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<スペシャルコラムその1>笑いと驚きのジェットコースター ~『エンジェルス・イン・アメリカ』~

エンジェルス・イン・アメリカのチラシ画像
2023年4月18日(火)に開幕する『エンジェルス・イン・アメリカ』(二部作)は、初演以来高い評価を得ている、トニー・クシュナーの傑作。上演時間が各部4時間、合計8時間という長大な作品は、なぜ多くの観客を魅了し愛され続けているのか、萩尾瞳さんがわかりやすく解説してくださいました。3回シリーズの第1回目です。




萩尾 瞳 (映画・演劇・ミュージカル評論家)




タイトルからは、ロマンティックなファンタジーを想像してしまいそう。天使が人間に恋する映画『シティ・オブ・エンジェル』(1998年)なんぞを連想してしまうせいだろう。舞台にも多種多様な愛のドラマが織り込まれる。まあ、さほどロマンティックには見えないにしても。実のところ、舞台はなにより驚きのファンタジーだ。物語を紡ぐ要素のひとつひとつはリアルなのに、全体として壮大なファンタジーになっている、そんな感じ。



そもそも、この作品のブロードウェイ初演時(1993年)には「国家的テーマについてのゲイ・ファンタジア」という副題も付いている。大げさな副題は、もう、作家トニー・クシュナーの茶目っ気由来でしかないと思う。いや、内容を言い得てはいるけれども。実際の舞台は、笑い満載の、いっそファンタジー・コメディと呼びたいものなのだ。



セントラルパークにあるベセスダ像

『エンジェルス・イン・アメリカ 第一部 ミレニアム迫る』はピュリッツァー賞もトニー賞も受賞し、ストレート・プレイにしては珍しく約20ヵ月もロングランした大ヒット作。上演中のウォルター・カー劇場の前はいつも人だかりで、当時としてはあり得ない光景だった。1993年末には『エンジェルス・イン・アメリカ 第二部 ペレストレイカ』も開幕、2本が併走していたのも珍しい現象だ。ちなみに日本初演は1994年。2003年には、アル・パチーノ、メリル・ストリープら錚々たるスターの出演でTVドラマ化もされた。



 物語の主な背景は1985年~86年のニューヨーク。エイズが同性愛者だけがかかる不治の病だと思われていた頃だ。それで思い出すのがミュージカル『RENT』(1996年ブロードウェイ初演)だ。1991年のニューヨークを舞台にしたこの作品にも、エイズが重要ファクトとしてある。もちろん、テイストは全く異なる。ただ、世紀末とエイズが醸す終末感が漂うなか、生き方を模索する人間たちのドラマという意味では共通項はある。



主な登場人物は、赤狩りに辣腕を奮いレーガン政権にも食い込む弁護士ロイ・コーン、彼が目をかけるモルモン教徒で隠れゲイのジョー、その妻で抗不安薬を飲み過ぎては妄想の世界を彷徨うハーパー、ジョーと同じ裁判所で働くルイス、その恋人プライアー、看護師ベリーズ、そしてジョーの母親ハンナ。



セントラルパーク 遠景

多過ぎる? でも、この全員が物語の主人公なのだ。つまり、それぞれの想いや行動がもつれつつ、縦横に紡がれたカラフルな群像劇なのである。スピーディーな展開とテンポのいい会話も、この作品の魅力だ。応酬される台詞ときたら、機知、ユーモア、皮肉、政治やサブ・カルチャー系のパロディがギッシリ詰め込まれていて、切羽詰まったシーンでさえクスッと笑えてしまったりする。



たとえば、「アップでね、デミル監督」なんておふざけ台詞に、名画ファンやミュージカル・ファンならニヤニヤしてしまうはず。そう、映画『サンセット大通り』(1950)の台詞だ。また、オカルトホラーの名作映画『ローズマリーの赤ちゃん』(1968)の引用や、これもミュージカル化された人気TVシリーズ『アダムス・ファミリー』の人物名などなど、分かる人には分かるクスグリの連打。もちろん、こんなの全然分からなくてもOK。驚きに満ちたドラマそのものが面白いのだから。



タイトルに偽りなく、舞台には天使も登場する。ちゃんと、天使。映画『オールウェイズ』(1989)でオードリー・ヘップバーンが演じた天使は白いセーターとパンツ姿だったが。この舞台の天使は立派な翼を持つ絵に描いたような天使姿。もっとも、性格は「天使のような」とはほど遠く、かなり傍若無人。派手に降臨しては事態を引っ掻き回すのだ。



ところで、タイトルは『エンジェルス』と複数形なのに、舞台に登場する天使は一人だけ。ということは、天使のメタファーがいるわけだ。それを見つけるのは、舞台を見てのお楽しみ。ええっと驚く第一部の幕切れに、優しい希望が広がる第二部の幕切れまで、刺激的で楽しい旅路になるはずである。



★スペシャルコラムの続きはこちらから

第2回 トニー・クシュナーの作品たち――スピルバーグとのコラボなど

第3回 多彩な登場人物 ―― わけてもロイ・コーン―― について



はぎお・ひとみ
映画・ミュージカル・演劇評論家。朝日新聞でミュージカル評を担当。読売演劇大賞、菊田一夫演劇賞などの選考委員を務める。主な著書に『ミュージカルに連れてって!』(青弓社)、『「レ・ミゼラブル」の100人』(キネマ旬報社)、共編著・監修に『はじめてのミュージカル映画 萩尾瞳ベストセレクション50』(近代映画社)などがある。




●公演詳細はこちら


エンジェルス・イン・アメリカ

会場:新国立劇場 小劇場

上演期間:2023年4月18日(水)~5月28日(日)

A席 7,700円 B席 3,300円

※一部・二部通し券あり!