『ドン・ジョヴァンニ』『フィガロの結婚』とともにモーツァルトの「ダ・ポンテ三部作」として知られる最後の作品。2組のカップルが恋人を交換するという他愛のない喜劇、その中に、鋭い洞察による男女の感情の機微、人間の本質や愚かさが潜む傑作です。二重唱をはじめ三重唱、四重唱、五重唱と、ほのかな感情の交錯を表現する均整のとれた優美なアンサンブルは、モーツァルト・オペラの極致といってもよい美しさ。心が洗われるような繊細な音楽が全編にわたって続きます。
レプシュレーガーの演出は、微妙な心情の動きを追いながら、危ういモラルの転換を明るみにしていきます。美術は昨年の『スペインの燦き』に続いて、マルチデザイナーのピッツィゴーニが登場、美しく凝った舞台美術に加え、演劇的に大きなポイントとなる"変装"の見せ方にも期待できます。
6人のソリストには、新国立劇場でも大人気の歌手たちが勢揃いする贅沢なキャスティング。姉妹役には、当代きってのモーツァルト歌いと評されるヴェロニク・ジャンスに、この夏カルメンを鮮烈に演じた新星エッレラ。恋の指南役の小間使いデスピーナには、スザンナでも大活躍した芸達者の中嶋彰子。対する恋人役には、ローゼンの再登場に、メトロポリタン歌劇場期待の新鋭テノールのグレゴリー・トゥレイ。そして哲学者ドン・アルフォンソには、ファルスタッフで円熟の演唱を見せたヴァイクルが扮します。繊細な音楽をまとめるのは、『ファルスタッフ』でも緻密なアンサンブルを作り上げた、バレンボイム秘蔵の若手指揮者エッティンガー。舌の肥えたオペラ上級者にも存分に味わってほしい、上質な舞台にご期待ください。
ものがたり
グリエルモとフェルランドは、美しい姉妹フィオルディリージとドラベッラとそれぞれ婚約している。老哲学者ドン・アルフォンソにそそのかされ、ふたりは恋人の貞節について賭をすることになる。出征するふりをして偽りの別れを演じた後、アルバニア人に変装して姉妹をあの手この手で口説くふたり。姉妹の心は次第に揺らぎ、ドラベッラが姉の婚約者グリエルモに、さらにフィオルディリージもフェルランドの口説きに陥落してしまう。新しい2組のカップルの結婚式が行われるところに、軍隊(婚約者)の帰還が告げられる。
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