演劇研修所ニュース
第19期生公演 朗読劇『少年口伝隊一九四五』稽古場だより
2023年入所の第19期生が、朗読劇『少年口伝隊一九四五』を研修所では4年ぶりに上演します。公演はいよいよ7月31日よりスタートです!
この公演が新国立劇場小劇場デビューとなる第19期生から、この朗読劇にかける意気込みと見どころを日替わりでお届けいたします!
花江 役:向井里穂子(むかい・りほこ)

【意気込み】
戦後80年を迎えるこの夏、『少年口伝隊一九四五』で私たちが何を伝えなければならないのか、日々考えながら稽古を重ねています。
戦争を経験された方々が少なくなる中で、誰かが伝えなければその記憶は失われていってしまう。そんな今だからこそ、私たちの世代が口伝していきなさいと、作品から後押しされているような気がします。
食べる、話す、遊ぶ、笑う、そんな当たり前の日常が、一瞬で奪われた80年前の事実を、不条理の連鎖の中でも、懸命に生きた人々の姿を。私たちの口を通して伝えることが、誰かの、ひとつのきっかけになると信じて、誠実に作品と向き合い続けていきます。
【見どころ】
井上ひさし先生の紡がれる言葉は、とても豊かで、人々の生活を生き生きと脳裏に描かせます。
声を追求する朗読劇だからこそ、言葉の力を最大限に借りながら、当時の広島に溢れていた沢山の生きる音を、届けていきたいです。
12人の声と、宮下さんのギター演奏で描く、80年前の広島の情景を、見て、聴いて、共にその時間を過ごしていただければと思います。
正夫 役:和田壮礼(わだ・たけのり)

【意気込み】
先月、舞台の地広島に赴き、今見れるもの、知れることを可能な限り調べ、体感しました。本当のことを言えば、部外者が一体何を語れるんだ、という気後れがかなりありましたし、それは調べものや稽古を重ねた今でも少し残っています。ただ、戦争を知らない世代が大半の中、井上ひさしさんが想いを込めて書いてくださった作品、そしてその想いの先にいた広島の人々と確かにあった暮らしの様を、少しでも届けられたらなという思いは強くあり、そのために全身全霊で取り組みます。研修公演ではありますが、演劇という形を通して、私たちも、皆さんも、モノの見え方や捉え方を豊かにする助けになれればと思います。
【見どころ】
朗読劇なので、役者は言葉だけでどれだけのイメージと世界を伝えられるかに全力を尽くしています。その語られる言葉を、栗山民也さん演出のもと緻密に編み出していっています。台本も本当に細かく、ちょっとした一言で世界観が作られますし、そこに井上ひさしさんの考え方の一端が見えたりします。そのようにして語られる言葉で作り出される世界を見ていただければと思います。
正夫の祖母 役:野仲咲智花(のなか・さちか)

【意気込み】
井上ひさしさんの戯曲を上演できる喜び、やっと舞台に立てる喜び、栗山民也さんに演出をつけていただける喜び。たくさんの喜びで心がワクワクドキドキしています。
朗読劇をやるにあたって、言葉を受け取り、繋ぎ、渡していく作業をより丁寧に、大切にしなければいけないなと日々の稽古で改めて感じています。
どう工夫すれば観ている人に伝わりやすいのか、どんな声、どんな間を使うのが一番効果的なのか、研究していくのがとっても楽しいです。研修所で学んだことをフル活用し、稽古場でたくさん試して、失敗して、ブラッシュアップして、皆様にお届けできたらいいなと思います。
【見どころ】
終戦から80年。実際に広島にも研修にいき、このことは伝えていかなければいけないと感じました。私たちが伝えるのは、あの時確かに広島に生きていた、日常を送っていた人々に起こった事実です。
物語を進めたり、広島の人になったり......みんながひとつの役では終わらない1時間です。いろんな人物を生きながら、どうやって言葉を繋いでいくのか、楽しんで観ていただけたらなと思います。
勝利 役:森 唯人(もり・ゆいと)

【意気込み】
広島や戦争のことを考えると、明日どうなるかわからないからごはんは味わって食べようとか、シャワーじゃなくて湯船に浸かろうとか、家族に連絡してみようとか、当たり前になってる日常の幸せが嚙み締められる気がします。
原爆ドームの前に立ち、出た言葉は「やばい」。この手軽な言葉でまとめてはいけない。全身で感じたものをもっと繊細に具体的に伝えたい。だからこそ、この舞台の一瞬一瞬を大切に、生きた言葉で届けたい。そんな時間にします。
【見どころ】
井上ひさしさんの紡いだ言葉たちです。ひとつひとつの言葉に、広島研修で体感したすべてがのせられます。朗読劇だからこそ、皆さまと劇場の空間を広島の風景にそっと塗り替えていけたらと思います。一人一人が千秋楽まで真摯に向き合います。どうぞよろしくお願いします。
地の文 役:辻坂優宇(つじさか・ゆう)

