オペラ研修所ニュース

指揮・星出豊氏インタビュー③ オペラ『領事』鑑賞術 partⅢ

自由を求めて

メノッティ氏は、スペイン・グラナダ出身のガルシア・ロルカという、詩人であり劇作家であり音楽家でもある芸術家を尊敬していました。ロルカはメノッティ氏とほぼ同世代の自由を求めて活動した人物でしたが、1936年スペイン内戦勃発時に、彼のリベラルな作品とその言動のため、ファランヘ党員によって38歳という若さで銃殺されてしまいます。ロルカの「自由」の思想を愛していたメノッティ氏は、この『領事』の中でも度々「自由」という言葉を登場させています。ただ「自由」というのは非常に難しい概念ですよね。


この作品の中で、様々な国の人たちがそれぞれの理由で自由を得るために、ビザを求めて領事館にやって来ます。「Horizon」、つまり国境というものに対して、登場人物の皆がそれぞれの葛藤を抱えています。

そして、この物語の主人公夫婦、ジョンとマグダは国境を越え、この国から逃れて自由の国に行きたいと思っています。

秘密警察から逃げて、国境付近でビザを待って潜伏しているジョンが、マグダの元に戻れば殺されてしまうので、マグダは自分が死んでしまえば、ジョンは家には戻らないと考え、愛ゆえの自死を選びます。しかし、ジョンは愛ゆえに戻ろうとして結局殺されてしまうのです。

ここで、自由を求めて銃殺されてしまったガルシア・ロルカとジョンの姿が重なります。


最後に登場人物たち全員が現れて「Horizons, Horizons」と歌いますが、意味がよくわからないので、メノッティ氏に尋ねました。しかし彼は「それは個々人が考えること」と答えるだけでした。


メノッティ氏は基本的に戦争に反対の立場を取っていました。イタリアからアメリカに渡り、この地で長く暮らし活動していましたが、戦時中も帰化せずアメリカの敵国のイタリア人のままでした。そして戦争が終わり、アメリカはこのイタリア人作曲家に建国200年のミサ曲を依頼します。アメリカは彼が求める自由を認めているわけですね。


今も思い出すのは、神経質ではあるけれど、とても温かいメノッティ氏の人柄です。1974年に彼のオペラ『霊媒』を指揮した際には、最上級の賛辞を贈ってくれました。

回転直筆サイン.jpg

▲星出氏の『霊媒』スコアの最後にメノッティ氏直筆のサイン。
bellissimaと最上級の賛辞の言葉が書かれている。



★『領事』公演日時:7月17日(日)14:00、18日(月・祝)14:00
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