くるみ割り人形

【NEW NATIONAL THEATER, TOKYO 新国立劇場バレエ団 】くるみ割り人形 THE NUTCRACKER

コラム
column

コラム 〜その1〜
プリンシパル小野絢子に聞く
『くるみ割り人形』バレエ鑑賞が10倍おもしろくなる
バレリーナの踊りの秘密

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──『くるみ割り人形』では、これまでどんな役を踊られましたか?

小野新国立劇場バレエ団では、前バージョンを含めると、1幕のコロンビーヌ人形、雪の精、2幕の葦笛の踊り、そしてクララ、金平糖の精です。小林紀子バレエアカデミーの生徒だった頃は、子役として何度か出演させていただいていたので、とても馴染み深い作品です。

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─ドロッセルマイヤーは、どんな役でしょうか?

小野どんな人なのか謎で、ほかの人とは全然違う雰囲気を漂わせています。少し近寄りがたいけれども、魔法使いのように面白いことをたくさんやってくれるので、子どもたちには大人気です。『くるみ割り人形』の中では、ストーリーのペーシをめくる役で、とても重要な登場人物です。

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─コロンビーヌを踊られたと伺いましたが、人形役の難しさは何ですか?

小野大変なところは、ほかの役と違って表情を変えてはいけないところです。意識すると、逆に目をパチパチさせてしまったりして(笑)。それと、いつもはつま先を伸ばしなさいと言われて苦労しているのに、伸ばしてはいけないというのも大変です。1幕の人形たちは、客間で唯一バレエの見せ場ですから、ダンサーにとってはとても責任のある踊りです。

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─舞台裏の話を少し聞かせてください。

小野『くるみ割り人形』で一番舞台裏が大変なのが戦争の場面です。ものすごく小道具が多くて、舞台裏は大変なことになっているんです。大砲から始まって、銃、剣、騎馬など、袖に入っては短い時間の中で持ち替えています。その上、暗い場面ですし、被り物もあるので、すごく見え難いんです。だから、袖で道具の受け渡しをしてくださる方々がいなければうまくいきません。多くのバレエ作品で、衣裳の早替えや道具の準備があります。舞台上のダンサーだけでなく、舞台裏でサポートしてくださる方々のおかげで、ダンサーたちは安心して踊れるわけです。

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─好きなシーンはどこですか?

小野全編を通して、このバレエで一番好きな瞬間は、王子様が登場するところです。舞台が真っ暗になって、光がついた瞬間に、とてつもなくかっこいい人が立っている!そしてあのロマンティックな音楽ですよね!一番ドキドキしませんか? もう完璧です!

─雪の精を踊られたと伺いましたが、コール・ド・バレエを合わせるのは難しいでしょう?

小野コール・ド・バレエを美しく見せるためには、とにかく常に全部の方向に神経を配らなければなりません。頭の後ろにも目が欲しい感じで、空気が読めない人はできないですね(笑)。それに音楽もとても重要で、先頭の方は「今日はどんなテンポか?」とドキドキしながら出番を待っています。もちろんリハーサルで指揮者と合わせていますが、ダンサーはほんの紙一重テンポがずれると感覚が変わります。遅いテンポだとばらつきが出てしまいますし、速いテンポだとついていけなくてガタガタになってしまいます。でも、本番は与えられた音楽で、ダンサーたちがどうにか料理しなくてはなりません。音楽と踊りが一体となって美しいバレエができるのです。あと大変なことと言えば、1幕最後に雪が降ってきて、客席からはとてもきれいなのですが、私は食べたことがあります。踊っていると汗が出てきて、紙吹雪がくっつきやすくなって、口に付いたらもう食べるしかない、と(笑)。ダンサーの多くが一度は食べていると思いますよ!

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─「クララ」と「金平糖の精」の両方を踊られて、どのように役づくりをしているのですか?

