インタビュー&コラム

インタビュー

ラツァ役 
ヴィル・ハルトマン

ヴィル・ハルトマン

ヤナーチェク作品の新国立劇場初上演となる、今シーズンの話題の新制作『イェヌーファ』。閉塞的な村で起こる悲しい物語を演出家クリストフ・ロイがいかに描くか、そして指揮者・歌手・オーケストラがどのようにヤナーチェクの音楽ドラマを表現するか、オペラ・ファンなら見逃せない公演だ。
この公演はベルリン・ドイツ・オペラの協力により上演され、招聘歌手陣はべルリン・ドイツ・オペラでの公演とほぼ同じキャスティング。『イェヌーファ』という作品について、ロイ演出について、そして自身が歌うラツァ役について、そのうちの一人ヴィル・ハルトマンが語る。 <ジ・アトレ2015年10月号より>

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ロイ演出『イェヌーファ』はラツァとシュテヴァの間に生じる「化学反応」にも注目を

Production: Deutsche Oper Berlin
Photographer: Monika Rittershaus

─ハルトマンさんは、2013年に新日本フィル『ワルキューレ』第1幕(演奏会形式)、2014年に東京交響楽団「第九」のために来日されていますが、オペラでの来日はありますか。

ハルトマン(H) いえ、今回が初めてです。ロイ演出『イェヌーファ』のプロダクションは初演から少し時間が経っていますから、久しぶりにあの演出で歌えるのを楽しみにしています。

─ハルトマンさんが演じる役のラツァとは、どのような人物でしょうか。ラツァは、義弟シュテヴァと同じテノールの役ですね。性格の異なる2人のテノールの声を、ヤナーチェクはどのように書き分けていますか。

H  ラツァは一見弱い人間のようにも見えますが、実は全く逆です。幕ごとに成長し、最後は愛する女性の過去を含めた全てを受けとめる覚悟を示すのですから、非常に勇気のある男だといえるでしょう。私はラツァを歌う前に別のプロダクションでシュテヴァを歌っているのですが、個人的にラツァの役柄のほうが気に入っています。同じテノールですが、非常に対照的な兄弟です。弟シュテヴァは陽気で表層的、兄ラツァは内向的で一筋縄ではいかない陰影のある複雑なキャラクターです。大事に育てられて容姿も勝っている弟に対して、ラツァは深い劣等感を抱えて卑屈になっていますが、根は優しい男です。不器用で傷つきやすく、激高しやすいけれど、心からイェヌーファを愛しています。
 ヤナーチェクの素晴らしさは、音楽を通じてそれぞれの登場人物の深層心理を描ききっているところです。そして民族音楽的な要素も魅力的です。私は、ケルン歌劇場のオペラ・スタジオで研修生だった時代にクプファー演出でヤナーチェク『死者の家から』に出演しましたが、その頃からヤナーチェクが大好きになりました。

Production: Deutsche Oper Berlin
Photographer: Monika Rittershaus

─『イェヌーファ』のリハーサルで、演出のロイ氏とはどのような話をしましたか。

H ロイ氏の演出はこの作品の心理劇的な部分を巧みに活かしています。余分なものを全て排したシンプルな舞台で、登場人物の深層心理をクローズアップしていきます。彼は私たち歌手の意見にも熱心に耳を貸すオープンな性格の演出家で、議論を重ねて一緒にラツァ役を丹念に練り上げていきました。イェヌーファとの関係はもちろん重要ですが、シュテヴァとの掛け合いを通して兄弟の異なる性格の輪郭が見えてくる部分が大きいので、シュテヴァを歌う歌手によってラツァは微妙に変わっていきます。キャラクター間に生じる「化学反応」にも注目していただければ、さらに舞台をお楽しみいただけるでしょう。様々な意味で極めて完成度の高いプロダクションだと思います。ロイ氏の演出で私は英国ロイヤルオペラで『ルル』も歌いましたが、彼は心理劇的なオペラの演出が得意ですね。

