そのワクワクする気持ちを大事にしたいから。
新国立劇場では、
目や耳に障がいのあるお客様にも
舞台を楽しんでいただきたいという想いから、
劇場スタッフが一丸となって観劇サポートに
取り組んでいます。
新国立劇場の観劇サポートをぜひご利用ください。

観劇したいけれど…とあきらめる前に。

ticket

新国立劇場では、目や耳に障がいのあるお客様にも舞台を楽しんでいただきたいという想いから、劇場スタッフが一丸となって観劇サポートに取り組んでいます。新国立劇場の観劇サポートをぜひご利用ください。

観劇サポートの
取り組み

新国立劇場が行なっている観劇サポートの
実際の様子をご紹介します。


音声読上げ

1.劇場内の案内表示・スタッフの対応

聴覚の観劇サポート公演対象日には、手話通訳または要約筆記による案内係が常駐しています。受付時、チケットの受け取りから字幕機の使用方法、新型コロナウイルス感染症対策の一環としてお願いしている来場者カードの記入などをご説明。対象日以外でも新国立劇場内のスタッフは、筆記具を携行するなど、お客様と円滑なコミュニケーションが取れるように努めています。

劇場前の表示
手話通訳者と要約筆記者も受付でお待ちしています

2.視覚に障がいのある方向けの事前舞台説明会

開演前に会場にて舞台美術やあらすじ、登場人物などをご説明します。舞台の大きさ、形状やセット、小道具の位置関係、また物語の鍵になる演技が行われる場所や、重要なシーンで鳴る音などを解説。その後、装置や小道具、模型などに触れていただき、より具体的なイメージをお伝えします。また、あらすじ、物語の背景や出演者の声をまとめた音声プログラムをお聞きいただきます。

舞台上で説明するスタッフ
舞台模型に触って、形状を体感いただく様子

3.ロビーやホワイエでのサポート

ロビーやホワイエでは、場内の案内サインを大きくわかりやすくし、各所に設置しています。
案内サインの強化により、新型コロナウイルス感染予防、拡散防止のために口頭でのご案内を減らすことができるという効果も生んでいます。

場内の案内サインを大きいサイズで各所に設置
劇場では、案内係全員が指差し案内表を持ち、何かお困りの際も気兼ねなくご質問いただけるような対応をしています。

4.広いスペースに再現!舞台装置のタッチツアー

2020年7月『願いがかなうぐつぐつカクテル』、2020年12月『ピーター&ザ・スターキャッチャー』(小劇場公演)では、新型コロナウイルス感染症対策として、出演者とお客様のゾーンを分けてお客様の密を避けるため劇場内の別スペースに、ほぼ同サイズで簡略化した舞台セットを設置。舞台の装置や小道具・衣裳はどのような形をしているのか、実際に歩き、物に触れていただきながら解説するタッチツアーを実施し、装置の位置関係や劇中に出てくる仕掛けをご体感いただきました。

オペラパレスのホワイエにておこなわれたタッチツアー
音声プログラムは参加者の皆様へ配布しました

5.劇場内の案内表示・スタッフの対応

セリフなどを文字でご覧いただける、手持ち型ポータブル字幕機を貸出ししています。文字で表示されるのはセリフだけではなく、ドラマの理解に重要となる物音、効果音や音楽などの情報も含んでいます。表示は出演者の動きなど、ドラマの展開に合わせて自動的に切り替えられ、舞台上の動きを追いやすいようになっています。さらに語調のメリハリがわかるように大声で強調するところは太字にしたりと、回を重ねるごとに字幕の表示方法には様々な工夫を凝らしていきました。

ポータブル字幕機の説明をするスタッフ
手持ち型ポータブル字幕機は、暗いところでもしっかりと文字が読めます。隣席の人には観劇に支障がないよう、画面が光ることはなく、斜めからは画面が読めないように施されています。

6.補助犬も一緒に

新国立劇場では観劇サポート対象日にかぎらず、通常公演日でも補助犬をお連れになってご観劇いただけます。ぜひご一緒にご来館ください。

7.リアルタイム音声ガイド

2020年8月『イヌビト 〜犬人〜』、12月『ピーター&ザ・スターキャッチャー』では、リアルタイム音声ガイドを導入。作品の見どころに加え、舞台上で役者がどのような体勢をとっているのか、あるいは誰が入ってきたのかなどをリアルタイムで解説。実際の舞台を観ながら別ブースより生放送で同時解説をおこなうことで、視覚に障がいをお持ちの方も臨場感たっぷりに舞台をご鑑賞いただけます。

