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『ロビー・ヒーロー』出演・中村 蒼、インタビュー

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今よりも少しはマシになりたい―。マンションのロビーで繰り広げられる人間模様を通じ、人種やジェンダー、階層などさまざまに絡み合う差別の実情と、それらに抗い、葛藤する人々の姿を描き出したケネス・ロナーガンの『ロビー・ヒーロー』が、日本初演を迎える。主人公で、将来への期待とあきらめ、打算と正義感の間で揺れる警備員ジェフを演じるのは中村蒼。稽古開始を前に、少人数での会話劇、経験したことのない役柄の「やりごたえ」について、期待のこもった心境を聞いた。

インタビュアー:鈴木理映子 (演劇ライター)




いろいろな方向に行くジェフの台詞が

登場人物たちのさまざまな表情を見せるきっかけに



─新国立劇場には九年ぶりのご出演ですね。

中村 はい。前回が二〇一三年の『つく、きえる』なんですが、僕が初仕事で初舞台を踏んだのもこの新国立劇場(『田園に死す』二〇〇六年)なんです。だから、僕にとって思い入れのある場所で、もう一度芝居ができるということに、すごく喜びを感じています。


─この『ロビー・ヒーロー』という戯曲を読んで、どんな感想を持たれましたか。

中村 四人だけの会話劇ですから、そこに立つ人間がいかにエネルギーに満ち溢れているかをしっかり表現しないといけないんです。「今回もまた、やりごたえがありそうな本だな......」と思いました。登場人物それぞれが悩んだり迷ったりしつつ発言していて、その発言が思わぬ方向に人を動かしてしまったり、自分の正義や価値観がほかの人には通じなかったり......そんなことがいろいろと渦巻いている作品で、「こういうお話です」と言えないところが面白いなと思っています。


―主人公のジェフは二十代後半の青年で、警備員をしながら自分の生活を立て直そうとしています。現時点での印象でよいのですが、どんな人物像を思い描かれているのか、お聞かせ願えますか。

中村 ユーモアがあって、軽やかな人というイメージを持ちました。その場を自分のペース、自分の空気にしてしまう人間で、それは僕がこれまでやってきた舞台、役柄ではあまりなかったことなので難しいなぁと感じます。こっちのことを喋ってたら、今度はこっち、みたいな感じで、台詞もいろんな方向に行くんですよね。でもそのことが、彼だけじゃない、登場人物たちのいろいろな顔を見せるきっかけになればいいのかな。やっぱり演じている人たち、役がさまざまな表情を見せてくれる方が観ている方ものめり込めると思うので。


―年齢的には中村さんの方が少し先輩ですが、彼のように、現実を知りつつも「まだ何者かになれるのではないか」と葛藤する若者の姿はどう映りますか。

中村 いや、僕自身もそういうふうに悩み続けているので......それに、ジェフみたいに「自分は何者なんだ」って葛藤している姿っていいなと思うんです。だから僕も一緒に悩みつつ、その姿を表現できたらいいんじゃないかな。


―演出の桑原裕子さんは、ユーモアがあって観察眼にも優れている中村さんは、ジェフ役にピッタリだとおっしゃっていました。

中村 桑原さんとは、出演者として共演したことがあるんです。僕、自分で自分のことはあまりわからないんですけど、その舞台がすごく楽しくて。舞台上でバラさん(桑原裕子さん)の芝居が面白くて、笑っちゃったこともありました。真剣に芝居に取り組むのはもちろんですけど、多少の余裕というか、のめり込みすぎて周りが見えなくならないようにしたいという気持ちはあります。やっぱり自分の言葉で相手がどういう反応をするか、周りをしっかり見ながら演じることが大事だし、ジェフ自身もしゃべる相手によって違う顔を見せたりしますから。



その世界の中にいられる

出ずっぱりの設定はむしろ楽しみ


―この作品は「声 議論、正論、極論、批判、対話...の物語」と題されたシリーズのうちの一作として上演されます。チラシやウェブサイトなどでは、昨今のSNSをめぐる状況にも触れつつ作品紹介がされていますね。

