新シーズン開幕:大原永子舞踊芸術監督に聞く

2014/2015シーズンが開幕しました。

オペラ部門では飯守泰次郎芸術監督が、舞踊部門でも大原永子芸術監督が新しく就任、

演劇部門の宮田慶子芸術監督は2期目を迎えます。

新体制となったこれからの4年間を展望した、芸術監督インタビューをご紹介します。


――最初のシーズンのラインアップを作るにあたり、留意されたのは 大原永子HP.jpg
  どのような点でしょうか?

 新国立劇場が開場してから十七年が過ぎ、バレエ団は六十作品以上のレパートリーを上演してきました。その中から来シーズン上演するのにふさわしいものを冷静かつ客観的に考えた結果です。作品を選ぶときは、まず一歩引いた視点で、バレエ団全体を見渡します。世界中に優れた作品はたくさんありますが、いい作品だから、とそれだけの理由で作品を選んだのではバレエ団を発展させていくことはできません。この劇場とお客様にもっともふさわしい作品を選び出していかなくてはならないのです。ダンサーのことを考え、現在のダンサーたちにとって何が一番いいのかを吟味しました。

 前任のデヴィッド・ビントレー監督のもとで、ダンサーたちは彼の振付作品を多数踊り、そのスタイルを十分に経験しましたし、トリプル・ビルを通じてさまざまなスタイルの作品を踊ることもできました。彼らは多彩な経験を積み、成長してきましたが、その反面クラシック・バレエを踊る機会がやや少なかったように感じます。ですので、最初のシーズンではクラシック演目を充実させています。新国立劇場バレエ団は、歴史と伝統を持つクラシック・バレエを大切にしなければならない、と私は考えています。もちろんクラシックだけを踊っていればいいというわけではありません。任期を通じて、レパートリーの拡充を視野に入れています。

 

――どのような観点で「眠れる森の美女」を開幕作品として選ばれたのか、また演出の方向性はどのようなものになるのかをお聞かせください

 芸術監督として一年目のシーズンに、グランド・バレエ「眠れる森の美女」を新制作で上演するのは冒険かもしれません。それでもぜひやりたいと思ったのです。一九九七年十月の開場記念公演は、「眠れる森の美女」でした。四か月という長いリハーサル期間を経て初日を迎えた、バレエ団にとって記念碑的な作品です。何度か再演してきましたが、しばらく上演が途絶えていましたので、この機会にリバイバルしたいと思いました。これまではロシアのマリインスキー・バレエにご協力いただき、プティパの原振付に基づいたセルゲーエフ版で上演してきましたが、今回は新しいプロダクションになります。

プティパの作品は、時代の流れの中でさまざまな形で再演出されてきましたが、私はこの作品は、ヨーロッパの薫りが感じられる、洗練された演出で上演したいと考えました。現代の新国立劇場にふさわしい、新しい演出であり、かつ原型をとどめた振付ができる方ということで、ウエイン・イーグリングさんにお願いしました。イーグリングさんは、英国ロイヤル・バレエ団のご出身で、古典全幕に通じていらっしゃり、芸術監督、振付家としての経験も豊富です。非常に多忙な方ですが、ちょうどイングリッシュ・ナショナル・バレエの芸術監督を退任なされるタイミングと重なり、引き受けていただくことができました。衣裳、指揮は、イーグリングさんとこれまでも仕事をしてこられた方々が、装置と照明は日本のデザイナーが担当します。国境を越えた芸術家たちの協力による新しい「眠れる森の美女」が生まれるのです。格調高い古典バレエの美しさと、モダンな感覚が融合した舞台になります。新国立劇場の舞台機構やスタッフの技術力を生かした演出にもご期待ください。 

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――任期四年を通じてのヴィジョンをお聞かせください

 ダンサーの層をもっと厚くしなければなりません。海外のカンパニーは数百年の歴史を持っているところも少なくありませんが、新国立劇場バレエ団はとても若いバレエ団です。急スピードで若いダンサーを育て、バレエ団自体を成長させる必要があります。

 レパートリーとダンサーの充実は常に考えています。よい作品はダンサーを育てますし、ダンサーに力がなければ優れた上演はできません。私は現場の人間です。リハーサル室でダンサーを一番近いところから見つめ、その成長をキャストにも反映させていきます。キャスティングは固定されることなく、〝動き″を持っている必要があります。

 現実の生活や社会にはいろいろなことがありますが、劇場は現実世界から解放される場。お客様が心を自由に飛翔できる舞台を実現することが私に課せられた仕事です。作品とダンサーの質を向上させ、ひとりでも多くのお客様に足を運んでいただけるよう、邁進していきます。

(ジ・アトレ5月号より抜粋)(眠れる森の美女 photo by 若子jet)


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