INTERVIEW & COLUMN
インタビュー & コラム

<インタビュー>
ヴォータン役 
ユッカ・ラジライネン

ヴォータン役 ユッカ・ラジライネン

注目の新制作『ラインの黄金』のヴォータンを歌うのは、ユッカ・ラジライネン。キース・ウォーナー演出『ニーベルングの指環』にも出演した“新国立劇場のヴォータン”の登場である。フィンランド人のラジライネンは、フィンランド国立歌劇場でゲッツ・フリードリヒ演出『指環』に出演したことがあり、過去の「ジ・アトレ」のインタビューでも、最も印象深い演出家としてフリードリヒの名を挙げている。フリードリヒ演出『指環』は「私のヴォータン像にいろいろな意味で影響を与えた」と語っていたラジライネンに、ゲッツ・フリードリヒについて、そして『ラインの黄金』についてうかがった。

ジ・アトレ5月号より

ユッカ・ラジライネン 
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太陽の神、戦いの神がたどりつくのは“諦め”

─ラジライネンさんは、フィンランド国立歌劇場のゲッツ・フリードリヒ演出『ニーベルングの指環』に出演されたことがあるそうですね。フリードリヒ氏のリハーサルはどのようなものでしたか? フリードリヒ氏は厳しい人だった、という方もいますが。

ラジライネン(以下R) あれは1996年のことでしたが、彼はいつでも完璧なまでに準備をして舞台に臨む人でした。ですからどんな質問に対しても即座に返事が返ってきたのを今でもよく覚えています。
 彼は確かに厳しい人でした。でもそれは、我々をさらに上のレベルへ導いてくれる「厳しさ」でした。私自身、彼から投げかけられた言葉の意味が理解できた途端、思わず微笑んでしまい、それを見た彼が微笑み返してくれたことがあります。彼は芸術家の成長のためにいろいろな術を使い、その成長を共に喜ぶような演出家でした。その言葉は、人によっては意地悪にさえ聞こえたかもしれませんが、真の意味が分かれば、それは意地悪でも皮肉でもなく、とても建設的なことを示唆するものでした。芸術家は甘やかされたら育ちません。彼との仕事はとても刺激的であり、それゆえに出来上がる舞台もとても面白いものとなりました。

─その舞台で描かれるヴォータン像はどのようなものなのでしょう。

R キース・ウォーナー演出では日常的な要素があふれ、ヴォータンは“人間”として描かれていましたが、フリードリヒ演出では、ヴォータンはあくまで“神”として描かれています。それも『ラインの黄金』のヴォータンはまだ若く、未来を信じ、輝かしい神になろうとしています。ただ、若さゆえの間違いも犯してしまいますが。フリードリヒ氏はこの時期のヴォータンを“太陽の神”と表現していました。それが『ワルキューレ』以降では、成熟し、さらには辛辣さも身につけていきます。結婚も破たんします。この頃のヴォータンは“戦いの神”となるのです。しかし、さらに上り詰めた為政者がたどりつくのは、結局は“諦め”なのだ、ともフリードリヒ氏は話していました。この時に、彼が自分自身の人生になぞらえて話していたことをよく覚えています。彼の人間考察には大変鋭いものがあり、とても勉強になりました。

─具体的に、フィンランド国立歌劇場でのフリードリヒ演出『ラインの黄金』はどのような舞台なのですか?

R 一言で言って、とてもエレガントな舞台です。そしてそのエレガントな空間には余計なものがなく、色彩と光が感じられ、ワーグナーの音楽と登場人物がその空間を満たしていくのです。もちろんそこにはワーグナー独特の内的なユーモアも描かれていますし、象徴的な表現もなされています。例えば雷神ドンナーにボクシングのグローブを持たせてその力を象徴し、他の神にも何かシンボリックな物を持たせたりしています。彼がベルリン・ドイツ・オペラで演出したトンネルを用いた舞台とは全く違いますが、ここではこれ以上具体的なお話をするのはやめておきましょう。ぜひとも劇場に来て、実際に見ていただきたいですからね(笑)。

ワーグナーの物語をどのように語るのか、
何を新しく伝えられるか、それが大切

─ワーグナーの音楽は、実際に舞台で歌うと、その素晴らしさを改めて感じると言われますが、ラジライネンさんもそのように感じますか?

R ええ。『指環』はワーグナー作品の高みにあり、その音楽を注意深く聴けば、今何を考えたらいいのか、動くべきか否か、が自然と伝わってきます。ワーグナーは、舞台上で何をすべきなのかを明確に音楽の中に記しているのです。その構成は綿密でありながら、新たにメッセージを語るスペースも残されています。フリードリヒ演出の舞台でも、どのようにワーグナーの描いた物語を語るのか、そしてそこに何を新しく伝えられるのか、が大切であり、その観点に沿ったものであれば私の提案でも彼は受け入れてくれました。ワーグナーの音楽は声楽家に多くのことを求めますが、それだけの価値のある素晴らしい音楽です。

─その上、ヴォータンは片目で歌わなくてはなりませんから、それも大変ですね。

R そうですね。歌う上では片目がふさがれていることは障害にはなりませんが、階段が曲者ですね。それから舞台の外も危険地帯です(笑)。舞台上は照明があって明るいですし、音楽もあり、眼帯の隙間や眼帯越しにかすかに見えるだけでなんとかなるのですが、舞台の裏側や袖は暗いですし、いろいろなコードとかもありますし……。転んで歌えなくなったら大変ですから。それはそれで気を使いますね。

2009年新国立劇場「ワルキューレ」より©三枝近志

─ところで、もしも別の音域の声であったら、ぜひ歌いたいと思う『指環』役はありますか?

R その質問は初めてです(笑)。今の声域で不満はないので、考えたことはありませんね。『指環』の役ではありませんが、昔、ニコライ・ギャウロフが似た質問を受けて、「ツェルリーナを歌いたい。苦労せずにたくさん拍手をもらえるのがまたいい」と話していたのを思い出しました。苦労があるかないかは別として、ライト・ソプラノの役はとてもハッピーで、ちゃっかりと人生を楽しんでいるような役が多いですし、愛される役柄の音域でいいですね。バリトンで愛される役はなかなかないですから……。ですから、どうせならバリトンと対極の役がいいかもしれませんね。ただし、テノールの役はないです(苦笑)。

2009年新国立劇場「ワルキューレ」より©三枝近志

─ラジライネンさんは、新国立劇場ではキース・ウォーナー演出『指環』や『トリスタンとイゾルデ』と、数多く出演なさっています。バイロイトをはじめ、世界的な歌劇場で歌われているラジライネンさんから見て、新国立劇場の印象はいかがですか。

R バイロイトは、確かにオーケストラ・ピットの構造も他の劇場と違いますし、他に類をみない独特の雰囲気を持っています。でも、私は、新国立劇場で歌うことをいつもとても楽しみにしていますよ。何と言っても、スタッフの方々がとても優秀で、歌っている最中に舞台裏の装置や空調の音に煩わされることがありませんからね。皆さんは驚かれるかもしれませんが、上演中に、客席には聞こえなくても、舞台上では装置の音があちこちからする、なんてことは世界の劇場で結構あるのですよ。それから、オペラを愛してやまない素晴らしい聴衆の皆さんが新国立劇場にはいらっしゃいます。とても真剣に集中して聴いてくださるので、音楽に専念して歌うことができます。音響も見事ですし、本当に素晴らしい劇場です。日本にうかがうのを今から楽しみにしています。

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