2009年、小川絵梨子さんが訳して演出なさった『Zoo Story』と、私が翻訳を担当した『TEA』という芝居とが二本立てだった折に下北沢の打ち上げの席で初めてご挨拶を交わし、その2年後に同時に翻訳戯曲賞を受賞したのが次のご縁。
今回同じ作品に携わることができるのは、私にとってまさに念願かなった三度目の正直のご縁となります。
とはいえ、翻訳と演出を自在にこなす小川さんに、他の翻訳担当が一体何をもって加勢できるのかと考えはじめると、
ただ喜んでばかりもいられません。
さて、どうしたら? そういえば、経験豊かな弦楽四重奏団を描く今回の作品『OPUS /作品』で登場人物たちは、単独で脚光を浴びる独奏ではなく、合奏でしか得られない妙なる響きの至福を求めています。
その芸術の自由さとのびやかさを愛しています。きっと芝居作りも同じはず。
自分もまた今回の上演を豊かにする弦の一筋となることができればと考えています。
『OPUS /作品』は、或るカルテット(四重奏楽団)についての物語。一時は脚光を浴びたものの、今は下り坂のカルテット。音楽家としての自負と不安、プライドと嫉妬、理想と現実。その狭間で揺れながら、芸術家として生き残っていくために、彼らは何を選択していくべきなのか。
これは、音楽を愛する男女が、自身の誇りと生き残りを賭けて葛藤する様を描いたシニカルなコメディです。
カルテットのメンバー達は互いに信頼と尊敬で結ばれています。しかし一方、プロフェッショナルとして情に流されない厳しさも必要とされる。個人では拮抗しながらも、カルテットとしては調和を保たなければならない。メンバー同士が繰り広げるパワーゲームは、どこか哀しく、どこか可笑しい。
人間関係の危ういバランスを緻密に軽妙に描きつつ、シビアさのあるコメディにしたいと考えています。
一人で奏でる音よりも、四人で奏でる音楽を愛しながらも、不和と衝突は避けられない。
個人と全体の調和の狭間で揺れる葛藤を、丁寧に鮮明に描きたいと思います。