2014年2月19日
本日初日!
1ヶ月以上の稽古期間を経て、いよいよ初日を迎えました。
楽屋入り口、「本日初日」の看板を見ると、身が引き締まります。
でも、初日と言っても皆さんいつも通り、のびのび、和気藹々。
今までの稽古で、できることはすべてやった、そんな感じでしょうか。
公演前のノートタイムでも大きな笑い声が起きていて、とってもいい雰囲気です。
さらに、雰囲気を盛り上げてくれたのが、大道具さん。
みんなが集まって雑談する団欒スペースのテーブルを、アルトナ仕様にしてくれました。
どこがアルトナなのかは、見に来ていただければわかるはず。
こういうちょっとした気遣いが、チームをさらにぐっとまとめてくれます。
さて、決してとっつきやすいわけではないこの芝居、お客様にどのように受け入れられたのか、とてもドキドキしています。
皆様の心に何かを投げ込めていれば、嬉しく思います。
残り19公演、まだチケットをお求めいただける日もありますので、ぜひお越しください!
2014年2月16日
場当たり
稽古場に別れを告げ、キャストの皆さんもいよいよ劇場入りしました!
本番と同じ舞台装置の中で、最後の詰めの稽古に入ります。
昨日、今日は、テクニカルチームとの合わせ作業=「場当たり」が行われました。
役者たちの演技と、照明や音響などのタイミングがきっちりと合うように、きっかけとなる台詞の確認や、立ち位置の調整などをする作業です。
演出の上村聡史さんと舞台監督の田中直明さん(声がマイルド!)を中心に、ところどころ止めたり、もう一度やり直したりしながら、綿密な調整が続きます。
また、今回は小道具がとてもたくさんあることから、「転換稽古」も入念に行います。
わずかな時間の中で、あっという間に転換が行われる様は本当に気持ちがいい!
お客様にお見せできないのが残念なくらいです。
そして、場当たり終了後、キャストが集まってノートタイム。
「ノート」とは、稽古中気になったことを皆で話し合うことです。
劇場に入ってから見えてくることも多く、初日に向けてこれからさらに芝居が深まって行きそうです。
2014年2月12日
いよいよ劇場仕込み!
本日、劇場の仕込みが始まりました。
これまでは地下の稽古場で繰り広げられていた「アルトナの幽閉者」の世界が、いよいよ劇場にて始動!!
照明、音響、大道具など各チームの無駄のない連携プレーによって、怒涛のように作業が進み、あっという間にゲアラッハ家ができあがります。
その一部を写真でご紹介しましょう。
まずは照明やスピーカーの吊り込みからスタート。
いつもは舞台上部にある「ブリッジ」や「バトン」を床面まで下ろして作業します。
吊り込みが終わったらブリッジを上げて、大道具立て込みの前に、まずはお掃除。
さて、いよいよ大道具を立て込みます。気づけば床が少し高くなっています!
(ネタバレのため、一部ぼかしています。ぜひ劇場へ見に来てくださいね!)
グレー~黒に塗られた壁をどんどん貼り合わせて…
このあと、重厚なゲアラッハ家が小劇場に出現しました!
美術の池田ともゆきさんの立会いの下、仕込みは今日でほぼ終了。
劇場のセットができていく過程は、本当にワクワクします。
明日からは照明や音響のテクニカル作業が待っています。
本番まであと一週間。稽古場も劇場も、熱がこもって来ています。
2014年2月10日
衣裳パレード、そして……Happy Birthday!!
去る2月9日、稽古場では衣裳パレードが行われました。
衣裳パレードとは、本番で着る予定の衣裳を皆で一斉に着て並び、各幕ごとに、色や素材感がお互いに調和しているかどうかを確認する作業です。ずらりと並んだキャスト達の前に、演出の上村聡史さんや衣裳デザインの半田悦子さん、ヘアメイクの川端富生さんをはじめ、スタッフがこれまたずらりと並んで、ああでもない、こうでもない、と微調整を繰り返します。
今回、一番時間がかかってしまった、3着を着ることになる美波さん。美波さんの衣裳は、今回の舞台にあわせて作ってもらったものが多いので、裾を上げたり、腕周りをタイトに修正したり。髪型もいろいろ変えてみます。それにしても、何を着ても美しい!見惚れてしまいます。
それから、やはり3着の北川響さん。北川さんは先日ご紹介したハインリヒ軍曹の他に、とても重要なお役目があるのです。この衣裳がなかなか難易度が高く…お話ししたいところですが、これは見てのお楽しみ。衣裳さばきの練習も含め、入念に調整していました。
さてその間、他の皆さんは、待機。
自分の出番が終わっても、今日は最後まで帰りません。
なぜならば、2月9日は我らが辻萬長さんの誕生日だからです!
しかもただの誕生日ではありません。御年70、古希です!!
