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【情報センター閲覧室】『椿姫』特設コーナーのご紹介~時空を超えて ヴィオレッタの生きたパリへ~

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~時空を超えて ヴィオレッタの生きたパリへ~

新国立劇場で2022年3月に上演の『椿姫』にあわせ、情報センター閲覧室ではパネル展示や書籍展示を実施しております。

演出家ヴァンサン・ブサール(Vincent Boussard)がこの演出を通じて伝えたいメッセージとは何か、

作品の舞台となった19世紀の時代背景や、ヴィオレッタのモデルとなった女性とともにご紹介します。

また、歴史的な『椿姫』にまつわる演出家や歌手についての資料も公開いたします。

 

『椿姫』の公演情報はこちら

  

オペラ『椿姫』


オペラ『椿姫』の原題『ラ・トラヴィアータ(La Traviata)』とは「道を踏み外した女」という意味で、主人公ヴィオレッタが19世紀パリの享楽的な"裏"社交界ドゥミ・モンド(Demi-monde)に生きながらも、一人の青年アルフレードとの純愛を求めた姿を描いたヴェルディ(Giuseppe Verdi)中期の作品です。原作はアレクサンドル・デュマ・フィス(Alexandre Dumas fils)が高級娼婦マリー・デュプレシ(Marie Duplessis)をモデルに書いた戯曲『椿を持つ女』で、著者自身の体験がもとになっています。このオペラは、『リゴレット』(1851年初演)、『イル・トロヴァトーレ』(1853年初演)に続く、ヴェルディの「中期三大傑作」のひとつとされ、時代や人物の設定、ドラマや性格の表現に新しい境地を開いたとされています。

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新国立劇場2015年オペラ『椿姫』上演写真より

2022年3月公演『椿姫』演出・衣裳デザイン ヴァンサン・ブサールが描くヴィオレッタ

"ヴィオレッタは豪華絢爛な生活をしていましたが、彼女の心の内面を深く掘り下げていくと、とても複雑な部分があります。そしてヴェルディの音楽を聴くと、彼女のピュアな部分に光を感じます。光は、彼女が持っていた希望であり、純粋さに向けられた情熱ではないかと解釈しました。ですので、私の演出では、彼女のそんな光を描きたいと思っています。"

(新国立劇場情報誌・The Atre 2014年11月号 ヴァンサン・ブサールより)

ヴァンサン・ブサールは、貧しい生まれでありながらも希望を胸に懸命に生きたヴィオレッタを、パリの女性の象徴として描きました。そして衣裳には19世紀の男性社会で自由と自立を望んでいた女性たちの思いが込められています。

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新国立劇場2015年オペラ『椿姫』上演写真より

衣裳デザイン構想について

男性は当時のシルエットを再現し、皆が画一的なデザインとしている。それは、社会の表舞台にあり、裏では狂気に乱舞するブルジョワたちを中心とした男性社会を表現している。(参考:写真右、アルフレード)

 

女性は19世紀のシルエットを重視しつつ、素材などをとおして新たな躍動感を加えている。そうすることで男性社会の中、女性ひとりひとりがどれだけ自由を求めていたのか表現した。(参考:写真左、ヴィオレッタ)

 

情報センターでは、こちらでご紹介したもののほか、ヴァンサン・ブサールの演出への思いを綴った記事など数点を展示しております。ぜひ舞台をご覧になる前に、演出家の描くヴィオレッタへの思いを共有されてみてはいかがでしょうか。

 


こちらのヴィオレッタの衣裳は、ただいま新国立劇場1階メインロビーにて展示中

ヴィオレッタが第1幕に着用するものと同じ衣裳を間近でご覧いただける貴重な機会です!

「ヴィオレッタをその時代のパリの象徴として描きたい」という演出家の思いが込められた衣裳をぜひこの機会にご覧ください。

期間:2022年3月21日まで

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このヴィオレッタの衣裳は、逆さまの花をイメージしたもの。

印象的なバラ色と黄緑色のドレスは、鮮やかに発色するよう、こだわりのプリントが施されている。

記憶に残る『椿姫』―ゼッフィレッリ、マリア・カラス、藤原歌劇団

伝説の歌姫 マリア・カラス

数多くの歌手によって演じられてきた『椿姫』のヴィオレッタ。

中でもマリア・カラス(Maria Callas)は伝説の歌い手として今なお絶大な崇拝の的となっています。

情報センターでは、多くの専門家により演出と演技を絶賛された1955~56年のミラノ・スカラ座でのヴィスコンティ(Luchino Visconti)演出による公演の写真や、その他の名公演の写真を収めた写真集の他、様々な視点でマリア・カラスの魅力を伝える書籍を展示しています。

