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浦井健治インタビュー掲載

シェイクスピア初期の作品、史劇「ヘンリー六世」は、
百年戦争から薔薇戦争までの英仏を舞台に描かれた壮大な三部作。
生後九ヵ月で王座につき、周囲に翻弄され続けるヘンリー六世を中心に、
王位をめぐる権力闘争と愛憎うずまく人間ドラマが繰り広げられる。
芸術監督・演出の鵜山仁が長年温めてきた今企画で主演を務めるのは、27歳の浦井健治。
ミュージカルでも活躍中の彼が、初のシリアスな古典劇に挑む彼の意気込みに迫る。

インタビュアー◎稲木紫織(ジャーナリスト)

会報誌The Atre 6月号掲載

この役、絶対にやってやると思った

――この役が決まる前に、オーディションがあったそうですね。
 

はい。鵜山さんと、新国立劇場のお稽古場で。第三部の長い台詞を読みました。「今日の戦は、羊飼いが息で指をあたためながら……」。いきなりその世界には入れなくてへこみましたが、鵜山さんが細かく演出してくださると、すごく言いやすくなって、自分がどんどん変わっていくのがわかったんです。この役、絶対やってやるという気持ちを持ちながらやりました。

――シェイクスピアはお好きですか?

 やっぱりおもしろいですね。ずっと演じてみたいと思っていました。先輩の役者さんたちから「シェイクスピアは難しいよ」とか「台詞でちゃんと伝えなきゃいけないからためになるよ」とか、いろんな言葉をかけていただいて、身が引き締まる思いです。

――「ヘンリー六世」は本国でも上演が稀なぐらいですから、ご存じない方が多いのではないでしょうか。

 どうでしょうか。僕が「ヘンリー六世をやらせていただきます」って言うと、「リチャード六世がんばってね」って言われたりはしますが(笑)。そういうときは、リチャード三世のほうが有名なのかなって感じますけど。

――ヘンリー六世って浦井さんはどんな人だと思いますか

 その時代を、周囲から利用されながらも王として懸命に生き抜こうとした男。敬虔で優しい性格だからこそ、生後9カ月で即位した時から「国王とは」というプレッシャーを常に受け続け、精神が病んでいったのでしょうね。人に優しくしようとして悩んじゃったというか、ある意味、不器用な人だったのかなと思います。薔薇戦争に突入する段階でもすごく悩んで、だから第一部、第二部、第三部とヘンリーの台詞の口調が変化していて。きっと戦争の悲惨さや、王の試練にすごく苦しんだ人なんだなと。悩んで苦しんで、道を見出そうとして。それが「祈り」という行為にも繋がったのではないでしょうか。

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               歴史劇だが人が何を感じてどう生きたかという人間劇

 

――浦井さんは資料なども徹底的に調べて真摯な役作りをされるそうですね。

自分の出来る範囲ですが。原作は戯曲ですし、今はまだ小田島雄志さんの翻訳をとにかく読み込んでいきたいです。ほかに、木下順二さん訳の「薔薇戦争」という本を読んでいて、それでは解釈がちょっと違うんですが。それからジャンヌ・ダルク周辺のものとか英国王室史話とか。

――あまりに血なまぐさい戦争で、調べていくうちにどんなことが見えてきましたか。
 

でも、何でそんな戦争になったか見ていくと、ある種、身近な人間同士の争いにも見えてきて、人間のエゴってそういうふうに発展するんだろうな、とか見てとれる。これは王族の話ですが、人間として見ると理解できるなあと思います。

――時代や国や身分を越えて、人間の営みは変わらないということですか。
 

そうですね。その部分で、自分の中に落とせる何かしらのとっかかりを得たいなとは思ってますね。

――重厚な古典劇というイメージがありますが、実際の公演はどうなりそうですか。
 

僕にはわかりません。ただ、何かで読んだんですけど、鵜山さんはもっと違う考えを持ってらっしゃるかもしれないです。歴史劇であっても人間劇というか。「歴史劇です、ドーン」というのではなく、その中で人が生き、何を感じていたのかってことじゃないのかな。

――今の私たちが共感できるもの?
 

だと僕は思っています。鵜山さんとはまだそこまでお話しできていないのですが、きっと共感できる作品になると感じています。

――浦井さんが演じることで、ヘンリーのファンが増えるかもしれませんね。新国立劇場の舞台に立つのは初めてですか?
 

初めてです。おおおーって感じ(笑)。僕、自分は出てないですけど、何度か楽屋にはおじゃましたことがありまして。楽屋に入るだけでやっぱり緊張しますね。これが新国立劇場の楽屋か、と。そういう思いがあって、「この舞台に立てるんだ!」というのはあります。嬉しいです。この共演者の方々と、同じ舞台に立てることが本当に嬉しいです。ちゃんとへンリー六世として、その場に存在できるように演じていきたいです。そこに居られるすごい幸せを噛み締めながら、一回一回、誠心誠意、演じられるよう努めたいと思っていますので、ぜひ観に来ていただけたら嬉しいです。

 

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