『反応工程』演出・千葉哲也、インタビュー

全キャストをオーディションで選考し、創作・上演する公演「フルオーディション企画」。その第二弾を手掛けるのは、新国立劇場開館当初から俳優として出演するほか、二〇一七年の『怒りをこめてふり返れ』では第二十四回読売演劇大賞優秀演出家賞も受賞した千葉哲也です。選んだ戯曲は、戦後日本の人間と社会の変遷に迫る劇作家・宮本研の『反応工程』。一九四五年八月、九州中部にあるロケット砲の推進薬をつくる軍需指定工場を舞台に、敗色濃厚な戦況を薄々感じつつも戦争に対峙し、学問や思想、生活などの狹間で揺れる人々の物語に、激戦を勝ち抜いた十四名の俳優たちによって生命が吹き込まれます。

インタビュアー:尾上そら (演劇ライター)













世代を超えて集めた

生々しい「顔」を持つ俳優

─初年度に続き、今回も二〇一八年十月から六週間に亘るオーディションが行われたそうですね。


千葉 書類の応募が約一五〇〇通。そこから絞りはしたものの、五〇〇人弱の俳優さんたちと会ったので六週間は必要な期間でした。若者から大先輩まで、来てくださった方たちには感謝しかありません。特に、僕から見たら先輩に当たるような年齢の方々の、俳優としての層の厚さに改めて気づく機会にもなりました。もう本当に"怪物"ぞろいで(笑)、自分ももう少し年を重ねたら、今回の若者たちにとっての"怪物"になりたいと思いました。


─『反応工程』は、以前からご自身で演出しようと温めていた戯曲なのですか?


千葉 いえ、これは劇場担当者との話の中で推してもらった戯曲です。タイトルだけ聞いた時の、頭の中での変換は『ハンノウ皇帝』で、恥ずかしながら中国の壮大な歴史物だと思ってしまいました(笑)。自分から持ち込んだ福田善之さん作の、明治期の演劇人や政治・思想家をモデルにした人々が登場する群像劇『オッペケペ』は、出演者が多すぎて、何か月オーディションが必要なんだとなりまして(苦笑)。  これまでに演出家として呼んでいただき、手掛けた作品は翻訳劇が多かった。異文化へジャンプする楽しみもありますが、折角の機会なので、自分の挑戦としても日本の戯曲に取り組んでみよう、と。「戦争」という大きくて扱いの難しいものが題材で、一歩間違うと抒情的になりかねない戯曲に、はじめましての方が多い座組で挑むことになるだろう、ということにも心惹かれました。


―敗戦目前という設定ながら、場面の多くは工場内での日常的なあれこれが主で、直接的には戦争を描かない面白い手法の戯曲だと、読んで思いました。


千葉 そう、それに人物の背景や置かれた状況など書かれていないことも多く、良い意味で粗い戯曲なんだと思うんですよね。だから、稽古場でいろいろと試せることが多いはず。中心的な登場人物は青年と呼ばれる年齢層で、敗戦間近の軍需工場で日々を送りながらも、なんだか奇妙に明るいというか、前向きなところも作品の魅力で、戦争を「悲劇」という型にはめずに舞台上に描き出せる気がしている。当事者たちにとっては日常の連続なのに、俯瞰で見ると歴史的な悲劇という、客観性を担保したうえで戦争を見つめる作品にしたいと思っています。だからオーディションでも実績や名に関係なく、真っ直ぐでエネルギーを感じさせてくれる方を選びました。  オーディションが始まる少し前、昨夏の甲子園を見ていて思ったんです。高校球児はあまり今どき感のない、朴訥とした、見ようによっては年より大人びた顔が多いな、と。それが真剣勝負の場に身を置く緊張感に練られた顔ならば、戦時下を生きる青年にも繋がるものがあるんじゃないかと思った。だから、オーディションを通して、最近稀有な、生々しい「顔」を持つ俳優を世代を超えて決めていきました。


―オーディションを振り返って印象に残っているのはどんなことでしょう。


千葉 オーディションをやっていた稽古場が、捜査室のようになっていったんです。この戯曲には人物の年齢設定などが書かれていないので、キーになる人物の年齢を設定し、その前後に誰をどう配置するかから考える必要があった。なのでその日のオーディションが終わるたびに、稽古場の壁一面に参加者の顔写真を何枚も並べて貼り、眺めながら考えるというFBI の現場検証のような状態になったのが面白かったな。



新しい俳優たちとの出会いが

僕を初心に返らせてくれた

―ご自身で若い頃に受けた、オーディションの記憶が蘇ることなどありましたか?


