バレエ&ダンス公演関連ニュース

「バレエ・アステラス 2023」作品解説(8月4日更新)

※出演を予定しておりました石原古都(カナダ国立バレエ)は体調不良のため降板いたしました。

この降板に伴い、『眠れる森の美女』第3幕よりパ・ド・ドゥは、石原古都に代わってジェシカ・シュアン(オランダ国立バレエ)が出演いたします。また、『In Our Wishes』に代わり、『アルルの女』よりラストソロ(ファランドール)を上演いたします。

詳細はこちらよりご確認ください。(8月4日更新)

「バレエ往来の交差点=クロスロード」の役割を担う魅力ある公演をめざし、今回も魅力的な作品が揃いました。

人気の古典作品から日本初演の現代作品まで、多彩なプログラムでバレエの「今」を劇場でぜひ体感してください。




◆作品解説執筆:實川絢子

舞踊ジャーナリスト。東京生まれ。東京大学大学院およびロンドン・シティ大学大学院修了。幼少より14年間バレエを学ぶ。2007年英国ロンドンに移住。ダンサーや振付家のインタビューを数多く手がけるほか、公演プログラムやウェブ媒体、本、雑誌などにバレエ関連の記事を執筆。



『La fille mal gardée』よりパ・ド・ドゥ

出演:ミラノ・スカラ座バレエ・アカデミー
振付:フレデリック・オリヴィエリ 音楽:ルートヴィヒ・ヘルテル 
『藁のバレエ、または善と悪は紙一重』1789年初演、フレデリック・オリヴィエリ版2023年初演

作品解説

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photo by Elisa Todeschini

『La fille mal gardée』は現存するバレエの中でも、最も古いバレエのひとつ。その起源は、1789年フランス革命直前に初演された、ジャン・ドーベルヴァル振付『藁のバレエ、または善と悪は紙一重』にまで遡る。その後タイトルや登場人物の名前、振付や音楽が改められ、19世紀、20世紀を通していくつもの版が誕生したが、農家の一人娘リーズが、お金持ちとの結婚を願う母親に反対されながらも、最終的に貧しくても魅力ある恋人コーラスとの結婚にこぎつけるという喜劇的なストーリーは残されている。今回上演されるのは、ミラノ・スカラ座バレエ・アカデミーの校長であるフレデリック・オリヴィエリが、生徒たちの実力と若々しいエネルギーを見せるために振り付けた、2023年4月に初演されたばかりの新版。英国や日本でよく知られている1960年初演のフレデリック・アシュトン版はフェルディナン・エロルドによる楽曲を使用しているが、今回のオリヴィエリ版は1864年にマリー・タリオーニの兄パオロ・タリオーニが振り付けた版のために作曲された、ルートヴィヒ・ヘルテルによる楽曲の方を使っている。

『ジゼル』第2幕よりパ・ド・ドゥ

出演:木村優里、中家正博

振付:ジャン・コラリ / ジュール・ペロー/マリウス・プティパ 音楽:アドルフ・アダン 1841年初演

作品解説

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19世紀ロマンティック・バレエの名作として知られる『ジゼル』。フランスのロマン派を代表する詩人であり、評論家としても活躍したテオフィル・ゴーティエが、ハインリヒ・ハイネの著作『ドイツ論』の中に登場するウィリの伝説(結婚前に亡くなった娘たちがウィリと化し、森にさまよい込んだ男たちに取り憑いて死ぬまで踊らせる)に着想を得て、ファンであったカルロッタ・グリジに踊らせることを念頭に台本を書いた。今回上演されるのは、恋人アルブレヒトに騙されたショックで命を落とした村娘ジゼルが、ウィリとなって蘇り、男たちを踊り死にさせようとするウィリの女王ミルタから、恋人を守ろうとする第2幕のパ・ド・ドゥ。1幕のいきいきとした人間的な村娘の踊りから一転、ロマンティック・バレエ独自のラインを描き、重力を感じさせないウィリとして踊る。この世の者ならぬウィリとなってなお、かつての恋人への愛と強い意志を滲ませて踊るジゼルの姿は、19世紀から変わらず人々の心を揺さぶってやまない。