ということで、衣裳パレードの後、ケーキとシャンパンでお祝いをしました。
作品に向き合う誠実な姿勢、存在感、70歳にしてこの台詞覚えの早さ。現場でいつもプロフェッショナルを示してくれる萬長さんは、アルトナチームの大黒柱です。
「KOKI 70」と書かれたTシャツをプレゼント、それを着て満面の笑みの萬長さん。
これからもパワフルに、そして陽気に、アルトナチームを引っ張っていってくださいね!
2014年2月7日
カリアゲ隊(クラーゲス中尉&ハインリヒ軍曹)
「アルトナの幽閉者」の主人公フランツは、第二次世界大戦での従軍体験が心の傷となり狂気に陥ってしまいます。劇中、その従軍当時の様子が回想されるシーンがあるのですが、そこに登場するのがこの2人、クラーゲス中尉(西村壮悟さん)とハインリヒ軍曹(北川響さん)。上官は皆死んでしまい、この2人にフランツ(フランツ・フォン・ゲアラッハ/岡本健一さん)を加えた3人だけで、軍の指揮を執らねばならない窮地に立たされるのです!捕虜の処遇について意見が対立し、結果フランツが取った選択は……。この物語のひとつのキモともいうべき出来事がここで描かれます。
さて、彼らはヒトラー率いるドイツ軍の兵士。「ハイル・ヒトラー!」という兵隊さんにならねばなりません。
西村さんに聞いたところ、彼らの所属部隊は、ドイツ第三帝国国防軍ソ連戦線第十二軍スモレンスク方面第七歩兵隊ゲアラッハ中隊だそう。長い!!そして覚えられない!!
そんなわけで、断髪式。
髪の毛を刈りました。
ヘアメイクの川端富生さんが出張って来て下さり、みごとに刈りあがりました!
岡本さんももちろん同じ髪型です。
外見が変わるだけで、ずいぶん印象が変わり、
稽古を見ているスタッフ(あ)は作品の世界により入り込んでしまいました。
でも、急に首周りが寒くなった彼らが、風邪をひかないか、心配も……。
明日の東京は大雪らしいです。
みなさんもどうかお気をつけて。
2014年2月5日
絶賛稽古中!!
2014年も早いものでもう2月。季節は立春を迎えました。
みなさま、はじめまして。新人スタッフ(あ)でございます。
今月19日初日の「アルトナの幽閉者」、ただいま絶賛稽古中です!!
実は12月下旬から少しずつ読み合わせを始め、年明けに本格スタートした稽古。
一筋縄では捕らえきれないサルトルの言葉たちと格闘する日々が続いています。
「ここ、感情の流れが全然わかんない~」
「サルトルは役者のこと考えてんのかっ!演じる方の身になってみろ!」
「この役なんて、そもそも理屈が通じないんだよね…。」
そこかしこで、こんな言葉が飛び交いながらも、演出・上村聡史さんを中心に皆でたくさんの話し合いを重ね、サルトルの台詞を紐解いていく毎日……目下、真面目に誠実に四苦八苦中です。
さらにさらに、この「アルトナの幽閉者」、細かいト書きが非常にたくさんあります。
たとえば、
(若く優しく愛情に満ちているが不安な声)
(彼は一種の興奮状態で話す、まるで重大な秘密を打ち明けるかのように。実際は、その場で言うことをこしらえながら喋っている)
(彼は凶暴な口調を取り戻し、霊感を得て)
などなど。
それってどんな状態!?という感じですよね。
実感として捉えにくいト書きも多く、キャストの皆さん、読み合わせの段階では、まず台詞に集中して、役の生理を理解しようと努力を重ねていました。
が、立ち稽古が始まり実際に動いてみると、不思議なことにこのト書きが腑に落ちてくるそうなのです!読んでいるだけでは理解できなかったことも、身体を通すと見えてくる。戯曲が立体として立ち上がる瞬間。演劇の醍醐味ですね。そんな瞬間に立ち会える毎日にスタッフ(あ)はもうドキドキです。
哲学者、文学者として名高いサルトルの戯曲だけに、実に様々なテーマが織り込まれたこの作品。稽古が深まるほどに新たな発見が増え、どんどん面白くなっています。
今月何を観ようかな~、と思案中のそこの方!
ぜひ初台にお越しください!!
