新国立劇場 2010/2011 SEASONシーズンオペラ公演

オペラ 蝶々夫人|新国立劇場

愛を信じ、愛ゆえに死を選んだ蝶々さんの悲劇。涙を誘う感動作。


オペラ「蝶々夫人」エッセイ


ジャポニスムに彩られたプッチーニの恋文 加藤 浩子 (音楽評論家)

「プッチーニ・ヒロイン」という言葉がある。プッチーニ・オペラの大半に登場する、可憐で女らしく、恋人に一途な愛を捧げる女性たちのことだ。彼女たちの愛は、命も投げ出すほど大きく、深い。

『蝶々夫人』のヒロイン、蝶々さんは、そんな「プッチーニ・ヒロイン」の極北にいる。芸者という男女の機微をわきまえておくべき職業でありながら、乙女(蝶々さんは「15歳」と設定されている)らしいひたむきさでピンカートンを愛し、現地妻であることを受け入れずにひたすら彼を待つ。冷静に考えれば不自然といえなくもない設定なのだが、プッチーニの音楽の魔法は聴き手を蝶々さんに引きつけて離さない。

長身美男のピンカートンに一目ぼれし、初夜の歓びに酔い、待つわびしさに耐えながらも希望を失わず(名アリア「ある晴れた日に」は、蝶々さんのけなげさの結晶だ)、言い寄る男を毅然と退け、ピンカートンの「帰国」に躍り上がり、心変わりという真実を突きつけられて絶望し、死を決意する・・・プッチーニは、ひとりの女性のそんな心の動きを、彼が身につけたあらゆるテクニックを動員して、巧みに細やかに、そしてどこまでも美しく追うことで、ひとつの傑作を創りあげてしまった。

その筆致には、「蝶々さん」への限りない愛がこめられている。自分のオペラなどとても聴けない、と言っていたプッチーニが、『蝶々夫人』だけは最後まで聴ける、と評価していたという。彼は「全世界の人々を泣かせたい」と本気で考えていた作曲家だが、『蝶々夫人』が泣けるオペラの最右翼であるのは、プッチーニがいかにこの作品に入れ込んでいたかの証左ではないだろうか。

言うまでもなく『蝶々夫人』は、日本を舞台にしたオペラであり、それゆえ日本人に特別な親近感を抱かせる作品でもある。プッチーニは作曲にあたり、日本の旋律を収集してあちこちに取り入れた。精緻なオーケストラから時折聴こえる「お江戸日本橋」や「さくらさくら」に、親しみやすさをおぼえるひとも少なくないだろう。その一方で、作品のなかに見え隠れする日本への尊大な視線に違和感を感じるという声も、ないわけではない。

けれど「日本趣味(ジャポニスム)」は、世紀末ヨーロッパを席巻した流行だった。そしてジャポニスムに傾倒した芸術家のほとんどは、現実の日本を知らなかった。プッチーニも日本の土を踏んではいない。でもだからこそ、彼の想像力は自由に羽ばたいたのだろう。

プッチーニの私生活は、決して満たされたものではなかった。『蝶々夫人』の作曲当時はコリンナという女性と恋仲になり、うまく手を切れずに痛い目にあっている。『蝶々夫人』はプッチーニにとって、好みの色に染めた「日本」という便せんに認めた、現実にはいない理想の女性への恋文だったのではないだろうか。

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愛を信じ、愛ゆえに死を選んだ蝶々さんの悲劇。涙を誘う感動作。 オペラ「蝶々夫人」を是非ご鑑賞ください!
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