別ブースから生放送で同時解説をおこないます。
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今後の観劇サポート
スケジュール

演劇 モグラが三千あつまって

目に障がいのあるお客様向け(開演前舞台説明会&リアルタイム音声ガイド)

  • 7月22日(土)  13:00開演
  • 7月27日(木)  13:00開演

耳に障がいのあるお客様向け(手持ち型ポータブル字幕機の貸出)

  • 7月23日(日)  13:00開演
  • 7月28日(金)  13:00開演
お申し込み 2023年5月21日(日)10:00~公演前日18:00まで

お申し込み

観劇サポートを支える
人々の想い

観劇サポートの現場を支えるスタッフの皆様に
お話を伺いました。

障がい有無を問わず、劇場を開かれた空間に
観劇サポートを介して交流の場を増やす

窪田 壮史くぼた たけし

俳優。演劇研修所第1期修了生。新国立劇場『舞台は夢』『ピグマリオン』『三文オペラ』ほか出演多数。また、演劇を使ったワークショップを企業や日本各地の学校で行っている。青山学院大学ワークショップデザイナー育成プログラム講師。都立総合芸術高校講師。新国立劇場演劇研修所講師(2年次学年担任)。

ワークショップがきっかけ

もともと障がい者に向けた活動をしていたわけではないんです。
学校向けの演劇を使ったワークショップを続けていくうちに、特別支援学校や盲学校で実施する機会も増え、その流れで東京芸術劇場からワークショップや観劇サポートをやってもらえないかと声がかかったんです。その後、東京芸術劇場の観劇サポートに新国立劇場のスタッフが見学に来たんですが、新国立劇場の演劇研修所第1期修了生である私にとってはなじみのある劇場ですし、それを機に、新国立劇場でも観劇サポートを担当させていただくことになりました。

事前説明会、音声プログラム、音声ガイドの3つの柱

大きくわけると、事前説明会、音声プログラム、音声ガイドの、3つの柱があります。
1つ目の事前説明会では、劇場の中で舞台の形状、セットの形や配置などを説明し、実際に舞台の上に立って歩いたり、小道具や衣裳に触れてもらったりという体験を行っています。
2つ目の音声プログラムは、健常者が劇場で購入して読む、冊子のプログラムに代わるものです。芝居のあらすじ、見どころ、登場人物の説明などを、音声プログラムという形で作成しています。YouTubeで限定配信することもありますが、CDの配布もしています。
3つ目は、上演中に生配信する音声ガイドです。何が舞台上で起きているかをリアルタイムで説明し、貸し出した骨伝導イヤホンで聞いてもらっています。事前に解説用の台本を作り、俳優の動きに合わせて読み上げています。
この3つが基本的に行っている内容で、私は全体を監修していますが、3つ目のリアルタイムの音声に関しては、これまで映画や他の劇場で同様の企画をやってこられた専門の方にお願いしており、「ここはいらないかも」「ここはもうちょっと説明したほうがいいかも」など、相談しながら進めています。

舞台上でのご説明
舞台装置にお客様に触れていただく

事前準備には1ヶ月

芝居の台本を読み、稽古を見学してから内容を詰め、およそ1ヵ月かけて準備をしています。事前説明会では衣裳や舞台装置についても解説しているので、稽古の初期というよりは、通し稽古が始まり、すべてがまとまりつつある段階から見させてもらっています。私と同じく新国立劇場演劇研修所修了生の、土井真波や菊池夏野も観劇サポートに関わってくれていますし、
他にも手伝いたいと言ってくれている俳優仲間も結構いるので、人材を少しずつ増やしていけたらなと思っています。

視覚障がい者のリアルな声を反映

6回やってきたことで、何が情報として必要なのかについては、ある程度見えてきてはいるんですが、僕自身は晴眼者なので確信を持てない部分があり、そこが一番むずかしいところです。初期段階から手伝ってもらっている、演劇を学んだ視覚障がい者の方がいるので、「どこがわからなかった?」とか、「どういう情報があったらもっと想像しやすいだろう?」といったことを具体的に相談しながら進めています。説明をしたり、舞台装置、衣裳、小道具などに実際に触っていただいたりしているときに、「そういう世界観なのね」「こういう質感なんだ」と感想が聞けたり、これから観劇する世界をわくわくしながら受け取ってもらえている瞬間に立ち会えたりすると、とてもうれしく感じます。

