ブログ

関連書籍

書籍紹介 ⑧

レイマンド・フィッツサイモンズ 作/松岡和子 訳 『エドマンド・キーン』(1985年 劇書房)

 実在した天才俳優、キーンを語り手にしたモノローグドラマ。ドゥルリー・レイン劇場の楽屋を舞台に、最期の時を迎えようとする彼が人生を振り返る。リチャード三世、シャイロックなど数々のシェイクスピアの主役を当たり役にした俳優に相応しく、シェイクスピアの台詞が劇中ふんだんに登場。彼らの心境とキーンの胸中とが共鳴しあう。

 冒頭、芝居の幕開きが『ヘンリー六世』第三部第五幕第六場、リチャードの台詞(実際にはコリー・シバー翻案『リチャード三世』第一幕第二場)。そのあとも『ハムレット』『マクベス』『オセロー』『リア王』『コリオレイナス』『アテネのタイモン』と続き、シェイクスピア好きにはこたえられない作品。ロンドンでは『ガンジー』のベン・キングスレイが83年に演じ、日本では85年に江守徹が西武劇場(現パルコ劇場)にて上演した。

 同じキーンが主役でサルトルにも作品があり、こちらは滝沢修、平幹二朗、江守徹(新国立劇場中劇場)、市村正親らが過去に演じている。

 『EDMUND KEAN』 Raymund FitzSimons

書籍紹介 ⑦

手塚治虫 作 『七色いんこ』(1981年から82年 週刊「少年チャンピオン」連載)

 マンガの神様、手塚治虫が残した、どセンター演劇漫画。一話完結で毎回芝居のタイトルが付けられ、その作品にちなんだストーリーが展開。代役専門の天才俳優で実はドロボーの七色いんこと彼を追う女刑事、千里万里子の活躍を描く。七色いんこの愛犬にして相棒の玉サブローの人気も高い。シェイクスピアの作品では『ハムレット』『じゃじゃ馬ならし』『ベニスの商人』『オセロ』(作品名は漫画に依拠)の4作品がピックアップ(『オンディーヌ』の回にリア王の台詞の朗読あり)されている。

 基本は一話完結だが全体を貫くストーリーも存在し、ハムレットに重ねあわされる七色いんこの物語は波乱万丈、ラストシーンは大いなる感動を呼び起こす。演劇青年でもあった手塚の隠れた名作である。

 単行本は表紙が都内の劇場の客席が背景になっており、各話の冒頭には上演の舞台写真が掲載されていた。

書籍紹介 ⑥

河合祥一郎 著 『謎ときシェイクスピア』(2008年 新潮選書)

 まず驚くのは、目次の2ページうしろ、項をめくると目に飛び込んでくる“登場人物”表。その一行目にはこう書かれている。

ウィリアム・シェイクスピア・・・謎の男 通称ウィル

まさに推理小説のノリである。そう、つまりこの本は全体を推理小説に見立てたシェイクスピア探しの本なのだ。第一部『シェイクスピアとは誰か』が問題編。第二部『ストラトフォードの謎の男』が解決編、という具合に。つまり根強く残る、シェイクスピア別人説に真っ向から切り込み、そして著者ならではの大胆で示唆に富んだ結論へと読者を導くのだ。推理小説の常道として、解説ではネタばれ禁止なので結論は伏せるが、ひとたび読みだすと、寝食を忘れて没頭すること間違いなしである。

 第三部では、実践編としてシェイクスピアへの痛烈な批判であろう、ロバート・グリーンの有名なことば“成り上がり者のカラス”の正体を探る。『ヘンリー六世』第三部第一幕第四場のヨーク公の台詞“女の皮に包まれた虎の心”のパロディ、“虎の心を役者の皮で包んで”とあることから、シェイクスピアが対象とされる斯界への常識に果敢に挑むその姿勢は文句なしにカッコいい。

書籍紹介 ⑤

狩野良規 著 『映画になったシェイクスピア シェイクスピア映画への招待』(2001年 三修社:シェイクスピア・ブックス)

 文字通り、映像になったシェイクスピア作品の評論。それも映画にとどまらず、テレビ、舞台での映像まで網羅したファン感涙の書。

 『ヘンリー六世』は、1988年に来日公演もされたイングリッシュ・シェイクスピア・カンパニー(ESC)の『薔薇戦争七部作』を紹介。ご記憶の方もおられるでしょうが、あの舞台をもろ手を上げて肯定はしないまでも、著者は“感動を覚え”と温かく評価。特筆すべきは、シェイクスピアが『ヘンリー六世』を処女作に選んだことに着目、劇作家のその後の作品の主題に多大な影響を及ぼしたとし、英国史劇群を喜劇、悲劇に劣らない不可避な作品群と位置づけている。紙数の都合もあろうが、BBC制作の37作品もぜひ著者に評論していただきたかった。

 三修社『シェイクスピア・オン・スクリーン シェイクスピア映画への招待』 改題

書籍紹介 ④

安西徹雄 著 『仕事場のシェイクスピア』(1997年 ちくま学芸文庫)

 数々のシェイクスピアを演出した著者がシェイクスピアの生涯に迫った迫真の書。シェイクスピア本人の記録や公文書は極めて少ないが、同時代人の手紙や証言から彼の生い立ちからロンドンでの演劇人としての日常までドキュメントタッチで綴る。もちろん二次的資料や多分に著者の推測も交じるが、元来英文学者である氏が大英博物館で、種々の文献を具に調査した結果に裏打ちされてもいるので説得力は十分。

 特に劇作家が所属した劇団が単なる職業的集団ではなく、“強い連帯感によって結ばれた、きわめて人間的な共同体”であったと推論する件は感動的。当時の俳優が半年に150ステージ、しかも日替わりで30作品、うち月二回は新作を上演していたというだけでも驚異的な記録である。

 新潮社『劇場人シェイクスピア』 改題

  • 11月 2009
    << 2009 年 11 月  
     1
    2345678
    9101112131415
    16171819202122
    23242526272829
    30  
  • 関連サイトバナーリンク

    2人からのメッセージチケット情報クラブ・ジ・アトレ新国立劇場

ページの先頭へ