『サタネラ』よりパ・ド・ドゥ

出演:後藤絢美、三宅啄未

振付:マリウス・プティパ 音楽:チェーザレ・プーニ 1859年初演

作品解説


『サタネラ』の起源は、ジョセフ・マジリエ振付、ルベル/ブノワ作曲によって1840年にパリで初演されたバレエ=パントマイム作品『悪魔の恋』に遡る。カゾットによる同名の幻想小説を下敷きにした、美女に変身した悪魔と青年の恋物語だ。48年にプティパ親子がロシアに持ち込み、リャードフ編曲のもと、タイトルを『サタネラ』に変えて上演。一方、今回上演されるパ・ド・ドゥの部分は、プティパが59年に振り付けたもの。プーニが編曲したパガニーニ作曲「ヴェネチアの謝肉祭」を使用し、バレエにも同名のタイトルが使われていたが、のちにこのパ・ド・ドゥを前述の『サタネラ』全3幕の一部として上演したため、現在は『サタネラ』のパ・ド・ドゥと呼ばれている。ちなみに、サタネラという名前は、悪魔を意味する〈サタン〉からくると言われており、アダージオでは小悪魔的な魅力を放つサタネラが仮面をつけて登場、途中で仮面を取って素顔を見せるというドラマティックな演出がよく用いられている。現在では、男女ともにダイナミックな跳躍や回転など見せ場の多いこのパ・ド・ドゥ部分のみが残り、コンクールやコンサートなどでよく上演されている。

『コッペリア』よりパ・ド・ドゥ

出演:ジェシカ・シュアン、山田 翔

振付:マリウス・プティパ 音楽:レオ・ドリーブ 1870年初演

作品解説


『コッペリア』は、フランス人振付家であり、ロシア帝室バレエ団のメートル・ド・バレエも務めたアルテュール・サン=レオンによって振り付けられ、1870年にパリで初演された全3幕のバレエ作品。その後1884年にプティパがロシア帝室バレエ団のために再振付したものが、ロシア革命後英国に伝えられ、1933年に英国ヴィック=ウェルズ・バレエ団(現在のロイヤル・バレエの前身)が上演。英国ロイヤル・バレエ団は、その時に主演したニネット・ド・ヴァロワによる版を今なおレパートリーとしている。物語の下敷きになっているのは、E.T.A.ホフマンによる怪奇小説『砂男』。好奇心いっぱいの村娘スワニルダと恋人のフランツ、変わり者の人形師コッペリウスを中心として、フランツが人形コッペリアに恋をしたことをきっかけにコミカルな物語が展開する。今回上演されるのは、数々の冒険を経て、仲直りしたスワニルダとフランツが結婚式で披露する第3幕の〈平和のグラン・パ・ド・ドゥ〉。ゆったりとした曲調のドリーブの音楽にのせ、お互いへの信頼を取り戻したふたりの愛が描かれる。

『眠れる森の美女』第3幕よりパ・ド・ドゥ

出演:石原古都、吉山シャール ルイ
振付:マリウス・プティパ 音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー 1890年初演

作品解説


1890年にマリインスキー劇場で初演された『眠れる森の美女』は、シャルル・ペローによるおとぎ話を題材に、プティパとチャイコフスキーとの密な連携によって精緻に作り込まれた作品。グラン・パ・ド・ドゥやディヴェルティスマンが秩序だって配され、クラシック・バレエの様式美はこの作品によって確立されたとも言われている。ダンサーにとっては、厳格なアームスの形や身体の向き、ごまかしの効かないステップを振付の通りにきっちりと踊ることが求められ、まさにクラシック・バレエの真髄が詰まっている作品と言えるだろう。なかでも第3幕のオーロラ姫とデジレ王子の結婚式のパ・ド・ドゥは、1、2幕と通して踊ってきた主演バレリーナにとっては体力的にも、技術的にも非常にチャレンジング。そのうえで、初々しさの残る16歳の姫から成長して、誕生時に妖精たちから受け取った贈り物を自分のものとし、気品あふれる大人の女性となった姿に説得力を持たせなければならない。フィッシュダイヴをはじめとするアイコニックな造形が随所に散りばめられ、グランドフィナーレに相応しい華やかなパ・ド・ドゥである。

『Shakespeare Suite』よりロメオとジュリエット(8/6上演)