触れることのできる舞台模型
稽古で使った舞台装置に触れていただきながら説明

体験が作品の世界に入るきっかけに

今一番の願いは、参加者にまた舞台に上がっていただくことです。今は新型コロナ感染防止対策の観点から叶いませんが、実際に舞台に立っていただくという体験は、作品の世界に入っていくためのとても力強い手助けとなっていたので、早く再開できることを願っています。また、一俳優として、演劇人として、劇場は開かれた場所であってほしいですし、いろいろな人が集える場所になってほしいので、東京以外の地域でも、観劇サポートの試みが広がっていくといいなと思っています。

観劇サポートをきっかけに交流の場を増やす

すべての演目に観劇サポートがつくというのが理想的ですよね。視覚障がい者にとっては、外に出かけるということ自体が、少しハードルが高い部分があると思うんですが、「観劇サポート公演があるから観に行こう」と、観劇サポートが外出のきっかけになるという話をよく聞くんです。観劇サポートをきっかけに、交流や体験の場が増えるといいですよね。
劇場が、障がいの有無、年齢、国籍などを問わずにすべての人に開かれた、気軽に立ち寄れるわくわくする場所になってほしいですし、芝居じゃなくても、たとえば演劇を使うワークショップでもいいんです。
イギリスなどがそうであるように、日本の劇場も世の中のために貢献していく場所でもあってほしいです。

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観劇サポートによって、
すべてのお客様に観劇を楽しんでいただく
開かれた劇場を目指して


黒田宏樹

高橋さおり

佐川芽生
株式会社イヤホンガイド

1975年創業。各劇場・劇団の依頼を受けて同時解説イヤホンガイド、字幕サービス、音声ガイドサービスの実務が主な業務の会社。
歌舞伎・文楽・能・国内外の演劇まで幅広い演目を扱っている。

手持ち型ポータブル字幕機と音声ガイド

黒田弊社が新国立劇場で行っている観劇サポートは、2種類の試みから構成されています。まず、聴覚に障がいをお持ちの方向けに、セリフなどを文字でご覧いただける“手持ち型ポータブル字幕機”の貸出です。文字で表示されるのはセリフだけではなく、ドラマの理解に重要となる物音、効果音や音楽などの情報も含んでいます。表示は出演者の動きなど、ドラマの展開に合わせて自動的に切り替えられ、舞台上の動きを追いやすいようになっています。弊社はこの文字情報の作成、および観劇当日に字幕を切り替えるオペレーションまでを担当しています。もう一つは、視覚障がいをお持ちの方向けの“音声ガイド”です。これはナレーターがリアルタイムで副音声を解説するシステムです。舞台の生音は耳から、音声ガイドはイヤホンから、その両方を聴いていただきます。2020年の『イヌビト ~犬人~』で初めて実施したところ、「舞台の様子が明確にイメージできた。ぜひ次回も実施して欲しい」など大変好評でした。

リアルタイム音声ガイドの機器
ポータブル字幕機

すべてのお客様に楽しんでいただくことを目指す

髙橋お客様全員が同じように観劇を楽しんでいただける字幕作りを心がけています。例えば俳優さんが客席から登場する演出に、耳がご不自由な方は、周りの様子の変化で初めて気づく、ということがあると思います。アンケートにそう書かれた方もいらっしゃいました。そこで、俳優さんの登場が客席の右なのか左なのかを字幕に入れることによって、同じタイミングで反応できるように、といったことを常に意識しています。舞台を生で拝見することも必要不可欠な作業です。その時の観客の反応を見て、また舞台映像を何度も見返し、どの情報が必要かを考えていきます。さらに事前に字幕の試し出しをする日には、ネタバレになっていないか、面白いシーンが先に字幕に出てしまって先に笑ってしまうことがないか、など綿密に確認しています。

