の夢』が作られるプロセスが見えてきますね。
同時に、シェイクスピアの頭のどこかに観客にこういうことを見せたいんだなというのも感じます。悲劇で終わるはずの物語がうまくいかなくてごちゃごちゃになっちゃう過程を見せたい。それで、“ピラマスとシスビー”の物語を入れて、自分が書いた悲劇『ロミオとジュリエット』の風刺をしているのです。“ピラマスとシスビー”は『ロミオとジュリエット』と同じ筋書きじゃないですか。2つの敵対する家の境界の壁が崩れてなくなってしまうという最後の教訓も同じです。ライサンダーが「恋愛は短い稲妻のようだ」と言うのは、ロミオの言葉と思ってもいいでしょう。
そこで書かれた言葉が、後に書かれる『リチャード二世』の中にもっとはっきりと現れてきています。『リチャード二世』は、『夏の夜の夢』の2、3年後に書かれています。それを書き終えてもシェイクスピアはまだ十分に書けていないと思い、それで『ハムレット』を書かざるをえなかった。そして『ハムレット』を書いた後は、いろいろ考えて絶望していく、人生に意味を考えきれなくなる若者を書くことはできなくなり、それ以後ハムレットのような人間を書いていません。