シェイクスピアと同い年のクリストファー・マーロウはシェイクスピアに先駆けてブランク・ヴァースを用いた重要な劇作家であるにも拘わらず、日本では『ファウスト博士』以外はあまり上演されてこなかった。
その意味で今回の上演は貴重であり、そのブランク・ヴァースのリズムを日本語でできる限り伝えるよう努力したつもりである。
『エドワード二世』は、おぞましい殺され方をした王の悲劇として知られるが、
既成の体制や常識に挑むマーロウの反骨精神に満ちている。そのスピリットが観客に伝わることを望んでいる。
物語の終盤、王冠を奪われたエドワード二世は地下牢に幽閉される。そして、汚物の浮かぶドブ泥に膝まで浸かりながら、こう嘆く。「わが王冠はどこだ? なくなった、なくなった。それなのに私は生きているのか?」 暗殺者が優しい声で答える。「お疲れになっているのです、陛下。横になってお休みなさい。」彼はエドワード二世をベッドの上に押さえつけると、その肛門に真っ赤な焼き串を突き刺して殺す……。
主人公の最期にしては、なんとまあ酷く、なんとまあ格好のつかない死に方であろう。この憐れみのなさ。それこそがクリストファー・マーロウの劇世界と言える。そこにはただ、救われない人間たちが、救われないままに描かれている。復讐や裏切りといったドブ泥から脱け出せずに、誰もが無惨に、しかもあっさりと破滅していく─。400年も昔に書かれた戯曲ではあるが、現代にも通じる無意味なまでの暴力性に、私は強く興味を引かれた。
激しい舞台になると思います。ご期待ください。