バレエ&ダンス公演関連ニュース

「バレエ・アステラス 2023」への期待

文:守山実花(バレエ評論家)

世界で活躍する日本人ダンサーと母国をつなぐプラットフォームとして、定着したバレエ・アステラス。古典や定番作品に加えて、ダンサーたちが所属するカンパニーの新しいレパートリーが披露されることも多く、現在のダンス界をリードする振付家たちの作品をいち早く鑑賞できる貴重なチャンスにもなっている。例えば、2023年1月新国立劇場初演が大きな話題となった『A Million Kisses to my Skin』の振付家 デヴィッド・ドウソンの作品は早くも2010年のバレエ・アステラスで踊られている。

今私たちに観て欲しい作品としてダンサーたちは何を選んだのかに着目しながら、出演者とともに紹介していこう。

※出演を予定しておりました石原古都(カナダ国立バレエ)は体調不良のため降板いたしました。

この降板に伴い、『眠れる森の美女』第3幕よりパ・ド・ドゥは、石原古都に代わってジェシカ・シュアン(オランダ国立バレエ)が出演いたします。また、『In Our Wishes』に代わり、『アルルの女』よりラストソロ(ファランドール)を上演いたします。

詳細はこちらよりご確認ください。(8月4日更新)

世界をリードする振付家の話題作を観る絶好のチャンス

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石原古都 & 吉山シャール ルイ

ゲスト出演はカナダ国立バレエの石原古都とチューリヒ・バレエの吉山シャール ルイ。石原は16年のアステラス公演に出演、久しぶりにアステラスに戻ってくる。一方吉山はヒューストン・バレエで活躍、22年にはカンパニーと共に来日し『白鳥の湖』に主演、男性的な包容力とダイナミックな踊りで観客を魅了したのも記憶に新しい。この二人が踊るのは、『ザ・チェリスト』などで複雑な人間関係を鮮やかに浮かび上がらせた気鋭の振付家キャシー・マーストン『In Our Wishes』。20年10月に初演された話題作だ。マーストンは23/24シーズンからチューリッヒ・バレエ芸術監督に就任予定。チューリッヒ・バレエに移籍し一層の飛躍が期待される吉山が踊るマーストン作品、大いに期待したい。このペアは『眠れる森の美女』では様式美を見せてくれる。

アトランタ・バレエの五十嵐愛梨セルジオ・マセロは、ブラジル出身のリカルド・アマランテがエディット・ピアフにインスパイアされ創作した『Love Fear Loss』 より、ドラマティックなLossのパ・ド・ドゥ(日本初演)を踊る。

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『SOON』刈谷円香 & パクストンリケッツ
©Rahi Rezvani

イリ・キリアンの後継者と呼ばれることも多いメディ・ワレルスキー『SOON』(日本初演)を踊るのは、ネザーランド・ダンス・シアター1の刈谷円香パクストン・リケッツ。22年はマルコ・ゲッケ独特の世界観を見せてくれた刈谷、今年はまた一味違う彼女に出会えそうだ。

バーミンガム・ロイヤル・バレエ団プリンシパルの水谷実喜ロックラン・モナハンは、前芸術監督デヴィット・ビントレー振付の2作品を披露。私たちもなじみ深い振付家ビントレー、日本初演、デューク・エリントンの音楽を使った『Shakespeare Suite』に期待が高まる。

吉田合々香ジョール・ウォールナーはクイーンズランド・バレエのプリンシパル。21年に惜しまれながら早世したリアム・スカーレットの2作品を踊る。その中の一つ『No Man's Land』は戦争による別離をテーマに、希望と喪失、身体や心に残る記憶を描く。二人が思いを込めて踊るパ・ド・ドゥは心の深いところに語りかけてくれるに違いない。

多彩なダンサーの魅力を古典で堪能する

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『ドン・キホーテ』
栗原ゆう & マイルス・ギリバー

古典作品も見どころの多い作品が並んだ。英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ所属の栗原ゆうマイルス・ギリバーが踊る『ドン・キホーテ』は同団芸術監督でバジル役を得意としたカルロス・アコスタによる版。昨年キトリ役で注目を集めた栗原のエネルギッシュなダンスが楽しみだ。

後藤絢美三宅啄未は、アメリカン・バレエ・シアター スタジオカンパニー所属の若いペア。ガラ公演でおなじみの『サタネラ』を踊る。技巧が散りばめられ見せ場の多いパ・ド・ドゥでフレッシュな魅力を振りまいてくれることに期待したい。

世界中からダンサーが集まり注目度も高いオランダ国立バレエからは、ジェシカ・シュアン山田 翔『コッペリア』より第3幕結婚式の場面、幸福感がにじみだすの平和のパ・ド・ドゥを踊る。新国立劇場バレエ団から出演する木村優里中家正博『ジゼル』を踊り、幽玄の世界に私たちを誘い込んでくれる。

このほかミラノ・スカラ座バレエ・アカデミー新国立劇場バレエ研修所も出演、13回目となる今回も多彩な出演者とプログラムで「バレエ往来のクロスロード」としてこの夏のバレエ・シーンを彩るに違いない。

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『La fille mal gardée』
ミラノ・スカラ座バレエ・アカデミー
photo by Elisa Todeschini
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  • 『Largo』より
    ミラノ・スカラ座バレエ・アカデミー
    photo by Annachiara Di Stefano
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『シンフォニエッタ』
新国立劇場バレエ研修所
©瀬戸秀美