出演:水谷実喜、ロックラン・モナハン
振付:デヴィッド・ビントレー 音楽:デューク・エリントン  1999年初演

作品解説


英国バーミンガム・ロイヤルバレエによって1999年に初演された『Shakespeare Suite』は、デューク・エリントンとビリー・ストレイホーン作曲によるジャズ音楽とともに、シェイクスピアの戯曲に登場するさまざまなキャラクターをフィーチャーする小作品。エリントンもストレイホーンも、ともに大のシェイクスピアファンとして知られ、実際にシェイクスピア作品からインスパイアされたというアルバム「Such Sweet Thunder」の楽曲も組み込まれている。マクベスとマクベス夫人、妖精の女王タイターニアとロバのボトム、オセローとデズデモーナなど、お馴染みのキャラクターの本質を軽いタッチで鋭く描き出す短いダンスが次々に展開する、物語バレエと抽象バレエの間のような作品だ。今回上演されるロミオとジュリエットのパートは、しっとりとした曲調に合わせて悲運の星のもとに生まれた恋人たちが磁石のように惹かれ合うさまを描いており、ドラマティックで重厚なプロコフィエフによる作品とはまた違った味わいがある。

『シンフォニエッタ』

出演:新国立劇場バレエ研修所、京當侑一籠(牧阿佐美バレヱ団)
振付:牧 阿佐美 音楽:シャルル・グノー 2006年初演

作品解説

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『シンフォニエッタ』は、長きにわたって日本バレエ界を牽引し、2021年に逝去した牧阿佐美が新国立劇場バレエ研修所の第3期生のために振り付けたショーケース的な作品。オペラ『ファウスト』で知られるフランス・オペラの作曲家シャルル・グノーによる交響曲第1番ニ長調の第1楽章と第4楽章をアレンジして使用している。2006年にワシントンD.C.のケネディセンターで開催された"Protégés"(国際バレエ学校フェスティバル)で初演されて以来、歴代の研修生たちが踊り継いできた、新国立劇場バレエ研修所が世界に誇る財産のような作品である。一糸乱れぬ爽快なアンサンブル、クリーンでフレッシュなパ・ド・ドゥ、男性ダンサーたちによる迫力ある跳躍など、研修生たちが披露するどこまでも研ぎ澄まされたダンス・クラシックのステップが、音楽と一体となって清々しい印象を放つ。

『Largo』より

出演:ミラノ・スカラ座バレエ・アカデミー

振付:マッテオ・レヴァッジ 音楽:ヨハン・ゼバスティアン・バッハ  2007年初演

作品解説

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Photo by Annachiara Di Stefano

ダンサーとして活躍したのち、1999年にわずか23歳にしてトリノ・バレエの常任振付家に任命され、以来国際的に高い評価を得ているイタリア人振付家マッテオ・レヴァッジ。『Largo』はもともと、2007年にスイスのジュネーヴ大劇場バレエのためにショスタコヴィッチの音楽に振り付けられた男女のデュエットだったが、22年、ミラノ・スカラ座バレエ・アカデミーの学校公演のために男性2人、女性1人の構成に改訂された。音楽もバッハの無伴奏チェロ組曲第1番に変更され、よりダイナミックで空間的な広がりと若々しいエネルギーを感じさせる作品に生まれ変わった。力強いダンス・クラシックのステップを基盤に、随所にフォーサイスの影響を感じさせる造形を組み込み、学校公演のための作品とは思えないほど洗練された雰囲気に仕上がっている。

『シンデレラ』よりパ・ド・ドゥ(8/5上演)

出演:水谷実喜、ロックラン・モナハン

振付:デヴィッド・ビントレー 音楽:セルゲイ・プロコフィエフ 2010年初演

作品解説


1995年から2019年まで英国バーミンガム・ロイヤルバレエの芸術監督を務めたデヴィッド・ビントレーが2010年に振り付けた『シンデレラ』。ビントレーが師と仰ぎ、英国バレエの父と呼ばれるフレデリック・アシュトンの版が典型的な〈おとぎ話〉の世界を描いたとするなら、ビントレー版の核にあるのは、おとぎ話の枠を超越した〈ヒューマニティ〉だ。ビントレーが目指したのは、シンデレラが味わう苦しみ、喜びを通して、現代の観客が心から共感できるリアルなキャラクターをつくり出すこと。今回上演される第2幕の舞踏会の場面は、大広間は星空でできており、実際に宮廷で開かれる舞踏会というよりはむしろ、辛い生活を強いられたシンデレラの想像力が作り出した舞踏会として描かれる。すべてはシンデレラにとって夢のような出来事であり、観客はこの場面を通してそんなシンデレラの心の琴線に触れることで、第3幕で王子がみすぼらしい姿のままのシンデレラと幸せそうに踊る姿がより心温まるものとなる。

