平成20年度 新国立劇場 高校生のためのオペラ鑑賞教室 椿姫

指揮者が語るオペラ「椿姫」の魅力

音楽について

ではこんどは音楽についていくつかお話しましょう。
オペラの最初には「前奏曲」が置かれています。これは舞台の幕が開く前にオペラのあらましを説明するものなのです。では「ラ・トラヴィアータ」の前奏曲はどんな情景が描かれているのでしょうか?
前半の部分はヴィオレッタの悲劇的な面を表す音楽で、弦楽合奏の弱音ではじまります。第3幕が始まる時彼女は病の床にいますが、ここでも前奏曲の開始部分と同じ音楽がさらに悲痛な調子となって聞こえてきます。
前奏曲後半は明るい調子となって愛に生きるヴィオレッタを描いています。二幕の途中で「あなたを愛しているわ、アルフレード」と歌うメロディーがヴァイオリンとチェロによって奏でられます。
というわけでこの前奏曲全体ではヴィオレッタの悲劇と愛について説明してると言えるのです。一つお願いがあります!この前奏曲の開始、つまりオペラ全体の一番開始はとても繊細な音で始まります。できるだけ耳を澄ましてその悲劇的で且つ美しい弦楽器の音色を聴いていただきたいのです!

この作品を作曲したジュゼッペ・ヴェルディはドラマの効果をあげるために様々な音楽的な工夫をしています。通常はオーケストラピットと呼ばれる穴ぐらからオーケストラは聞こえてくるのですが、例えば遠くで鳴っているダンス音楽を表現するためにみなさんの目に見えない上手(かみてと読みます。みなさんから見て舞台右手)の奥にもう一つの編成の小さなオーケストラ(バンダといいます)がいるのです。このバンダは有名な「乾杯の歌」の直後、上手の奥からダンス音楽を演奏します。
また3幕ではパリの祭りの喧噪を表現するために下手(しもて)で合唱団とバンダ(やはり皆さんには見えません)が演奏します。舞台上で弱ったヴィオレッタが<さようなら、過ぎ去った日よ>と歌ったあとに聞こえてくるので、その対比がいともあざやかです。このような劇場の空間を考慮した立体的な響きが追求されているのです。是非そんな点にも注目してみてください。