作:デーア・ローアー
翻訳:三輪玲子
演出:岡田利規
出演:吹越 満
柴本 幸
鈴木浩介
内田 慈
広岡由里子
海外の優れた現代戯曲を日本の注目演出家により紹介する、シリーズ・同時代【海外編】の締め括りとして、岡田利規演出による『タトゥー』(日本初演)が登場します。
演劇カンパニー・チェルフィッチュを主宰し、若者を象徴するようなリアルな言語、独自の身体表現で演劇の新たな姿を提示し、第49回岸田國士戯曲賞を受賞した岡田利規。2008年4月にデビュー小説集が第2回大江健三郎賞を受賞、11月には安部公房の名作『友達』の演出とさらに活動のフィールドを広げました。
本作『タトゥー』は、ベルトルト・ブレヒト賞を受賞した現在ドイツ演劇界を代表する新鋭女流劇作家デーア・ローアーの出世作となった1992年発表の作品であり、ある秘密を持つ閉ざされた家族の愛憎をややグロテスクに描きながら、作者独特の詩的センスと劇的言語によって近代化された社会に残存する複雑な心理を浮かび上がらせ、「テアター・ホイテ」誌の年間最優秀新人劇作家に選ばれるなど、欧米でも多くの賞に輝いた話題作です。
また舞台美術はベルリン在住の現代美術作家で、2007年度の芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞した塩田千春が手がけます。何気なく目にする日常の事物に、死の恐怖と生の迫力を同時に付与した作品で観るものを魅了する舞台美術も必見です。
吹越満をはじめとした5人の実力派キャストによる、海外の最先端の演劇との出会いにどうぞご期待下さい。
気さくで働き者で家族思いの父、家事と仕事を両立しながら控えめに家を支える母、仲良く喧嘩するしっかりものの姉とやんちゃな妹、どこにでもある普通の平穏な家庭、それはこの家族の一表面であると同時に「なんとしても失いたくない」心の拠り所になっている。その願いの陰で行われる父の蛮行。
長年かけて築いてきた温かい家庭の体面を保ちたい母ユーレは、娘の犠牲を見て見ぬふりをするが、自分を統括しきれず自虐行為で発散する。そんな母を軽蔑し、父の愛が姉だけに向けられているのを妬む妹ルルは、自分の未熟とコンプレックスを攻撃性に変える。家族のため、家族が崩壊したら困る自身のため父との関係を受け入れる姉アニータは、平穏な日常と残酷な悪夢の間を行き来する。マイホーム・パパを自負する父ヴォルフは、家族の依存心を利用して野蛮な慣習を正当化し、強大な支配力を発揮していくが、実はそんな家族に誰よりも依存しているのがこの父であった。
そんな日常の中、花屋の店員パウルとの出会いによって、アニータに訪れたまたとない「機会」は、諦めかけていた未来への希望を蘇らせるが……。