【意気込み】
二年間の研修で感じてきた悔しさや苦しさ、もどかしさ、歯痒さ、猛烈な嫉妬、喜び、舞い上がり、達成感、温かさ、そのどれもが無駄でなかったのだと、稽古をして実感しています。そして、そんな日々を共にした19期みんなと新国立劇場の小劇場に立てるのがとても嬉しいです。
「平和」ってなんだ、「日常」ってなんだ、「ことば」って、「死」って、「戦争」ってなんだ、いろんなことを自分に問いかけ、考え続けています。考えたところで答えがでるような問いではありませんが、それでもぐるぐると思いを巡らせることを続けていきたいです。
【見どころ】
この作品を読むまで、原爆投下後の広島を台風が襲ったことを全く知りませんでした。私含め同期がさまざまな声を使って台風が徐々に、そして確実に迫ってくるさまを描写するところにご注目ください。またそのほかの場面でも、使ったことのない声に出会えるよう、奮闘しています。
英彦の父 役:中島一茶(なかじま・いっさ)

【意気込み】
二年間の研修を経て一本目がこの作品である意味、戦争を経験していない僕たちがこの作品を創る意味を日々考えています。
80年前に広島で起きたことを俳優達が学び、調べ、事実を基に想像する。これらがどれだけ難しい事なのか強く実感する日々です。
本来俳優が完備しておくべき「言葉」というツールを用いてどれだけ描写する事が出来るのか、一つの挑戦にもなっています。
戦後80年の年に、国立の劇場でこの作品を上演する責任とプレッシャーを感じながら日々稽古と向き合い続け、来場頂く皆さんへ夏の一つの思い出になる様な舞台を届けます。
【見どころ】
今回の作品には、ごく普通の生活をしていたら表現できない、地獄のような状況の中でも人々が生活を営むための前向きで力強い言葉が多く出てきます。その言葉が紡がれていく壮絶な状況や美しい情景も、俳優の声で創られます。声がどれだけの物を表現出来るのか、ぜひ劇場で体験してください。
英彦の母 役:千田 碧(ちだ・あお)

【意気込み】
普段の生活が一瞬にして変貌するという体験を、人は誰しも、大なり小なり経験しているはずです。それは遠方への引っ越しであったり、大切な人との別れであったり。あるいは誰かとの素晴らしい邂逅であったり。長い人生の一幕に過ぎないそれらの出来事でさえ、自分の心に大きく響くものとなります。
であれば、80年前の広島で一挙に日常を奪われた何十万人もの人々は、その心に何を思いながら人生を歩んでいったのでしょうか。
想像もできないその心情を、使える全てを使って想像するのが役者の仕事だと思っています。
最後まで甘んじることなく臨みます。
【見どころ】
1945年の広島の夏が一変する様を、言葉の力だけを用いて観客の皆様へ克明に思い描いてもらうにはどうすれば良いのか。生きた会話を舞台上で演じるには何が必要か。稽古の中で、自分や同期が発する言葉のさまざまな響きを聞き、日々新しい発見に出逢いながら、研究を重ねています。
場面ごとに変化する演者の声にご注目いただけると幸いです。
じいたん 役:﨑山新大(さきやま・しんた)

【意気込み】
戦後80年という年月が経ちましたが、今なお核兵器の持つ威力は衰えず、世界各地がその脅威にさらされている状態です。日本では戦争体験者の高齢化が進み、当事者から学ぶ機会が失われつつある中で、次世代でも、戦争の恐ろしさについて後世に伝えられるように努力する必要があると考えます。広島研修を通して、原子爆弾のもたらした惨劇について改めて認識し、かつ伝えて行くために尽力している方々と交流することができました。今回の朗読劇で、井上ひさしさんの言葉を借り、私も後世へ伝えて行く担い手の一員となれれば幸いです。
【見どころ】
一番の見どころは、井上ひさしさんの力強い言葉を通して、広島市を彩る豊かな自然が、馴染のない人にも色鮮やかに想像され、また原爆の威力や投下後の惨事について、詳細に追体験したような感覚になれることです。私達もその作品の一部として、時には状況を描き、時には当時を生きていた人物となって、舞台に立ちます。
英彦の妹 役:田村良葉(たむら・かずは)