千葉 僕は、劇作家・演出家の鐘下辰男が旗揚げした演劇企画集団THE・GAZIRAに参加したのが俳優としての出発点。「劇団が認められるまで外部の公演になんか出ない!」という若さゆえの意固地さで、オーディションというものをほとんど経験していないんです。映画で何回か、というくらい。だから今回、自分でやってみて逆にオーディションの面白さを知った感覚があります。  キャスティングと違い、キャリアに関係なくはじめまして同士で組んでもらうオーディションだからこそ、光るものを発揮できる俳優が確かにいる。まぁ自分にその能力はなさそうだ、という自覚はあるんですが(笑)、結果、時代に関係なく劇中の登場人物同様、懸命に生きている人たちと出会うことができたと思っています。


―千葉さんが演出を手掛けた作品は若手俳優中心の布陣のものが多い理由が、オーディションに臨む姿勢、求めるものからわかるような気がします。


千葉 俳優としても演出家としても、一緒に作品をつくる相手へのリスペクトが、自分の中での仕事をする起点にあるんです。それに俳優にしろ演出にしろ、僕らの仕事は"人から選ばれる"ことが前提にありますよね? 相手あっての創作ということは、オーディションの有無に関わらず大切にしたい部分だと思っています。


―魅力的な俳優たちとの出会いを得て、戯曲をどう立ち上げたいか、今のお考えをうかがえますか?


千葉 舞台は戦時下ですが、劇中に爆撃など直接的に戦争を描くシーンは一か所しかないんです。オーディション時にも伝えたのですが、俳優たちには、戦争ははるか上空にあると思ってもらい、その気配を感じつつも目の前の仕事や日常の悩みにこそ正面から向き合っていてほしい。彼・彼女らの生活を取り巻く「戦争」の影は、演出 で舞台に乗せる部分だと思っています。それは照明や音響、舞台装置など複合的な効果によるものだと思いますが、その中で俳優たちが観客の心に残る笑顔や葛藤を活き活きと演じてさえくれたなら、それが無くなった時の哀しみ、敗戦後の世相や時代が留めようもなく移ろう様の虚しさ、それらを一顧だにせず別室で化学反応を続ける機械の無常な存在感などが自然に伝わると考えています。  空間としては、今はなき僕も大好きだった劇場ベニサン・ピットを思い出すんですよね。鉄とコンクリ打ちっぱなしでできた工場跡を、劇場にしたあの空間。あそこも、今回の設定と同じく元は染色工場でしたから。


―時の経過が刻まれた風情のある劇場で、二〇〇九年の閉鎖は本当に惜しかった。


千葉 作家の宮本さんは軍需工場に学徒動員された体験を反映し、この戯曲を書いたそうですが、モデルになった工場は福岡県大牟田市に周辺の炭鉱跡と合わせ、近代化産業遺産に指定されているそうです。俳優として出演した『パーマ屋スミレ』(二〇一六年初演)の舞台にも近い町で、土地の空気を味わうため一度行ってみようかと思っています。  今、演劇を始めたばかりの頃のような、「何でも自分でやれる!!」という気分、"演劇をつくっている感"が尋常じゃなくあるんです。新しい俳優たちとの出会いが、僕を初心に返らせてくれた。この新鮮な気持ちを演出に活かしたいし、稽古が始まったらきっと、みんなに混じって猛烈に芝居がしたくなるような予感がします(笑)。


新国立劇場・情報誌 ジ・アトレ 1月号掲載

<ちば てつや>

1987年、演劇企画集団THE・GAZIRA旗揚げから参加。俳優として様々な舞台で活躍、『すててこてこてこ』『人形の家』『蛮幽鬼』『怪談牡丹灯籠』『ユーリンタウン』『さよなら渓谷』『髑髏城の七人』『TOPDOG/UNDERDOG』などのほか、新国立劇場では『リア王』『虹を渡る女』『カストリ・エレジー』『新・雨月物語』『キーン...或いは狂気と天才...』『THE OTHER SIDE/線のむこう側』『胎内』『カエル』『焼肉ドラゴン』『アジア温泉』『マニラ瑞穂記』『パーマ屋スミレ』に出演、第5回・第20回・第24回読売演劇大賞優秀男優賞、第39回紀伊國屋演劇賞個人賞受賞。一方で2006年『スラブ・ボーイズ』より演出も手がけ、これまでに『BLUE/ORANGE』『桜の園』『袴垂れはどこだ』『寿歌』『いま、ここにある武器』『青春の門~放浪篇~』『青』『FullyCommitted』『サメと泳ぐ』などのほか、新国立劇場では『怒りをこめてふり返れ』を演出、第24回読売演劇大賞優秀演出家賞受賞。



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『反応工程』

会場:新国立劇場・小劇場

上演期間:2020年4月9日(木)~26日(日)

作:宮本 研

演出:千葉哲也

出演:天野はな 有福正志 神農直隆 河原翔太 久保田響介 清水 優 神保良介

高橋ひろし 田尻咲良 内藤栄一 奈良原大泰 平尾 仁 八頭司悠友 若杉宏二

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