2013年12月20日
辻 萬長 紙面インタビュー
僕らは純粋に、
このドラマ、
この会話の面白さを
伝えなきゃいけない
辻 萬長
『出口なし』とか『恭しき娼婦』は読んだこともあったけど、この作品は読んでなくて。サルトル全集を買い込んで読みました。翻訳劇をやるときは、訳の違うものをいくつか比べて、参考にしたりもするんです。どっちが正しいとかじゃなく、ちょっとした訳し方の違いから、分かってくることがある。といっても、新しくもらった台本の方が、分かりやすいんですけど。
読んでて難しいなと思ったのはやっぱり、フランツと親父の関係。俺も息子が二人いるから分かるんだけど、親父って息子が心配なんです。だからこの父親にも「厳格」って言葉でカモフラージュされた愛情、過保護、みたいなところがあるんじゃないのかな。そんな関係性を基本に持っていれば、二人の会話もどんどん豊かに膨らんでいく気がします。個人的には、最後に父と息子が対決した後、そろって家を出て、っていう終幕の心理がもう少し掴めるともっと楽しくなれるんだけど……それはまだこれからの作業です。
ただ、ちょっと気になってるのは、この戯曲ってト書きが多過ぎるんだよね(笑)。「と、そこで煙草を消して」なんてことまで書いてある。でもそれにとらわれず、いったん言葉だけを頼りにこの作品を掴む作業はしておこうと思います。フランスの演出家でいいこと言った人がいてね。「戯曲は竹林のようなものだ」って。地上にスッと出ている竹が台詞で、「一見その間が飛躍しているように見えても、地下では必ず繋がっている。どうしてこの台詞の後にこの台詞が出てくるの?なんて疑問が出てきたら、筍のもとを掘ればいい。その作業が面白いんだ」って。まさに、その通りです。
演出の上村さんは、こまつ座の芝居で鵜山(仁)さんの演出助手をやってくれたことがあって。鵜山さんも彼には一目おいて、いろいろ相談しながら物事を進めていたし、僕も信頼しています。彼も「じゃあ、ト書きの通りここで右に」「今度は左にお願いします」なんて言うタイプじゃないと思うしね。「どうなんだよこれ」「そうですね、じゃあ……」「いや、でもね……」なんてやりとりのある状況を皆で作れれば、すごく面白い芝居創りになるんじゃないかなと思います。(岡本)健一とは前にも共演したけど、自分の考えてきたことをまっすぐぶつけてきてくれるし、こっちから投げたものもちゃんと受け止めて、返してくれる。お互いよく分かっているし、なんの心配もしていません。
ナチスを題材にした作品なんていうと、日本のお客さんは、「難しい」「分からない」なんて、ちょっと引いてしまったりもするかもしれない。でも、だからこそ僕らは、まず純粋にこのドラマ、この会話の面白さを伝えなきゃいけないし、「『アルトナの幽閉者』って知らなかったけど、こんな面白いんだね」と思ってもらいたいんですよ。
2013年12月17日
岡本健一 紙面インタビュー
第二次世界大戦後の西ドイツを舞台に、戦争で勢力を増した実業家の父親と、戦争体験のトラウマから自室に引き籠もり続けた青年の対決を描いた、サルトルの『アルトナの幽閉者』。
戦争が社会や個人に残した爪痕、その責任の行方、さらには家族内の愛憎までが加わり、複雑に織りなされた戯曲に、俳優たちはいかに向き合うのだろう。
リアルな感情を伝えられれば、
言葉の洪水も楽しんでいただけるはず
岡本健一
十代の頃はよく、哲学書や精神世界について書かれた本を読み漁っていて、サルトルも読んではいたんですが、戯曲を書いていたことまでは知りませんでした。実際に読んでみると、一つの物事に対して、まるで万華鏡のように、たくさんの表現や捉え方が出てきて。さすが歴史に残る作家だなと改めて気がつかされました。フランツと妹との近親相姦的な関係にもドキドキさせられるし、部屋から出て父親と対面する場面のやりとりもスリリング。だから、一つひとつの言葉の意味や文脈を読み解いて「正解はこうだ」と考えるよりも、怖かったり悲しかったり、ちょっと性的なものを感じ取ったり……その一瞬一瞬で自分が感じたことをそのまま、客席に伝えられればいいのかなと思います。
フランツは大変な経験をし、精神的なバランスを失っている人物ですが、言っていることは案外まともで、全くの狂人というふうには思えません。ユダヤ人たちを助けたかったという思い、その正当性が現実に太刀打ちできなくなってしまったこと、そこから生まれる良心の呵責が、彼を表に出られなくしてしまったんじゃないのかな。そういう意味では、この物語が始まるまでに彼に何があったのか……自分なりにそれをさかのぼり、身体にしみ込ませておくことも重要な作業になりそうです。