副音声も楽しんでいただくために

佐川音声ガイドに関しては、映画の世界で視聴覚障がい者の方向けの副音声サービスが行われてきた実績がありますので、そこでナレーターの経験を積まれてきた方たちを中心に内容の作成をお願いしています。その作業を拝見していますと、セリフの合間に情報をどう入れるかにご苦労があるようです。
黒田喋り口調やテンションも悩むところですね。ナレーターの方それぞれにパーソナリティ、ご自身の手法をお持ちですから。あくまでも副音声、情報補助として喋ることを意図される方、副音声も一緒に楽しめるように舞台のテンションに合わせて表現される方もいます。どちらがいいということではなく、お客様によっても好みはあるはずなので、主催側の意図や要望を伺いながらナレーターの方をご紹介しています。

より開かれた劇場へ、目指すサポート

佐川障がいをお持ちの方が機器を使って、観劇を楽しんでくださっている姿を見るのはもちろん喜びなのですが、劇場で機器のお貸し出しをしている時に、他の観客の方が足を止めて興味を持ってくださるのが嬉しいです。
高橋「舞台と同じタイミングでセリフが出ることに感動した」とおっしゃっていただき、握手を求められて「ありがとうございました」と言っていただいた時は涙が出るくらい嬉しかったです。私は観劇当日に字幕を送り出すオペレーターの作業もしており、オペレーターブースからお客様の反応が見えますので、カーテンコールなどで楽しんでいただけている姿を拝見することも喜びです。

観劇サポートが、観劇の最初の一歩になるように

黒田「観劇サポートがあることで、劇場に行く一歩が踏み出せました」という声をたくさんいただきます。
もともと演劇に興味があった方も、そうではなかった方も、最初の一歩が踏み出せない社会の現状、ハードルの高さがあるだけに「観劇サポートがあると、行ってみようと思える」と。何より新国立劇場のスタッフの皆様が熱心かつ精力的に観劇サポートに取り組まれていますので、こちらももっと頑張らなければという気持ちになります。「観劇サポート」を導入したくても、コスト面でなかなかハードルが高く、実施回数が限られてしまうところがあると思います。弊社としてはビジネスとして成立させつつ、たくさんの場所、公演日程で導入していただけるよう、今後はスマートフォンに字幕が表示できるアプリを使ったサービスの提供なども考えています。弊社にも直接お客様から「新国立劇場では観劇サポートを実施しているのに、なぜ他の劇場ではやってくれないのか」というお問い合せをいただくのですが、心苦しい一方で、そう言っていただけるのはありがたいことでもあります。そうした声も主催者の方たちにフィードバックしていきたいですし、観劇サポートのシステムが日本国中に広がって実施されていく社会になっていくのが目指すべき姿なのかなと。そのために努力していきたいと思っています。

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ご利用いただいた
お客様の声

関場 理生さん

せきば りお

「目が見えないけど芝居が好き」
「芝居を『見ないで』観た感想を書いていこう」。
折々の観劇体験や演劇への思いを自身のnote に綴る関場理生さん。幼少期から劇場に通い、高校・大学ともに演劇の学部に進学、現在は劇作や出演など多岐にわたり演劇活動を行っています。そんな関場さんが新国立劇場の観劇サポートに出会ったのは、2018 年に上演された『スカイライト』でした。これまで観劇サポートを利用した感想や舞台芸術への想いや願いについてお話を伺いました。

――関場さんが観劇に興味をお持ちになられたのはいつ頃だったのでしょうか?

母が芝居好きだったこともあり、小さな頃から家族で劇場に通い、演劇を身近に感じてきました。高校生くらいから自分で興味のある作品を探したり、友達と誘い合ったりするようになりました。一人で劇場に行くようになったのは、大学生になってからだったと思います。

――一人で観劇に出向くようになられてから、劇場のサポート体制やアクセシビリティ向上の取組みにおいてはどんな印象をお持ちでしょうか?

年々、観たいと思った作品に事前説明がついているという状況も増えてきて、環境が少しずつ変わっていることを実感しています。観劇に慣れているとはいえ、前情報のない作品を観る時はやはり集中力がものを言う部分があるんですよね。それも豊かな時間ではあるのですが、終始セリフや音楽などを一つも逃さず聞かなければ、という感じで……。

――聞こえる情報のみで作品を紐解くことは、きっと決して容易なことではないですよね。事前説明があることで受け取り方にも変化はありましたか?

