シアター・トーク
[特別編]レポート


シリーズ・同時代【海外編】スペシャルイベント
シアター・トーク[特別編] 「昔の女」


3月14日(土)新国立劇場小劇場
出席 ローラント・シンメルプフェニヒ(ドイツ・『昔の女』作者)
    倉持 裕(『昔の女』演出)
    大塚 直(『昔の女』翻訳)
    鵜山 仁(演劇芸術監督)
    新野守広(ドイツ演劇・現代戯曲研究会メンバー)<司会進行>
    (通訳:蔵原順子)

文化のクロスオーヴァーが美しい(シンメルプフェニヒ)

新野●シンメルプフェニヒさんに伺いたいのですが、その前に簡単にご紹介します。1967年ドイツのゲッティンゲンで生まれ、ドイツでは兵役がありますが、代わりに社会奉仕活動をされて、その後ジャーナリストとしてイスタンブールに滞在。それから後に演劇学校に入られ、卒業後演出助手として舞台に関わりながらフリーの劇作家になったというキャリアの方です。ドイツでは中堅の劇作家で、常にドイツのどこかの劇場で作品が上演されています。ドイツの劇作家としては多作な作家で、ラジオドラマやオペラにも作品を提供しています。今夏のザルツブルク芸術祭で上演される『バッカスの信女』(ユルゲン・ゴシュ演出)の翻訳も担当されています。
さて、シンメルプフェニヒさん、『昔の女』の東京上演は、いかがでしたか?
ローラント・シンメルプフェニヒ シンメルプフェニヒ(以下S)●今回の東京での上演は、すばらしいものです。ある意味、驚きもありました。それは、私の作品が日本の文化に置き換えることができたという驚きです。同時に、日本的な見方でのこの作品の扱い方、日本特有の美学を盛り込むことができるのだという、この2つの点でプラスの意味での驚きがありました。今回の舞台を見て、文化のクロスオーヴァーが美しい形で成功するのだと感じました。演出については、この作品が持つ色彩を美しく描いていただいたことをうれしく思います。この作品は喜劇でありメロドラマであり、同時に悲劇でもあります。これが平行してきちんと表現されているのがうれしいですね。ドイツでは演出家が1つの演出様式に凝り固まってしまう、1つの演出方法に押し込めてしまう場合があります。演出家自身が持っている様式に押さえ込めようという傾向です。今回の上演は、そのような傾向は見当たらず、作品のいろいろな色彩がきれいに平行して描かれています。
新野●日本的な見方はどのようなところに感じられましたか?
S●いくつかの場面は私が見た日本映画を思い出させました。例えば、ロミーがアンディを殺すところ、彼女が箱の上に立ってアンディを見ている様子にそれを感じました。そして、舞台全体の美術や役者さんの動き方にもそれを感じました。ドイツ人俳優との動き方とは違う動きがありました。身体的なトレーニングが違うのかもしれません。
新野●シンメルプフェニヒさんの作品は多くの国で上演されて、ご本人も立ち会われています。どのような国や都市で上演されていますか?
S●これまでに、パリ、ロンドン、ポーランド、ハンガリーでも上演されました。いずれも異なる演出、舞台でした。パリの演出家は、アルゼンチンとポーランドの血が流れるユダヤ人女性で、多彩な背景を持った方で、彼女の活発な気質が演出にも現れていました。ロンドンの演出家は、典型的なイギリス紳士で、イギリスの伝統演劇のスタイルにのっとっていて、控えめで慎重さを感じる演出でした。面白かったのは、この作品では妻が夫に3回平手打ちを食らわしますが、イギリスでは"適切ではない"と受け止められたようです。一方、フランスでは喜んでいた風で、楽しんでいたふしがありましたね。国によっても演出家によっても捉え方が違いました。1つの作品に対して、人々がどのような向き合い方をするのかは作家として興味深いですね。人々がどのような感情を出せるのか。短い時間でどれだけ感情を出せるかということです。私は、より多くの感情を盛り込む作品を作っています。