『ドン・キホーテ』第3幕よりパ・ド・ドゥ

出演:栗原ゆう、マイルス・ギリバー

振付:カルロス・アコスタ 音楽:レオン・ミンクス 2013年初演

作品解説

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『ドン・キホーテ』は、セルバンテスの同名小説内のエピソードに基づく全3幕のバレエ。バルセロナの宿屋の娘キトリと、床屋の息子バジリオの恋を中心としたコミカルな物語で、1869年にレオン・ミンクスの音楽にプティパが振り付け、その後1900年に弟子のアレクサンドル・ゴルスキーによる改訂版が上演された。なかでも、第3幕のキトリとバジリオの結婚式のパ・ド・ドゥは、ダイナミックなリフトや跳躍、32回転のグラン・フェッテ・アン・トゥールナンなどの超絶技巧が盛りだくさんで、ガラを盛り上げる定番演目となっている。今回上演されるカルロス・アコスタ版は、世界中で様々な版の『ドン・キホーテ』を踊ったアコスタその人を象徴するような、エネルギーと遊び心に満ちた演出が魅力。プティパ/ゴルスキー版のエキサイティングな踊りを基盤としつつ、あくまで自然体の〈リアルな人間らしさ〉にこだわっている。英国ロイヤルバレエのほか、現在アコスタが芸術監督を務める英国バーミンガム・ロイヤルバレエのレパートリーにも入っており、今回出演する栗原ゆうは昨年の現地公演で主役に大抜擢されて注目が集まった。

『No Man's Land』よりファイナル・パ・ド・ドゥ(8/5上演)

出演:吉田合々香、ジョール・ウォールナー

振付:リアム・スカーレット 音楽:フランツ・リスト 2014年初演

作品解説


第一次世界大戦開戦から100周年にあたる2014年、4人の振付家に〈戦争〉をテーマにする作品をコミッションしたイングリッシュ・ナショナル・バレエの野心的なプログラム「Lest We Forget」で初演された約40分間のバレエ。タイトルが意味する〈無人地帯〉とは、第一次世界大戦をきっかけに広まった言葉で、敵味方両軍が対峙して膠着状態にある場所のことを指し、そこに行ったが最後2度と帰ってくることはないというニュアンスが含まれている。戦争を知らない世代であるスカーレットがテーマに選んだのは、さまざまなレベルでの〈別離〉。死と隣り合わせの前線に送られた男たちと、彼らがいない間、軍需工場で働き、手を黄色く染めながら爆発物を生産して男たちの帰りを待つ女性たちの間の距離、生きてまた再会する日を夢見る一筋の希望、そしてその喪失を描く。今回上演されるデュエットでは、哀しくも美しいリストの旋律にのせ、〈男のいない土地〉で待つ女の哀しみが刹那的にダンスで表現され、女の中に残された男のぬくもりや形の記憶が、まるで残像のようにして観る者の心に残る。

『夏の夜の夢』よりファイナル・パ・ド・ドゥ(8/6上演)

出演:吉田合々香、ジョール・ウォールナー

振付:リアム・スカーレット 音楽:フェリックス・メンデルスゾーン 2015年初演

作品解説

Queensland Ballet's A Midsummer Night's Dream 2016




2021年、享年35歳でこの世を去った英国期待の若手振付家リアム・スカーレットが、15年にロイヤル・ニュージーランド・バレエに振り付けた作品。『フランケンシュタイン』、『ヘンゼルとグレーテル』、『不安の時代』など、ダークな題材を取り扱うことの多かったスカーレットが珍しく手がけた喜劇的要素の強い物語バレエだ。原作はもちろん、シェイクスピア作品の中でも最も人気のある戯曲のひとつ。アテネの貴族たちの世界、職人たちの世界、妖精の世界、という3つの構造が妖精パックの媚薬によって交錯する様を、お馴染みのキャラクターにそれぞれ特徴あるステップと驚きに満ちた振付を与えることで、色鮮やかにバレエ化してみせた。今回上演されるのは、大喧嘩をして騒動の元凶となった、妖精女王タイターニアと妖精王オベロンが和解する場面のパ・ド・ドゥ。メンデルスゾーンの音楽にのせ、相手を慈しむような優しさを持って踊られる愛のデュエットは、物語のクライマックスに相応しい高揚感に満ちている。

