これまでにふたつの『四谷怪談』を演出してきました。ひとつは韓国の劇作家による変奏バージョンで、もうひとつは朗読形式での一人芝居バージョンです。どちらの上演においてもやはり圧巻は、幽霊となったお岩の復讐の凄まじさでした。
直接的にしろ間接的にしろ、お岩は多くの人間を殺めていきます。なぜ、お岩の恨みは伊右衛門ひとりではおさまらなかったのか。お岩を死に追いやった者はいったい誰だったのか。この復讐劇に終わりはあるのか。果たしてお岩は、いつまでケラケラと笑い続けなければならないのか ─。
念願かなって、中劇場という大きな空間で『四谷怪談』を演出することになりました。いま、私の脳裏にありありと浮かぶのは、広漠たる暗闇の中をあてもなく彷徨うお岩の心火です。現代に蘇るにふさわしい『四谷怪談』になればと思います。