中村 今の時代って、良くも悪くも、自分の意見をいろいろと発信できますよね。その中には、何かを変えていきたいっていうポジティブなものもあれば、愚痴や、独り言、いろんな種類の声がある。そういう状況があってのこの芝居なんだなと、腑に落ちるものはありました。


―確かにさまざまな価値観、欲望、目論見が交錯する芝居ですし、実際に意見をぶつけ合う場面もあります。またその背景にはさまざまな社会の課題やアメリカの文化も絡んでいます。

中村 ディスカッションというか、自分の意見はこうだ、ってはっきり言い合っていくのは、外国の戯曲ならではという気がします。確かに人種やジェンダーの問題だとか、いろいろな社会の背景が織り込まれているんですが、それについては僕もまだよく理解できていないところがあって。今の時点では気がついていないこともいっぱいあるだろうし、その意味では不安もありますけど、そこは、稽古をする中で、それこそ意見を出し合い、議論しながら発見していけばいいのかなと思っています。

―少人数の会話劇ならではの濃密な稽古になりそうです。共演者の方々とは初顔合わせですか。

中村 板橋(駿谷)さんとは、一度、ごく短い間だけご一緒したことがありますが、どなたとも、ちゃんと向き合って芝居をするのは初めてです。それがまた、すごく楽しみなんですよね。あの人と芝居したら自分はどうなるんだろう、この人と芝居したら自分はこう変わったなとか。きっと、いろいろな発見や変化があると思います。

―桑原さんとはまだ、このお芝居について、直接お話はされていないそうですね。

中村 そうなんです。だから、演出家のバラさんとも「初めまして」になります。以前、「演出もして、ほかの方の作品に出演もするってどういう気持ちでいるんですか」ってバラさんに伺ったことがあるんです。そしたら、演者だったら演者に徹するし、私だったらこう演出するなんてことは全く思わない、みたいなことをおっしゃっていて。だとすると、もしかしたら、あの時ご一緒したバラさんとは違う演出家のバラさんがいるのかもしれない。そうだったらどうしよう......と思ったりはしますけど(笑)。


―物語はロビーに佇むジェフの目線で進んでいきます。ほかの三人の俳優はその場を出入りしますが、中村さんにはその機会はないですね。これも背負うものが大きいのかなと想像するのですが、どうでしょう。

中村 そうですね。こういう出ずっぱりの設定は、「大変だね」と言われることもあるんですが、それだけその世界の中にいられるということなので。僕としては、むしろすごく楽しみです。



新国立劇場・情報誌 ジ・アトレ 4月号掲載



<なかむら あおい>

2006年、主演舞台『田園に死す』で俳優デビュー。08年には映画『ひゃくはち』で映画初出演。以降、ドラマ、映画、舞台と幅広く活動。20年放送のNHK連続テレビ小説『エール』にて村野鉄男役を好演し、話題となる。近年の主な出演作に、ドラマ『センゴク~大失敗したリーダーの大逆転』『逃亡医F』『風の向こうへ駆け抜けろ』『ネメシス』『神様のカルテ』『浮世の画家』『悪魔が来りて笛を吹く』『赤ひげ』シリーズ、映画『もみの家』『空飛ぶタイヤ』など。

【主な舞台】 『君子無朋~中国史上最も孤独な「暴君」雍正帝~』『MISHIMA2020 班女』『忘れてもらえないの歌』『お気に召すまま』『悪人』『OTHER DESERT CITIES』など。新国立劇場では『つく、きえる』に出演。



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『ロビー・ヒーロー』

会場:新国立劇場・小劇場

上演期間:2022年5月6日(金)~22日(日)
(プレビュー公演:2022年5月1日[日]・2日[月])

作:ケネス・ロナーガン
翻訳:浦辺千鶴
演出:桑原裕子

出演:中村 蒼 岡本 玲 板橋駿谷 瑞木健太郎



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・4月公演『アンチポデス』(作:アニー・ベイカー 翻訳:小田島創志 演出:小川絵梨子)
・5月公演『ロビー・ヒーロー』(作:ケネス・ロナーガン 翻訳:浦辺千鶴 演出:桑原裕子
・6月公演『貴婦人の来訪』(作:フリードリヒ・デュレンマット 翻訳:小山ゆうな 演出:五戸真理枝

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