INTERVIEW & COLUMN
インタビュー & コラム

<インタビュー>
ローゲ役 
ステファン・グールド

ローゲ役 ステファン・グールド

2015/2016シーズンから、ゲッツ・フリードリヒ演出「ニーベルングの指環」がスタート。最初の演目『ラインの黄金』が10月に上演される。注目は、世界的なヘルデンテノール、ステファン・グールドが『指環』4作品すべてに出演すること。『ラインの黄金』でグールドはローゲ役に初挑戦する。4作品に出演することについて「夢が叶った!」と語るグールドに、公演への意気込みをうかがった。

ジ・アトレ6月号より

ステファン・グールド 
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力強く、複雑で、頭の良すぎる人物としてローゲを演じたい

─新国立劇場で2006年『フィデリオ』フロレスタンに始まり、その後『オテロ』タイトルロール、『トリスタンとイゾルデ』トリスタンに出演されたグールドさんが、今年10月に再び新国立劇場にワーグナーで帰ってきてくださいますね。とても楽しみです。

グールド(以下G) 楽しみなのは私のほうです。大好きな新国立劇場、そして日本にうかがうのを今から楽しみにしています。それも今回は私にとっては新しいワーグナーの役柄となるローゲの申し出をいただいて、光栄に思っています。

2010年新国立劇場「トリスタンとイゾルデ」より
©三枝近志

─バイロイトはもちろんのこと、世界的な歌劇場で歌われているグールドさんから見て、新国立劇場はいかがですか。

G とてもプロフェッショナルで、革新的な仕事ぶりが素晴らしい歌劇場です。テクニカル面におけるレベルの高さにはいつも感心させられます。でもそれだけではありません。音楽面においても、音響においても、人材においても、すべてが信頼に足る、唯一無二のステージワークです。今まで歌ってきた他のステージと比べても、歌うのが楽しみになる劇場です。

2010年新国立劇場「トリスタンとイゾルデ」より
©三枝近志

─このたび新国立劇場で新制作する「ニーベルングの指環」でグールドさんは、『ラインの黄金』ではローゲ、『ワルキューレ』ではジークムント、『ジークフリート』と『神々の黄昏』ではジークフリートを務めるそうですね。このキャスティングは非常に珍しいかと思います。オファーを受けたとき、どのように思いましたか?

G 夢が叶った! といった感じです。ヘルデンテノールが4作品でこれらの役を歌うことは過去にはありましたが、近年ではあまりありません。テノールの4つの役すべてにたまらなく詩的な美しさがあります。

─ローゲはステファンさんにとって初役とのことですが、ローゲとはどのような存在と考えていますか。

G 『ラインの黄金』は、ワーグナーの念頭に最初からあった作品ではなく、「指環」の構想を考えた際に作られた作品です。それは、聴衆がこの楽劇を観る上で、登場人物の紹介が必要だろうと考えた結果でした。
 そして『ラインの黄金』において、ローゲは、これから起きる壮大なドラマへと我々を誘う大切な役割を果たす重要な人物です。ローゲは、神話の中のいたずら好きな悪賢い神ロキと、火の化身ローギを一緒にしてワーグナーが作り出した神です。ただ、演劇上は重要な役回りですが、声楽的には必ずしも難しくありません。戦前、そして戦後間もない頃は、この役はヘルデンテノールが歌っていたのですが、なぜか近年はもっと軽めの声、キャラクターテノール等によって歌われることが多いですね。それだけに新国立劇場からこの役のオファーをいただいて、とても嬉しかったです。

─確かにローゲは『ラインの黄金』にしか出てきませんね。

G ヴォータンはローゲが賢く、難しい状況も解決できる存在と評価しています。そしてなによりもローゲが火の神であることは、『神々の黄昏』ですべてを焼き尽くし、破壊するのが火であることを考えれば、とても意味が深いことが分かります。ローゲをただコミカルに、あるいはコメントするだけの役柄として演じたくありません。もっと力強く、複雑で、知性的、というよりも頭の良すぎる人物と考えています。演じる上ではとても面白いキャラクターです。
 個人的にはジークフリート・イェルザレムがメトロポリタン歌劇場で歌ったローゲが印象的でした。ユーモアがありながら、重厚さと神々しさもあり、この役には暗めの声の方が向いていると思わせるものでした。

ワーグナーの作品の登場人物は
演じるたびに新たな発見をもたらしてくれます

─では父ジークムントと、息子ジークフリートの両方を演じられる場合、アプローチの仕方は変わりますか。

G ジークムントとジークフリートを演じ分けるのは難しいことではありませんし、両方を演じるからと言って解釈が変わるものではありません。
『ワルキューレ』のジークムントは、どちらかといえば理解しやすく、演じやすい役柄です。彼は家族、そして親と接点があり、社会の中における自分の立ち位置を求めています。ジークムントはしっかりとした芯のある、強いキャラクターです。
 ジークフリートはもう50回も歌ってきましたが、難しいキャラクターですね。彼には過去がなく、両親のことも知らない。まるで無地のキャンパスのようであり、同時に野生動物のようでもあります。森で育った自然の落とし子のような存在です。その彼が『神々の黄昏』では社会というか世俗的な世界の影響を受けて、愛すべきキャラクターではなくなってしまいます。いずれにせよ、『ジークフリート』の中のジークフリートは、分析しすぎると見失ってしまう役です。瞬間ごとに焦点を合わせて、刹那を生き、過去も未来もわからないキャラクターとして演じなくてはなりません。でも『神々の黄昏』では52回、『ジークフリート』では50回ジークフリートを演じてきました。

─そんなに何度も演じていると、役を一度空っぽにする、あるいは新鮮に演じるのが難しくありませんか。

G ワーグナーの作品の登場人物は、シェイクスピアの演劇の中の登場人物と同じで、演じるたびに新たな発見をもたらしてくれます。『リア王』しかり、黒澤映画しかり、何度見ても、何度演じても、常に新しい発見がもたらされるところが素晴らしいのです。傑作とはそういうものだと思います。
 素晴らしい作品という意味では、日本の能舞台を一度見てみたいと常日頃から思っています。もちろん日本人でない私はしっかりと予習をしていかなければなりませんが、それでも見る価値のある伝統芸術だと思います。

2009年新国立劇場「オテロ」より©三枝近志

─日本にいらしてもなかなか旅行をする暇はないようですね。

G ええ。郊外、そしてぜひとも京都に行きたいと思いつつ日本を後にすることが多いのが残念でなりません。でも東京にもお気に入りのレストランがありますし、デパ地下にも出没しますよ。デパ地下で買い過ぎて、ホテルの冷蔵庫に入りきらなかったこともあります(笑)。

2009年新国立劇場「オテロ」より©三枝近志

─グールドさんは、相撲がお好きだそうですね。

G 相撲はヨーロッパでも毎場所楽しみに見ています。『オテロ』のときはちょうど場所中で、毎日テレビで見ていました! 先場所も白鵬を脅かす若手が出てきたかな、と思って注目していましたが、白鵬の勢いを止めるにはまだ力不足のようですね。

─最後に日本のオペラ・ファンにメッセージを。

G 聴衆の皆さんはもちろんのこと、新国立劇場の皆さんに再会する日を心から楽しみにしています。「ニーベルングの指環」の全演目に出演することが決まって、私自身とても興奮しています。3シーズンを日本で過ごしますが、皆さんの期待を裏切らない、心に残る「指環」を楽しんでいただけると信じています。

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