『Love Fear Loss』よりLossのパ・ド・ドゥ

出演:五十嵐愛梨、セルジオ・マセロ
振付:リカルド・アマランテ 音楽:エディット・ピアフ 2016年初演

作品解説

"LOVE FEAR LOSS" Original Cast PREMIERE



ブラジル出身のリカルド・アマランテは、パリ・オペラ座バレエ団やベルギー王立ロイヤルフランダースバレエ団で踊った経験を持ち、2015年よりカザフスタンのアスタナ・バレエのレジデント・コレオグラファーを務めるなど、国際的に活躍する注目の振付家だ。2016年に初演され、フランスで受賞歴もある『Love Fear Loss』は、シャンソン歌手エディット・ピアフの生涯と彼女の歌にインスパイアされた作品。名曲「愛の讃歌」に振り付けられた、ふたりの男女の関係の始まりを描く〈Love〉、「行かないで」に振り付けられた、お互いに無関心となることへの〈Fear〉、そして「モン・デュー(私の神様)」に振り付けられた、愛の喪失を描いた〈Loss〉の3パートで構成されている。なかでも特にドラマティックなのが、最愛の人を不慮の事故で亡くしたピアフ自身の悲劇に重なる〈Loss〉。フィギュアスケートを彷彿とさせるネオクラシカルの流れるような振付が、繊細なピアノの旋律にシームレスにマッチし、深い余韻を残す。

『SOON』

出演:刈谷円香、パクストン・リケッツ
振付:メディ・ワレルスキー 音楽:ベンジャミン・クレメンタイン 2017年初演

作品解説

SOON - Trailer



ネザーランド・ダンスシアター(NDT)で長年活躍し、キリアンの後継者と呼ばれることも多いメディ・ワレルスキー。現在、カナダのバレエ・ブリティッシュ・コロンビアの芸術監督も務めるワレルスキーが2017年に振り付けた『SOON』は、マーキュリー賞受賞、元ホームレスという異色のソングライター、ベンジャミン・クレメンタインの楽曲に振り付けられた作品だ。ポール・マッカートニーやビョークも夢中になったというクレメンタインのコンサートに衝撃を受けたワレルスキーは、その創作動機について、「彼のユニークな歌声と、生々しく、どこまでも深い歌詞が創作欲に火をつけた」と語っている。今回上演されるデュエットでは、シンプルな動きを音に合わせて引き伸ばしたり、素早く行ったりする中で、楽曲「Pound Sterling」で歌われるクレメンタイン独自の人生観がプレイフルに具現化される。ハスキーなヴォイスが奏でる哀愁漂う音楽がダンサーをつき動かし、音楽と舞踊の対話を通して人間が生きる意味を問いかけるような作品に仕上がっている。

『In Our Wishes』

出演:石原古都、吉山シャール ルイ
振付:キャシー・マーストン 音楽:セルゲイ・ラフマニノフ 2020年初演

作品解説


英国らしいテーマの物語バレエを数多く手がけ、振付を通じて複雑な物語を鮮やかに描き出すことで知られる女性振付家、キャシー・マーストン。昨今ではノーザン・バレエの『ジェーン・エア』(2016年初演)、『ヴィクトリア』(19年初演)、英国ロイヤルバレエの『ザ・チェリスト』(20年初演)などが高く評価されている。20年10月に英国ロイヤルオペラ・ハウスにて初演された『In Our Wishes』は、ドイツのゲルゼンキルヒェン市立歌劇場バレエのために振り付けられた『3人姉妹』の中のデュエットが元になっており、ロンドンを拠点とする人気デザイナー、ロクサンダ・イリンチックが衣裳を手がけたことでも話題になった。流れるようなリフトが美しく、男女のかけがえのない愛と、それでも乗り越えられないふたりの間の壁、そしてその愛の終わりという繊細なドラマが、ラフマニノフのメランコリックな旋律とともに、短い時間のなかに凝縮されて描き出されている。