鳥瞰図−ちょうかんず−

失われた海をめぐる、ある家族の夏
新国立劇場初登場の若手劇作家と異世代の演出家とのコラボレーション企画「シリーズ・同時代」。第一弾は、劇団サスペンデッズを主宰し、その独特の言葉使いと笑いのセンスが注目を集める新進気鋭の作家早船聡と、所属する文学座のみならず、ミュージカル演出など幅広く活躍する松本祐子がタッグ組みます。

東京近郊のある港町を舞台にした、埋め立てられた海をめぐる家族の物語。失われた海、失われた命、失われた愛…。この町で三代続く船宿を営む家族を中心にそれを取り巻く人々が、それぞれの「失われた何か」を見つけるために過ごしたある夏の日が描かれます。

ものがたり

その町は4分の3が埋め立てた土地で出来ている。かつて住民の多くは海から生活の糧を得ていたが、工業化による汚染と経済成長のなかで海に生きる選択肢を捨てた。埋め立てた土地には高層ビルやマンション、遊園地などが建設され、貧しかった町は豊かになった。
古い側の土地にある釣り船宿「升本」は、三代続く老舗だ。新しい土地に移り住んで来たサラリーマン、元漁師の老人など常連客相手に細々と営業している。経営者である女将の悩みは、息子が嫁に逃げられ、跡継ぎの孫が出来ないこと。船頭見習いで雇った若者もいつまでもアルバイト感覚で使いものにならない。息子が突然船を降りたいと言い出したある夏の日、見知らぬ少女が船宿を訪れた。ミオと名乗るその少女は出て行った長女の娘だと言う。女将にとってはじめて見る孫の顔。その来訪をきっかけに失われた海の記憶が語られはじめる…。