【意気込み】
無事3年目を迎えることができました。少し前まではいよいよ舞台に立つんだということに実感がわかなかったのですが、稽古を重ねて行くにつれてようやく、私は舞台に立ち数百人という大人数の前で言葉を紡ぎ、情景を彩っていくのだなと感じました。実際に原爆が落とされた当時をどうやってその場でみられるか、そしてその光景をどう観客の皆さんに伝えていくか、それを初日を迎えるギリギリまで考えて考えて考え続けていきます。
【見どころ】
語り手は12人、みんな同じ時間を生きて、同じ光景を見ていきます。それでもそれぞれの感じている事はきっと違っていて、もしかしたらそれが観客の皆さんにも見えるかもしれません。戦争について、原爆の被害者たちについて、他にもたくさん。それを見て、なにか感じて考えていただけたらと思います。
英彦 役:菊川斗希(きくかわ・とき)

【意気込み】
僕にとって今回が、東京に来て初めての舞台となります。
その初舞台が新国立劇場で、井上ひさしさんの作品であり、さらに栗山民也さんの演出で立たせていただけることを、とてもありがたく思っています。
初めて作品を読んだ時に、「僕にできるだろうか」と不安になりました。
けれど今は、稽古を重ねる中で新たな発見をしながら、朗読劇だからこそ伝えられるものを日々探し続けています。
また、「悲しい」「酷い」といった言葉だけでは片付けられないものを、どうすればしっかりと伝えられるのか考えています。
「言葉」は「核兵器」よりも計り知れないほど大きな力を持っています。
だからこそこの朗読劇で、広島で何が起きていたのかを鮮明に伝え、平和について、戦争について、1人でも多くの人に考えてもらえるきっかけになれるよう、全力で挑みます。
【見どころ】
作品の中には、広島の風景描写や、原爆投下直後の人々の声、怪我を負った人々の状態描写など、非常に豊かな言葉が散りばめられています。
その一つひとつの言葉を声に出すことで様々な感情が引き出され、私たちに多くのことを考えさせてくれます。
正直、どの場面も重要で、すべてが見どころです!
作品に関するあらゆることを調べ、広島研修で様々な場所を訪れ、学び、それらを経て稽古を重ねた19期生が、この作品をどう繋ぎ、どう声で口伝していくのか。
その姿にぜひ注目していただきたいです!
勝利の母 役:大田真喜乃(おおた・まきの)

【意気込み】
井上ひさし氏が研修生のために書き下ろしてくださった、朗読劇『少年口伝隊一九四五』という作品を4年ぶりに栗山さんと共に私たち19期生で再演させていただけるとお聞きした時は本当に嬉しかったです。
私はこの作品を初めて読んだ時、勝手に涙が溢れてきたのを覚えています。「どうすればこれを俳優が声にして伝えることができるだろうか。」この大きな課題は稽古が始まった今でもずっと向き合い続けています。
戦後80年という節目の年だからこそ、1人でも多くの方と共に、この作品が描く「80年前のヒロシマの事実」をじっくりと味わっていけたらいいなと思います。
【見どころ】
この作品の特徴はやはり「朗読劇である」ということです。俳優の身体表現や演出効果ではなく、俳優の「声」が大きな役割を担っております。この作品は井上ひさし氏が選んだ言葉の一つ一つの語感を存分に味わうことができる作品だと思っております。俳優の「声」で景色や感覚が描かれていく。その過程をぜひ堪能していただければと思います。
兵隊 役:井神崚太(いがみ・りょうた)

【意気込み】
戦後80年を迎えるこの年に、この作品が上演できる事、この作品に携われる事を誇りに思います。
80年という大きな数字は、実際に広島を訪れ、空気を感じ、いろんな事を見聞きした後では、決して遠い過去ではないと痛感しました。あの日から今日までは一本の線で繋がっており、私たちも繋いでいかなければならない。そういった覚悟と責任が私の中でめばえました。
栗山さんが仰っていた「朗読ではなく、口伝をしていく」というお言葉が深く胸に残っています。そのお言葉通り、俳優として様々な言葉で伝え、観てくださる方々の心に、何かしらの思いを届けられたら幸いです。
作品と言葉に真摯に向き合い、最後まで全力で務めてまいります。どうぞよろしくお願いいたします。
【見どころ】
世界が停まった瞬間をしっかりと見て頂けたらと思います。爆弾が落とされ、大きく上がったキノコ雲の下では、一体何が起こっていたのか。
広島へ行きしっかりと感じたことを胸に抱きながらも、個人的な意見や偏った価値観等、そういったものは一切なく、目の前で起こっている出来事を、誠実に丁寧に、ドキュメンタリーとして伝えていきたいです。