─イェヌーファ役のミヒャエラ・カウネさんは、新日本フィル公演でもご一緒でしたが、彼女はどのような歌手でしょう。

H アーティストとして、人として、とても尊敬できる大好きな歌手です。ベルリンでは『魔弾の射手』をはじめ、たびたび共演しています。人の心を打つ声の持ち主で、役柄になりきって全力で向かってくる。私も舞台では役に「なりきる」タイプの歌手なので、とても気が合います。特に『イェヌーファ』のような作品では、彼女のそうした長所が最大限に発揮されます。最高のキャスティングです。

─カウネさんとともに、コステルニチカ役のジェニファー・ラーモアさん、ブリヤ家の女主人役のハンナ・シュヴァルツさんも、ベルリン・ドイツ・オペラでの公演に続いて新国立劇場に出演されます。

H ロイ氏の演出は各々の登場人物にスポットライトを当てていく独特の手法を用いるので、一緒に稽古を重ねてきたベルリンの初演のメンバーが再び顔をそろえることは、非常に意味があります。多くの経験を重ねて再び同じ舞台に戻ってくることで、さらなる深みを増した『イェヌーファ』になることは間違いありません。そこに新しい歌手、オーケストラが加われば、一層面白くなる。なんだかワクワクしてきました。

ヤナーチェクの音楽は私の感性にとても合っています

─ハルトマンさんは、チェコ語のオペラでは『イェヌーファ』のほかにスメタナ『売られた花嫁』イェニークもレパートリーとされていますね。チェコ語の歌唱は難しくないですか。

H イェニークはドイツ語でしか歌っていないので、チェコ語のレパートリーはラツァが初めてです。今は原語上演が主流なのにドイツではなぜか『売られた花嫁』はドイツ語上演を続けています。不思議ですね。『イェヌーファ』は、稽古が始まる前にチェコ語の発音コーチに師事して勉強しましたが、その昔シマノフスキのオペラをポーランド語で歌って大変苦労した経験があったので、それに比べればチェコ語は簡単に感じました(笑)。ヤナーチェクの音楽は自分の感性にとても合っているので、今後も積極的にレパートリーに取り入れたいと思っています。彼の音楽は明らかにチェコ語の抑揚を意識して書かれているので、可能な限り原語で歌いたいです。

─ところで、声楽家になろうと決めたきっかけは?

H 実家は花を栽培・販売しているのですが、子供の頃から働く母と一緒によく歌を歌っていました。14歳のときに教会の堅信式で歌ったら、翌日、神父様が家にいらして「ピアノと発声法をきちんと教えたいから、明日から教会にレッスンにくるように!」と。そして教会の合唱団でボーイ・ソプラノとして歌い始め、変声期後はテノールに転向して、徐々にソロも歌わせてもらえるようになりました。でもプロの歌手になるつもりは全くなくて、兵役後、経営学を勉強したのですが、どうも性に合わなくて悩んでいました。一方、合唱は続けていて、地元のプロの合唱団にも入ることができ、そのうち本格的な海外ツアーにも参加するようになりました。そしてある日、ヴェルディの『レクイエム』を歌って衝撃が走り、「やっぱり歌手になりたい!」と決意して、その公演でソロを歌っていた女性歌手に弟子入りしました。二か月でケルン音大の入試の準備をして、無事合格。大学ではハルトムート・ヘルと白井光子先生に師事していたので、リートの世界にどっぷり浸かっていました。オペラに目覚めたのは、歌劇場の研修所に入ってからなんですよ。

─あなたにとってオペラとは?

H 歌って演じる喜びを自ら噛みしめながら、多くの人に感動を与えることができる、これほど素晴らしい仕事はありません。オペラ、歌は私にとって人生そのものです。

─『イェヌーファ』を待望している読者にメッセージを。

H 日本のようにお客様が心温かくて、素直に感動を伝えてくれる国は珍しいです。同行していた妻も驚いていたのですが、終演後に楽屋口で長時間並んで待っていてくださる情熱的な音楽ファンの姿に、胸を打たれました。皆様との再会を楽しみにしています!

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