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ゼッフィレッリ演出の映画『椿姫』

名演出家ゼッフィレッリ(Franco Zeffirelli)、一流の劇場で数々の舞台を生み出し、映画監督として制作した1968年の映画『ロミオとジュリエット』は世界的な大ヒットとなりました。そして、新国立劇場では1998年の開場記念公演で『アイーダ』を演出。ダイナミックな舞台は劇場の開場を華々しく世に伝えました。

そんなゼッフィレッリが手掛けた『椿姫』の映画は、ヴィオレッタ役にテレサ・ストラータス(Teresa Stratas)、アルフレード役にプラシド・ドミンゴ(José Plácido Domingo Embil)が出演。夜会のシーンには、ゼッフィレッリの特徴ともいえる贅を尽くした豪華なセットで観る人を魅了します。

情報センターでは、映画『椿姫』の写真を含む、ゼフィレッリの集大成となる写真集を展示しています。

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藤原歌劇団による『椿姫』上演

藤原歌劇団は1934年(昭和9年)に誕生した、日本で最も歴史のある歌劇団で、日本のオペラ界をリードしてきました。『椿姫』は、1939年(昭和14年)に歌舞伎座で初めて上演されて以来、今日まで演出を変えながら日本でも愛され上演され続けています。

情報センターでは、昭和期を代表するオペラおよび舞踊の演出家である青山圭男により1948年(昭和23年)に上演されたプログラムなど数点を展示いたします。ヴィオレッタ役の大谷冽子、砂原美智子、アルフレード役の永田絃次郎、藤原義江といった戦時下および戦後の名歌手の写真などもご覧いただけます。

その他、他団体主催による公演のプログラムもございます。山田耕筰指揮による公演などの貴重な資料もございます。

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ヴィオレッタのモデル マリー・デュプレシの一日

マリーが住んだのは、パリのマドレーヌ通り11番地の中2階。

夜が仕事のマリー、朝は遅めの11時に起床。新聞を毎日丁寧に読みます。

 

それからクルティザンヌの日課である午後の散歩へ。

優雅なドレスを身にまとい、シャンゼリゼ大通りからブローニュの森へ、

ゆっくり馬車を走らせます。

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...

美貌と魅力にあふれる彼女。

恋人には作家のデュマ・フィスや、ピアニストで作曲家のフランツ・リストといった大物もいました。

夜会ではリストに教わったピアノを披露することも。

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情報センター5階パネル展示「マリー・デュプレシの一日」より一部ご紹介

挿絵:アレクサンドル・デュマ・フィスの原作小説に描かれたアルベール・リンチ(Albert Lynch)による挿絵

 

クルティザンヌとは

クルティザンヌ(courtisane)とは19世紀パリの娼婦で、豪華な邸宅に住み、貴族や芸術家の訪れるサロンを開き、特定あるいは複数の男性の愛人となった女性のこと。

彼女たちは貧しい生まれながら、愛人の階級を取り替えるうちに洗練の度を深め、教養も身につけていきました。

クルティザンヌの開くサロンは、男性だけが正式な社会のメンバーという意味で、半社交界「ドゥミ・モンド」と呼ばれました。ここには、18世紀後半から19世紀にかけての産業革命で財をなしたブルジョワや、作家・音楽家といった芸術家の男性が集まります。

また、この時代は18世紀末におきたフランス革命を皮切りに、王政と帝政による政権がたびたび入れ替わる激動の時代にありました。この時代にヴィオレッタのモデルは生きたのです。

マリー・デュプレシ(1824-47)は、ノルマンディーの片田舎に生まれ、幼いころから仕事を転々とする貧しい生活を送ります。次第に昼はお針子などをしながら、夜はお小遣い稼ぎで援助交際をしたり、若き芸術家たちと恋におちるようなグリセットと呼ばれる娘となったことをきっかけに、クルティザンヌとなったのでした。肺結核のため23歳でこの世を去った彼女は、デュマ・フィスの小説『椿を持つ女』やヴェルディのオペラをとおして、今なお人々の心に生き続けています。

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劇場のマリー・デュプレシ

1845年カミーユ・ロックプラン(Camille Roqueplan)の水彩画

情報センター閲覧室では、本記事でもご紹介したマリー・デュプレシの一日をアレクサンドル・デュマ・フィスの原作小説に描かれたアルベール・リンチ(Albert Lynch)による挿絵とともにご紹介するパネル展示を行っております。オペラの舞台では見られないクルティザンヌの生活を貴重な挿絵とともにお楽しみいただけます。また、この原作小説の豪華装幀版も展示いたします。

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デュマ・フィス著 『椿姫』 アルベール・リンチ

豪華版限定130部10番和紙。

パリ、メゾン・カンタン発行、無刊年(1887年刊)。

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パネル展も実施中!