作品の魅力を広く深く知ることができると感じます。舞台にどんな世界が広がっていて、こんな登場人物が出てきて、その人たちはこんな声をしている。そういった部分を予め頭に入れた上で観劇すると、作品全体のテーマや作り手の意図を理解する余裕も生まれ、濃い観劇体験ができていると感じています。

――新国立劇場の観劇サポートに関わるにあたっては、どんなきっかけがあったのでしょうか?

新国立劇場は以前より、私にとって身近な劇場の一つでした。「ことばの道案内」という視覚障がい者向けのサイトにも行き方が詳しく出ていたので「一人で行ける劇場」として認識していたんです。そんな折に、私が視覚障がいをもちながら演劇をやっていることも知って下さっていたご担当の方からお声かけをいただいて、観劇サポートに関わるようになりました。

――そのような経緯があったのですね。劇場の中ではなく、情報を調べてチケットを買ったり、行き方を考えたり……。たしかに、辿り着くまでも不安な部分はたくさんありますよね。

そうですね。駅直結の劇場は行きやすいのですが、広場があったり駐車場が併設されていたり、入り口がわかりにくいことも多いので「ことばの道案内」や点字ブロックを頼りに向かっています。新国立劇場さんはここ数年で小劇場入り口まで点字ブロックを設置してくださったので、池を避けて無事到着ができ助かっています。

小劇場入り口まで続く点字ブロック

――実際に新国立劇場の観劇サポートを利用されてみていかがでしたか?

物語や登場人物に関する事前説明、リアルタイム音声ガイド、実際に舞台で使う小道具などに触れられる機会。サポートにも様々なパターンがあるのですが、新国立劇場の観劇サポートはフルセットでついているんです。それは、「選択肢がある」ということでもあって……。例えば、「セリフの多いお芝居は音声ガイドなしで観たい」という場合には事前説明会のみ参加する。逆に、難易度の高そうなお芝居の時にはリアルタイム音声ガイドもつける。事前説明会自体がまだ少ない中でフルセットのサポートは心強いだけでなく、好みや状況に応じてできる点もとてもいいなと感じています。

心強い味方、リアルタイム音声ガイドの機器

――確かに、観劇の在り方にも人それぞれ好みがありますよね。

私が一番嬉しく楽しいのは、バックステージツアーのように美術や小道具に触れさせていただけること。私たちにとって「実寸のものに触れる」という体験はとても大きく、想像を立体的なものにする機会でもあります。演劇の魅力はその場をリアルに感じられること。本物に触れることでその面白みを感じることができています。

事前説明会で舞台の装置に触れる様子

――関場さんのこれまでのご経験から、劇場がより開かれた場所になるためには今後どんな工夫が必要だと思われますか?

演劇の作り手に回った時にサポートの重要性と同じくらい痛感したのが、コストや人員などの事情による環境づくりの難しさでした。そして同時に気づいたのが、「少しの意識で変えられることもある」ということ。例えば、障がいを持つ人への情報発信として「どなたでも是非お越し下さい」の一言があるだけで違うと思うんです。サポートやサービスの体制が万全に整っていなくても、筆談の対応をしたり、席まで誘導をしてもらえるだけで、観劇に向かう心持ちも変わる。互いに最初から100% を目指さなくても、始められることはあるんじゃないかと思っています。

――そうですね。少しの意識が重なることで、多くの人にとって劇場や観劇が身近なものになれば、と関場さんのお話を聞いて改めて感じました。

劇場が誰しもにとって不安なく訪れられる場所になって、観劇が楽しい選択肢になるといいなと思います。演劇は日常の延長の芸術のような気がしています。私のように目が見えなくても、誰かの歩く音がするだけで人の気配やその場の大きさが伝わってくる。そういった舞台ならではの豊かさを活かして、その魅力が様々な形であらゆる状況の人に伝わるようになったらいいなと願っています。

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廣川 麻子さん

ひろかわ あさこ

新国立劇場における観劇サポートのほとんどを鑑賞している立場、また、立ち上げの際にお手伝いした立場から、思っていらっしゃることをご自由に振り返っていただきました。

新国立劇場で舞台手話通訳つきの公演を観に行ったことから他の公演も興味を持つようになりましたが、字幕がなく縁のないものと思っていました。あるとき観劇サポートについて話を聞きたいとのことで、新国立劇場を訪問しました。

TA-net の活動をはじめて数年が経っておりましたし、理想とする形が見えてきた頃であったため、「こうあるといいな」と思うサポートを全部お話しさせていただきました。それからしばらくしてサポートを始めることが決定した、とお知らせをいただいた時は嬉しく思いました。

