20世紀の偉大なオペラ作曲家のひとりに数えられ、2013年に生誕100周年を迎えるイギリスを代表する作曲家ベンジャミン・ブリテン。アニバーサリー・イヤーを目前に、再評価が進むブリテン初の本格的なオペラで代表作「ピーター・グライムズ」で新国立劇場2012/2013シーズンは開幕いたします。 ブリテンの故郷オールドバラを思わせるイギリス東海岸の漁村を舞台に、孤独な漁師ピーター・グライムズが徒弟の少年殺害の疑惑を村人たちからかけられ、追い詰められていく物語。集団と個の対立を軸に、貧困や児童虐待といったテーマを織り込んだ現代的な作品です。ブリテンの音楽は独特の力強さと美しさを兼ね備え、海の静けさと嵐を生き生きと描き、また登場人物の心理描写を巧みに表現、圧倒的に劇的な力で観る者に深い感銘を与えます。
本作品は1945年、ヨーロッパ戦勝記念日のすぐ後の6月7日にロンドンで初演、大成功となり、ブリテンの名は一躍有名になりました。以来、世界の主要歌劇場でレパートリーとして上演され続けている「ピーター・グライムズ」の数少ない日本での本格的舞台上演にどうぞご期待ください。
今回の公演は、94年にモネ劇場で初演、その後英国ロイヤルオペラでも上演されているデッカーによる名プロダクションにより上演いたします。作品の普遍性とドラマを浮き出した象徴的な舞台で、本作品をはじめてご覧になる方にもお勧めの演出です。タクトを握るのは、ウェールズ・ナショナル・オペラ、スコティッシュ・オペラ、英国ロイヤルオペラなどで活躍してきたイギリスの重鎮アームストロングです。 タイトルロールには新時代のヘルデン・テノールとして世界的に注目され、グライムズ役を当たり役とするオーストラリア出身のスケルトンを迎えました。この夏、ロンドンの音楽祭プロムスでも同役を歌い大絶賛、今世界で一番のグライムズ歌いと言っても過言ではありません。そのほかのキャストには、本作品をレパートリーとし、世界的に活躍する英語圏出身の実力派グリットン、サマーズ、ウィン=ロジャースらが並んでいます。
イギリス東部の漁村。徒弟の死亡事件について漁師ピーター・グライムズの裁判が行われている。判定は事故死となるが、村人は疑惑の念を持つ。女教師エレンだけは彼の味方をし、新しい徒弟の少年をグライムズの元に連れてくる。やがて、エレンは少年に傷があることに気づきグライムズを問いただすが、グライムズは彼女を殴ってしまう。これを聞いた村人がグライムズの小屋に押し寄せたため、グライムズは少年に海へ崖を降りるように命令、少年は足を滑らせ死ぬ。数日後、少年のセーターが岸に流れ着く。グライムズが人殺しだという噂が広まり村人が捜索する中、バルストロード船長が正気を失ったグライムズに沖に出て船を沈め自殺するよう勧める。翌朝、沈没船の知らせが村に届くが、人々は関心を持たない。