【番外編】クルティザンヌはファッションリーダー!?

美貌と教養を兼ね備えたクルティザンヌ。

彼女たちは自らを娼婦と見えないように一流の婦人、つまり侯爵や伯爵の夫人や令嬢と何ら変わらない生活をし、馬車での散歩や、社交場、競馬場でパトロンと出会いました。

パリのクルティザンヌはファッションリーダーでもあり、中には有名オート・クチュールのモデルとなった女性もいました。

19世紀後半に写真技術が発達すると、有名クルティザンヌのプロマイドが売られたことからも、彼女たちの人気がうかがえます。

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コラ・パール(Cora Pearl) 当時の最も輝かしい星のひとつ

情報センター閲覧室では、19世紀のファッションについてのパネル展示を行っております。アルフレードが一目惚れしたヴィオレッタの美しさの秘密を、ファッションの流行をとおして垣間見ることができます。

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パネル展示より「ロマン主義から生まれたロマンティックスタイル」
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パネル展示より「クリノリンスタイル」

パネルの一部→クルティザンヌはファッションリーダー.pdf

展示中書籍より一部ご紹介

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パリ・モードの200年 18世紀後半から第二次大戦まで

南静(著)

発行:文化出版局

1975年

 

『椿姫』の舞台である19世紀の時代背景とパリ・モードの変遷が図版とともにまとめられている一冊。クルティザンヌの写真のほか、当時の女性を描いた絵画を多数収録。


 

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20,000 Years of Fashion: The History of Costume and Personal Adornment

François Boucher ,Yvonne Deslandres(著)

New York Harry N.Abrams, Inc.発行

 

市民から貴族まで、ファッションに関する20,000年の歴史を豊富な絵画・写真とともに解説。ファッションの歴史がこの一冊につまっています。

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椿姫とは誰か―オペラでたどる高級娼婦の文化史

永竹由幸 (著)

発行:丸善

2001年

  

パリ社交界の花であり、貴公子達の憧れの的であった椿姫とはどのような女性だったのか。数々のオペラに登場する女性たちの素性を追いながら、古代から近代まで、ヨーロッパの女性たちの社会的環境と高級娼婦の歴史をたどる。

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マリア・カラス 舞台写真集

ミヒャエル・ブリックス/構成・編集 ; 浅野洋, 鳴海史生/翻訳

発行:アルファベータ

1997年

 

1955~56年のミラノ・スカラ座でのヴィスコンティ演出による『椿姫』の公演写真を多数収録。写真の他にも、構成・編集をしたブリックスによる序論、公演ごとのデータとそれぞれの舞台の歴史的意味の解説、著名な同時代人によるカラスについての論評も含み、マリア・カラスを知るうえで欠かせない一冊。

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Franco Zeffirelli: Complete Works

Caterina Napoleone (編集)

発行:Harry N. Abrams

2010年

 

独創的で華やかな監督としての地位を確立した演出家ゼフィレッリ。その集大成として出版された本書は、ゼフィレッリの舞台の魅力を余すことなく伝える多数の写真を収録。また、衣裳デザインや舞台デザインのスケッチなど、ゼフィレッリのアーティストとしての側面もご覧いただけます。

 

本記事でご紹介した書籍以外にも多数展示しております。新国立劇場にお立ち寄りの際は、ぜひ情報センターにお立ち寄りください。

 

 

  

<本記事の参考書籍>

・スタンダード・オペラ鑑賞ブック[2] イタリア・オペラ(下) 音楽の友社編 1998年

・パリのモードの200年 南静著 文化出版局発行 1975年

・椿姫とは誰か 永竹由幸著 丸善発行 2001年

・名作オペラブックス2 ヴェルディ椿姫 音楽之友社 1987年

・アプローズ「トラヴィアータ」愛のオペラ 新書館 1985年

・新国立劇場情報誌・The Atre (2014年11月号、2015年4月号、2022年1月号)

開催概要

『椿姫』特設コーナー ~時空を超えて ヴィオレッタの生きたパリへ~

開催場所

新国立劇場5階 情報センター 閲覧室

開催期間

2022年3月4日(金)~2022年4月30(土)までの開室日(11:00~17:00)

情報センター開室カレンダーを十分お確かめの上、ご来場ください。

関連リンク
椿姫』公演情報
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