観劇サポートは当日だけでなく告知から始まりますが、告知動画に字幕や手話ワイプが入ります。稽古の様子や出演者、演出の想いを知ることができて観劇への楽しみが深まります。終演後にもう一度見ると腑に落ちることもあり、さらに楽しむことができます。

当日の劇場では、「本日は観劇サポートを実施しています」とかなり大きいポスターを掲示されていました。ポスターを掲示することで他のお客様が「いろんな人が来ているんだ」という認識を持つことができます。ポスターと並んで撮ってもらった写真はTA-net のブログ記事にし、講演でも使わせていただいています。
ロビースタッフはコミュニケーションボードに紐を通してタスキがけにして、さらにメモ用紙を持ち歩いて誰でも対応できるようになっておりました。さらに、場内アナウンスの内容を開演前から休憩、終演後までを1枚の紙にしたものを受付で字幕タブレットとともに用意されていました。字幕タブレットにも表示される内容と同じですが、開演前から字幕タブレットをずっと見ているわけにもいかず、そのため、どういったことがアナウンスされるかが事前に把握できることで安心につながりました。

それから6公演。字幕がつくからこそ出会うことのできた作品ばかりです。新国立劇場で上演する作品は人の心や社会のありようを丁寧に描き、印象的な舞台美術もあり、デザイン関係の仕事をしている聞こえない友人に喜ばれました。終演後の語り合いの時間もまた、楽しみの一つです。これからも多様な作品に字幕、手話通訳をつけていただけたらと思います。情報保障がついたアフタートークを通して、作品の世界をさらに楽しめると素敵ですね。トークについては字幕や手話をつけたオンライン配信という新たなツールを活用してもいいのではないでしょうか。

廣川麻子
特定非営利活動法人シアター・アクセシビリティ・ネットワーク(TA-net)理事長。1994年、日本ろう者劇団入団。2009年、ダスキン障害者リーダー育成海外派遣事業の一環でイギリスで障害者の演劇活動をテーマに研鑽を積む。2012年、観劇支援団体「シアター・アクセシビリティ・ネットワーク」設立。平成27年度(第66回)芸術選奨文部科学大臣新人賞、16年、第14回読売福祉文化賞(一般部門)をTA-netとして受賞。

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大坪 和代さん

おおつぼ かずよ

社会福祉を専攻していた大学時代に日本点字図書館で自主実習を行ったのをきっかけに職員となり、43年間勤務。退職した2020年以降は同施設のボランティアとして活動、利用者にメールで催し物の案内を頻繁に行うなど、情報弱者になりやすい視覚障がい者のサポートを続けていらっしゃいました。

大坪和代さんは2021年2月にご逝去されました。新国立劇場一同、ご生前のご厚情に感謝いたしますとともに心より哀悼の意を表します。

私は晴眼者ですが、目に障がいをお持ちの方をよく劇場にお連れしています。実際の舞台の上に立たせてもらったり、衣裳や小道具に触れたりする事前説明会は視覚障がい者の方に好評です。

視覚障がい者の方には晴眼者の方と一緒に楽しみたいという思いがあるので、舞台上で何が起こっているのかがわかる生放送の音声ガイドは本当に助けになります。『イヌビト ~犬人~』では何回もカーテンコールがあったんですが、今までなぜ拍手が起こるのかわからなかった方も、解説のおかげで一緒に拍手ができるようになりました。

ただ、どんな衣裳を着てどんな風に現れたのかなど詳細を聞きたいとおっしゃる方もいれば、あまり情報は入れずに舞台の生音を楽しみたいという方もいるので、音声ガイドには詳しいものとシンプルなものの2段階あるといいかもしれません。最前列に座った方が、俳優さんの動きが感じられた、すっと風が通ったとおっしゃっていたので、席が前方ですと、演劇をよりリアルに感じてもらえそうです。

