小川絵梨子 演劇芸術監督が語る シリーズ「ことぜん」


小川絵梨子が演劇部門芸術監督として迎えるセカンド・シーズンは、新たなシリーズ「ことぜん」の三作連続上演から始まる。「ことぜん」は「個」と「全」。すなわち「個人」と「国家」や「社会構造」、「集団のイデオロギー」など「一人の人間と一つの集合体」の関係性をテーマにした作品を選び、そこに同世代の三演出家が挑む。時代も国も政治的背景も異なる三作があぶり出すのは、人間が宿命的に抱える矛盾や葛藤に他ならない。


インタビュアー◎ 尾上そら (演劇ライター)






時代も政治的背景も

異なる三作を通して考える

「個人」と「集団」


―「ことぜん」は、世界中の多くの国と地域が直面する問題を含む、大きなテーマを孕むシリーズだと感じました。どのように立ち上げられたのですか。


小川 演劇部門芸術監督に就任した一年目には、テーマを設けてのシリーズ上演ができませんでした。なので初年度のプログラムを進めながら、私が今、関心を持っていることを掘り下げ、気になっている作品とすり合わせたことからシリーズ「ことぜん」は生まれました。


日本に限らず、世界のあらゆる地域で右傾化の流れが生じ、自国主義や排他的な思想が席巻しているのは紛れもない事実。それに加え、私自身がここ新国立劇場という大きな組織に初めて所属することになり、身をもって「個人と集団」について考える機会が増えたのです。たとえば会議ひとつとっても、「出席したもののあまり発言ができなかった。参加した意義はあるのか?」などと思いあぐねてしまう。集団に対する個人の責任、影響の有無など、政治だけに限らぬ「個人と集団」の関係性を、演劇を介して考えてみたくなったのです。


―演出家と戯曲の組み合わせは、どのような経緯なのでしょう。


小川 五戸真理枝さん、瀬戸山美咲さんともに「いずれ新国立劇場で演出を」と考えていた方。企画の意図をお話しした際、お二人が関心を持ってくださり、スケジュールも合ったことは幸運でした。私を含む三人ともが女性で、四十代前半というのは偶然で深い意図はありません(笑)。戯曲に関しても、劇場側から提示したものもありましたが、結果的には演出家お二人からご提案いただいた作品に決まりました。時代も、政治的背景も異なる三作になったことで、続けて観るお客様には、テーマをより深く味わっていただけるのではないでしょうか。

―確かに二十世紀初頭、社会の底辺に生きるロシアの人々を描く『どん底』(五戸演出)、2011年にノルウェーのウトヤ島で起きた極右青年による銃乱射事件をモチーフにした『あの出来事』(瀬戸山演出)、さらに小川さんが演出する『タージマハルの衛兵』は十七世紀のムガル帝国(現在のインド)が舞台と、幅広い題材を取り上げたラインアップです。


小川 『タージマハル~』は2015年に新国立劇場で上演した『バグダッド動物園のベンガルタイガー』の作家ラジヴ・ジョセフの戯曲です。私が個人的に面白いと感じ、上演機会を狙っていただけで、継続的にラジヴ作品を上演する意図が事前にあった訳ではありません。今作は、「工事中の様子を誰も見てはいけない」という皇帝からの通達により、タージマハル廟の建設現場を警備している兵士たちによる二人芝居。『バグダッド~』にも通じる、虚実のあわいにあるような、不思議な魅力のドラマです。

―政治や思想の世界的潮流に、演劇を介して働き掛けることに、小川さん自身が考える意義はどういうものでしょう。


小川 そんな大きな問題を、常に意識的している訳ではありませんが......演劇を学ぶためにアメリカにいたときは、個人と社会の関係性はフィフティ・フィフティだと思っていたんです。でも日本に戻った当初は、「個人を尊重しなければ」などとあちこちで言う割には、行動の原理や価値の基準は社会の側にあり、個人が軽視されているように感じてしまって。だからという訳ではありませんが、私が携る創作の現場、稽古場などでは「どの立場の人でも同じく尊重されるべき」という概念のもと、作業していきたいと常に思っているんです。


文化の違いと言えばそれまでですが、そういった概念や価値観が保証されなければ、俳優個々からのびのびした嘘のない演技は生じないし、プランナーの自由な発想も妨げられてしまうと思う。演劇は、作品ごとに個人が集まって新たな集団を形成し、創作に取り組んでその成果を観客という集団に提示するもの。ある意味「ことぜん」に直面し続ける場とも言えるので、私自身も改めてそのことを考える場として、シリーズにしっかり向き合いたいと考えています。



新国立劇場・情報誌 ジ・アトレ 6月号掲載



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『どん底』

会場:新国立劇場・小劇場

上演期間:2019年10月3日(木)~20日(日)

作:マクシム・ゴーリキー

翻訳:安達紀子

演出:五戸真理枝

出演:立川三貴 廣田高志 高橋紀恵 瀧内公美 ほか


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『あの出来事』

会場:新国立劇場・小劇場

上演期間:2019年11月13日(水)~26日(火)

作:デイヴィッド・グレッグ

翻訳:谷岡健彦

演出:瀬戸山美咲

出演:南 果歩 小久保寿人


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『タージマハルの衛兵』

会場:新国立劇場・小劇場

上演期間:2019年12月7日(土)~23日(月)【プレビュー公演 12月2日(月)、3日(火)】

作:ラジヴ・ジョセフ

翻訳:小田島創志

演出:小川絵梨子

出演:成河 亀山佳明


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