もちろん、僕が作り込んだところで、すべてが伝わるわけではないし、何がいちばん痛烈な印象を残すのかはお客さんそれぞれの感じ方によっても違ってくる。ただ、僕自身は、舞台をやるなら、目の見えない人や耳の聞こえない人にも伝わるような芝居をしたいと常々思っているんですよね。これは外国人の演出家と仕事をして学んだことですけど、どんなに台詞回しを工夫したり、表情を変えても真実を持っていなければダメ。逆に、一つひとつの台詞、対話から生まれてくる感情を大事にしていれば、言語の壁なんてなんでもないんです。だから、稽古場で生まれるリアルな感情を、たとえば見えない人には声だけでも、聞こえない人には姿からだけでも伝えられるようにできれば、この膨大な言葉の洪水も楽しんでいただけるんじゃないでしょうか。
『ヘンリー六世』しかり『リチャード三世』しかり、新国立劇場では、学ぶことの多い、知識としても身になる作品ばかりやらせていただいています。自分が演出する場合もそうですが、優れた作家の作品って、やっぱり勉強になるし、楽しい。それこそ、若い頃には背伸びして、メジャーな仕事をやればやるほど、アンダーグラウンド的な匂いのするものや古いものに憧れて、「映画は50年代以前のものじゃないと」なんてよく言っていたものですけど、今ようやく当時の思いに通じる作品に向き合うことができているのかもしれません。そう考えると僕は幸せですよね。この幸運にはちゃんと応えないと。
2013年12月6日
演出家・上村聡史 紙面インタビュー
新進気鋭の演出家との共同作業を通し、戯曲と観客をつなぐ“演出”の役割と可能性を見つめ直すシリーズ、「Try・Angle-三人の演出家の視点-」。そのラストを飾るのは新国立劇場には初登場となる上村聡史(文学座)による『アルトナの幽閉者』だ。
第二次世界大戦後の西ドイツを舞台に、戦争のトラウマから自らを邸の一室に閉じ込めた青年と、実業家の父らが繰り広げる愛憎劇。「産みの苦しみを味わいたかった」と語る、骨太な作品選びに込められた企みとは―。
インタビュアー:鈴木理映子(演劇ライター)
千年先の人類をも見通した、
悲劇的に見えて実はコミカルな
戦争と個人、家族の愛憎の物語
新国立劇場では、演出助手としてこれまでに4回ほど仕事をしています。ですからここは、文学座に続く「第二の学び舍」。若いうちからいろんな勉強をさせてもらった場所だけに、自分のやりたい作品と劇場のカラーとがとうまくマッチングした舞台にしたいという想いは強くあります。戯曲選びにあたっては大きな視点を持って書かれた作風であること、そして批評性が強い物語であることを第一に考え、迷わずサルトルを取りあげようと決めました。『アルトナの幽閉者』は、戦争と個人といった大きなテーマを持ちながら、同時に家族という小さな共同体の愛憎を描いていて、その振幅のダイナミックさが、とても魅力的でした。戦争をめぐる責任のありか、家庭内の複雑な人間関係……確かに書かれている言葉は難しいし、論理の対立を追うだけではドラマにならない苦しさもある。でも表面上は難しい対話の裏にも実は、主人公・フランツと義妹・ヨハンナの恋の駆け引きがあったりするんです。息詰る対話のやりとりの中に「やっぱり好き」「嫌い」とかっていう感情が顏を出す。「そんな偉そうなこと言っておいて、所詮は個人的な気持ちかよ!」と思わずつっ込みたくなるような人間の愚かさや愛らしさが、時に笑えるしドキドキしちゃいます(笑)。悲劇的に見えながらもコミカルなブールヴァール劇のような質感を持つ戯曲。だからこそ鮮やかに、人間の恐ろしさと滑稽さが見えてもくるんですよね。
幅広いジャンルを横断し、そのたびにさまざまな表情を見せる岡本健一さんは、純心と矛盾を孕んだフランツにぴったりですし、柔らかい口調の中にも芯の強さを感じさせる美波さんも、本当の自分と他者が作り上げるイメージの間でもがく元女優・ヨハンナにぴったりだと思います。そして、大きな父性と、井上ひさし作品でならしたユーモアと軽やかな味わいを併せ持つ辻萬長さん。これだけ理想的なキャストが揃えばきっと、重苦しい中にも滑稽さが覗く、魅力的なアンサンブルができるのではないでしょうか。
この作品はサルトル最後の創作劇で、どこか人生の終わり、死を意識したような感覚を持ってもいます。たとえば、フランツは部屋の中に引き蘢って「30世紀」の人々に向けたメッセージをテープに吹き込んでいます。彼は戦争加害者であると同時に、ナチスに従わざるを得なかった被害者でもありますが、そんな苦悩など、長い歴史や大きな宇宙から見ればほんの小さな点でしかない。それでも彼三千年後に向けて、自分の存在の証を残そうとするんです。こんなふうに単なる政治と個人の対立の物語、人間の苦悩というだけでなく、千年先のまだ見ぬ人類の未来を意識したこの戯曲を上演することに、ひときわ面白さを感じてもいます。宇宙の側、時間の側から見た人間。そんな視点を持ちながら、サルトルならではの味わいを出していければいいですね。