外出時にガイドヘルパーさんを必要とする方が多いため、早めに公演のご案内いただけると手配がスムーズになり、今後より多くの方が観劇を楽しめるようになると思います。

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観劇サポートに
かける想い

企画の立ち上げから実践まで、
情熱を持って取り組んでまいりました。

観劇サポートができるまで

観劇サポートを企画した発端は、東京2020オリンピック・パラリンピックでした。新国立劇場としても2017年からバリアフリー対応施設の整備を進め、多目的トイレの新設、車椅子昇降機の設置、未設置箇所への点字ブロックの設置などを行いました。整備は、専門家の方にご意見をいただきながら行いました。一方、ソフト面でもバリアフリーを図るべく、私たちスタッフもたくさんのセミナーに参加して、聴覚・視覚障がいをお持ちの方に対しての取り組みを学び、より良いサービスを検討しました。その結果、形としてまとまったのが、新国立劇場の「観劇サポート」です。

2018年、演劇『スカイライト』で初めて実施し好評をいただき、翌年に『かもめ』『タージマハルの衛兵』、20年に『願いがかなうぐつぐつカクテル』『イヌビト~犬人~』『ピーター&ザ・スターキャッチャー』と実践を重ねています。

舞台を楽しんでいただくために

具体的に観劇サポートとして行っていることは、視覚障がいをお持ちの方向けには事前舞台説明会、リアルタイム音声ガイド、音声プログラムなど。聴覚障がいをお持ちの方向けには手持ち型ポータブル字幕機の貸出などです。例えば、事前舞台説明会では、鑑賞前に案内役から舞台の大きさ、形状やセット、小道具の位置関係、物語の鍵となる演技が行われる場所や音など、重要なポイントを解説します。小道具などにも触っていただき、視覚に頼らなくとも舞台について具体的なイメージが膨らむよう、必要な情報をお伝えします。いかに舞台を楽しんでいただくか。私たちが考えるべきことはそれに尽きます。

新国立劇場が一丸となって

観劇サポートの周知をはかり、より多くの方々に参加していただくことも重要です。実は、新国立劇場で行っている別事業である「高校生のためのオペラ鑑賞教室」に、従来から毎年盲学校の皆様が来てくださっていたのですが、演劇公演での観劇サポートについても、そのご縁から繋がりが拡大しました。大変ありがたい人の輪が広がっていることを感じています。観劇サポートを実施した公演が終わった後、参加されたお客様に感想をうかがうと「あの場面で物語が動きましたね」など、障がいの有無を感じない舞台談義が交わされることがよくあります。まさしく舞台の素晴らしさだと思います。誰もが楽しむことができるのが芸術の醍醐味であるのだから、私たちはちょっとお手伝いすればいい。そういう信念を持つことができました。演劇部門に加え、2021年度にはオペラ・バレエでも観劇サポートにトライすべく準備中です。私たちがやるべきことは、好きな舞台を観たいという方のご要望にお応えすることと考え、劇場が一丸となっています。

それこそが舞台芸術のあり方です。地道に回を重ね、公演回数を増やし、サービスを充実させていけば、この試みが他劇場や施設に広がっていくのではないか。そうなることを目指して学びと実践を重ねていきます

これまでのサポート実績

新国立劇場からの
ご挨拶

新国立劇場は、オペラ、バレエ、ダンス、演劇という
現代舞台芸術のためのわが国唯一の国立劇場として、1997年秋に開場いたしました。
以来、現在まで、世界水準の公演を制作、上演し、多くの皆様に愛され親しまれています。

当劇場は、基本方針のひとつとして社会との関わりを大切にしています。
社会と共に生きる劇場として、青少年向けの公演、全国各地での公演、海外からのお客様へのサービスなどを
充実してより多様なお客様へ舞台の感動をお届けしています。

2018年からは、目や耳に障害のあるお客様に演劇を楽しんでいただこうと、
ポータブル字幕機の貸出、開演前の舞台説明会の開催等を盛り込んだ「観劇サポート」を開始いたしました。
これまで6公演で「観劇サポート」を行い、215名(お付添いも含む)の方のご参加をいただきました。
障害当事者の皆さんにご意見を伺いつつ、手探りの状態から始まった取り組みでしたが、
着実に前進していることを実感しております。

本年度からは文化庁より「障害者等による文化芸術活動推進事業」として採択を受け、
さらなる発展を目指しています。
今回、取り組みや事業内容をご紹介することで、舞台にご興味を持っている方、
また「観劇サポート」にご興味のある団体のご参考になれば幸いです。

皆さまのご来場を心よりお待ち申し上げると共に、
なお一層のご支援、ご協力を賜りますようお願い申し上げます。

2021年3月

劇場外観
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