インタビュー&コラム

インタビュー

演出家 クリストフ・ロイ 
『イェヌーファ』を語る

―イェヌーファの物語は熱烈な恋愛から始まり、その愛は裏切られ、第3幕になってもその傷は癒えていません。彼女の成熟のプロセスはどのようなものでしょうか?

ロイ:第1幕の物語は、多くの若い女性に起きそうなことです。情熱的な恋愛関係の末に妊娠する。田舎であれば、現在でも厳しい状況でしょうが、都会でも結局は結婚するのかしないのか、子供はどうするのかという問題になります。問題に対する父親の関心が薄いこと、それどころか自分が父親であることを隠そうとして、女性はどうしたらいいか分からない、というのもありがちな話で特に悲劇的ともいえません。そして昔の恋人がやってきて彼女の顔に傷をつけ、彼女の立場、村で一番美しくて魅力的な女性、という立場を壊してしまうところが大きな転機となります。子供の父親は離れてしまい、ここから物語は悲劇のレールに乗ります。さらに、過度に厳しい継母は、妊娠中の彼女を人目から隠してしまいます。まるで人質にとられているようなものですが、継母と養女の関係は奇妙に優しいもので、二人は思った以上に共生的になります。イェヌーファのように気性の激しい女性の場合、もっと反抗すると思いがちですが、そうではなく「ストックホルム症候群」に陥ります。その瞬間、無防備で無力な若い女性は、感情面で自分よりも強い人物、すなわちコステルニチカに完全に身を委ねるのです。

―このとき、イェヌーファ自身もほとんど子供に戻ったように見えます。おそらく、監禁されているという極限状態による部分もあると思いますが……

ロイ:一方で、監禁されているときにイェヌーファは色々と考え始め、事実を集めます。子供の父親が全くかまおうとしないこと、でももう一人の男性、彼女を傷つけた張本人が何度も現れては彼女の話をしていること。それらを全て感情的に受けとめ、孤独の中で消化していきます。その意味で、イェヌーファの半年間の「隔離監禁状態」は、その後起きる全てのことにとって決定的と言えます。それまでの彼女は人よりも賢くて、時には村祭りなどで羽目を外すこともある「普通の」若い女性でした。いうなれば、人が望むものを全て持っているのに、思いがけない運命に襲われ、人に羨ましがられるどころかその逆の状況に陥ります。

―そして第2幕、ラツァとの結婚を承諾する直前の「人生ってこんなものだとは思わなかった」という台詞……

ロイ:以前の彼女は、人生に対して屈託のないイメージを持っていたのです。恋愛、村で一番見た目が良くて金持ちの恋人などなど。それが今では、人生とは思っていたものとは違って、ほとんどその逆であるという結論に至ったかのようです。もう一人の男性の気持ちに応えられないと感じており、その時点では彼を愛していないのに結婚を決意します。同時にそれは目的あっての結婚です。彼女は、頬に傷を負ってから、もはや自分が本当に求められていないことを知っており、少なくともつましくて正直な夫を得られることにほっとしています。でもそこで、第3幕の奇跡が起きるのです。赤ん坊がどうして死んだのかを知ったとき、つまり彼女が人生の過酷さをさらに感じたとき、人生についてさらに「学んだ」とき、彼女はこれまでとは違う形でラツァの愛に応えることができ、最後には「今、感じているのが、神様に喜ばれる愛なのだと思う」と言えるのです。かつて、シュテヴァと干し草に沈んだ時とは全く違うものだと分かっています・・・・・・

―つまり、非常に大きな衝撃によって、愛を新たに認識する力を持ったということでしょうか?それとも、彼女が突然ラツァへの愛に目覚め、他の形の愛を知る「奇跡」は、彼女が人間の行動の関連性や動機に対して心を開いたことによるものでしょうか?

ロイ:コステルニチカとその殺人の告白とは別に、イェヌーファが社会的に仲間はずれになるということを考慮しなければなりません。彼女はこれから裁判が行われ、おそらく明白な証拠がないことを知っている。それでも、そこにはいつも人生のパートナーとしてラツァがいて、「他の人が何を考えようと関係ない、君を一人にしたくない」と言うのです。

―音楽的には、最後の場面で突然全く違う世界になります。誰もが、ヤナーチェクの音楽が伝える、解放の感覚に惹き込まれると思います。

ロイ:ここで極端に水平線が広がりますね。私はいつもそう感じます。

―これをユートピアだと感じますか?

ロイ:この瞬間には、それが単なるユートピアなのか、一つの現実的な可能性なのか、分かってしまいたいとは思いません。私はこの可能性を二人と一緒に体験したい。この二人にとっては可能なのです。

<ベルリン・ドイツ・オペラ公演プログラムより抜粋>

チケットのお申し込み

インターネットからのお申し込み
  • ボックスオフィス
  • チケットぴあ
  • ローソンチケット
  • e-プラス
  • CNプレイガイド
  • 東京文化会館
電話からのお申し込み
  • ボックスオフィス

    03-5352-9999(受付時間:10:00~18:00)電話予約・店頭購入方法

  • チケットぴあ
    0570-02-9999(Pコード:254-494)
  • ローソンチケット
    0570-000-407(オペレータ受付)0570-084-003(Lコード:32116)
  • CNプレイガイド
    0570-08-9990
  • 東京文化会館
    03-5685-0650
  • JTB・近畿日本ツーリスト・日本旅行・トップツアーほか
グループでのお申込み

10名以上でご観劇の場合は新国立劇場営業部(TEL 03-5352-5745)までお問い合わせください。