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会報誌 The Atre 10月号の記事を掲載しました。

「ヘンリー六世」稽古始まる!   ―稽古初日レポート

 

この舞台に関わるすべての人にとって、8月17日は忘れられないものになったはずだ。通し上演9時間を予定する「ヘンリー六世」、稽古初日のこの日に行われた本読み(台本を声に出して読む)は約11時間かかった。初めての経験に、キャストとスタッフは改めて、登る山の大きさを実感したようだった。

文◎徳永京子(演劇ジャーナリスト)

会報誌 The Atre 10月号掲載

 

e58699e79c9faどんな舞台も稽古初日は特別だ。けれどこの「ヘンリー六世」は〝特別〟の規模が違う。新国立劇場で最大の稽古場に集まったキャスト、スタッフ、関係者は、総勢約100名。全員の紹介に20分以上かかった。これだけの人が、おのおの緊張感や高揚感を発しながらひとつの部屋に集まると、それだけで何となく演劇的な空気が生まれる。広い稽古場に居並ぶのは、21世紀初頭の平服に身を包んだ日本人ばかりなのに、ざわざわした雰囲気はどこかすでに日常から浮き上がっている。
 最初の挨拶は翻訳の小田島雄志から笑顔で。「本当にひとこと、申し上げます。とても楽しみです」
 簡潔で、しかもキャストとスタッフへの信頼が感じられる温かな言葉に、多くの人が緊張をやわらげ、同時に一層、襟を正した。続く演出の鵜山仁の言葉。e58699e79c9fg
「台本にある台詞を一行一行、稽古を一日一日。そこにあるドラマを積み重ねていくことをきっちりやっていけば、(結果として)とんでもない作品になるんじゃないかと思っています。とはいえ毎年出来るような(規模の)作品ではありません。せいぜい景気よく花火を打ち上げましょう」
 そのあと、この日、最後まで通して本読みをすることが発表された。第一部が終わったら短い休憩、第二部が終わったら夕食を取る長めの休憩、そのあとに第三部。
「どうなるかわかりませんが、まぁ、行けるところまで行ってみましょう」
 e58699e79c9fc午前10時50分。ゴングは鳴った。最初の台詞はベッドフォード公役の金内喜久夫。そしてグロスター公役の中嶋しゅう、次にエクセター公役の菅野菜保之、ウィンチェスター司教役の勝部演之。ベテラン勢の説得力ある低音が、長いドラマの発端となるヘンリー五世の死を形づくる。シェイクスピアの描いたキャラクターが、あちこちでいきいきと呼吸を始める。場面はウェストミンスター寺院からフランスのオルレアン、そしてロンドンと、次々と変わり、オープニングは走るように始まった。
 とはいえ三部は長い。赤、白、黒に色分けされた三冊の台本の最後のページが閉じられたのは午後10時。自然と拍手が沸く。出演者の表情には疲労の色と合わせて大きな達成感が濃く浮かんでいた。e58699e79c9fefbc944

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