小野初めてご覧になる方には、不思議な感じがすると思いますが、バレエ『くるみ割り人形』には2人の主役がいます。ストーリーの主役はクララで、ドロッセルマイヤーに導かれながら、クララを中心に展開していきます。しかし、バレエの主役は金平糖の精で、王子とのグラン・パ・ド・ドゥが見せ場です。私がクララを踊る時は、その時何を思って、どんな状況で、どんな気持ちなのかを考えて表現することを一番大事にしています。クララの役割はストーリーテラーなので、お客様にストーリーを伝えなくてはなりません。もちろんきちんと踊りこなすことも大切ですが...。一方、金平糖の精は、2幕から登場してパ・ド・ドゥを踊りますが、性格があるわけでもなく、実在の人物でもないので、役づくりがとても難しいです。私はクララから見て、どういう人であってほしいかを考えて踊っています。やはり憧れの女性、なりたい女性、完璧に美しくて、優しくて、でも威厳もあって、全てを包み込む母なる女性のようなイメージです。新国立のバージョンでは、全幕を通してクラシック・チュチュを着ているのが金平糖の精だけなので、バレエの主役は金平糖の精だということが視覚的にわかるようになっています。

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─キャラクター・ダンスは好きですか?

小野実は、クラシックよりもキャラクターが大好きです。独特なスタイルで表現できますし、踊っていてとても楽しいです。光栄なことに、子どもの頃からキャラクター・ダンスを習う時間があって、ヒールのある靴を履けるのがとっても嬉しくて、かかとをカツカツ鳴らしてましたね。『くるみ割り人形』で初めて子役として出たのが、新国立版にはありませんが、マダム・バウンティフル(ジゴーニュおばさんとその子どもたち)でした。おばさんの大きなスカートの中から、たくさんの子どもたちが出てきて踊る役で、バレエシューズを履いていましたが、ステップはキャラクタークラスで習ったものばかりでした。最後までスカートに戻らないやんちゃな子どもの役で、2幕の出演者の方々の間を走り回ったのを覚えています。

─『くるみ割り人形』のグラン・パ・ド・ドゥは古典バレエの中でも特に難しいと言われていますが、いかがですか?

小野見た目に派手なリフトや動きがあるわけではないのですが、一番難しいパ・ド・ドゥだと思います。プティパのバレエは特に様式美を重視しますので、ストーリーやドラマがない役なのに、それを感動的に伝えるのがとっても難しいんですよ。どうしたらいいんでしょう。そんなに派手なリフトではなく、地味で難しいテクニックが詰まっているのに、観客の方々にはその難しさが伝わらないパ・ド・ドゥです。曲もゆったりしていてとても静かなので、ポワントの音がしないように気をつけて踊りますし、ポワントを叩いて音消しをしています。聞いていただきたいのは、ポワントの音ではなく、オーケストラの音楽なので、それを邪魔するような「カーン」と高い足音がしないように努力しています。

─何度か金平糖の精を踊られていると思いますが、違いはありますか?

小野2回踊っていますが、全然違います。お客様にわかるほど変わっているかどうか疑問ですが、やはり1回目より2回目のほうが、周りのことがすごくよく見えてきて、もっとこうしよう、もっとこうできると、たくさんやりたいことが出てきます。私の場合、本番が終わった時に「今日は良くやった!」と思うことは一度もなくて、「もっとこうしたかったのに」と落ち込んでいることのほうが多いです。でも、それが次への成長につながると思いますので、3回目にはまた違った感じ方ができると思っています。

─最高のパフォーマンスを目指して毎日練習しているダンサーに、ゴールはないのでしょうね。だからこそ常に新しい小野絢子さんが見られると思うと、今からとても楽しみです。

小野ありがとうございます。今年も客席の皆様に、最高の『くるみ割り人形』をお届けできるよう頑張ります。

聞き手・構成:新居彩子

(2013年当公演プログラムより)

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