bunkacho_geijutsusai_symbolmark.gif平成28年度(第71回)文化庁芸術祭協賛公演

2016/2017シーズン
「フリック」
The Flick
小劇場

デジタル化の波を背景に、若者たちの焦燥感をコメディタッチで描く

2012年『負傷者16人-SIXTEEN WOUNDED-』、14年『永遠の一瞬』、15年『バグダッド動物園のベンガルタイガー』に続く、現代欧米戯曲の日本未発表作品を上演する企画。その第4弾として2014年ピュリッツァー賞受賞作を取り上げます。
マサチューセッツの寂れた映画館を舞台に、アナログからデジタルに移りゆく時代に、「今をどのように生きなければいけないか」を問われる若者たち。「現実的自然主義者」と評される作者ならではの筆致で、さまざまな条件を課されながらも"生きていかなければならない"若者たちの焦燥感を描きます。
演出を手掛けるのは、02年『かもめ』以来、新国立劇場に14年ぶりの登場となるマキノノゾミ。『OPUS/作品』『バグダッド動物園のベンガルタイガー』などの翻訳でもお馴染みの平川大作とタッグを組み、繊細かつ大胆に描く意欲作です。

楽しいコラム始まりました↓









2016/2017シーズン演劇 オープニング3作品セット割

10月「フリック」と11-12月「ヘンリー四世 第一部‐混沌‐」「ヘンリー四世 第二部‐戴冠‐」の3作品を同時購入すると割引になる"3作品セット割"を実施。
2016/2017シーズンのオープニングをつとめる3作品をセットでお得にお求めいただけます。

詳しくは、以下のバナーより御覧ください。(2016年8月7日10:00~ 一般前売開始!)

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ニュース

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動画

『フリック』フォトコール・囲み取材・舞台映像


『フリック』PV稽古場映像


『フリック』ティザー映像


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公演日程・チケット

公演日程

2016年

10/13

10/14

10/15

10/16


10/17

10/18

10/19

13:00託児マーク小.jpg

13:00



13:00 13:00
18:30 18:30

2016年

10/20

10/21

10/22

10/23

10/24

10/25

10/26

13:00★

13:00

13:00



13:00託児マーク小.jpg 13:00
18:30託児マーク小.jpg 18:00

2016年

10/27

10/28

10/29

10/30

13:00

13:00託児マーク小.jpg

18:30 18:30 18:00

託児マーク小.jpg託児室<キッズルーム「ドレミ」>をご利用いただけます。

  

※10/18日(火)・19日(水)・26日(水)公演には学校団体が入る予定です。

予定上演時間:約3時間(1幕90分 休憩15分 2幕75分)

※時間は変更になる場合があります。最新の情報はボックスオフィスまでお問い合わせください。(10月12日更新)

 

 

新国立シアタートーク(入場無料。ただし満席の場合、制限有)

 日時:10月20日(木)公演終了後 小劇場

 出演:マキノノゾミ、木村了、ソニン、菅原永二、宮田慶子   司会:中井美穂

 入場方法:本公演のチケットをご提示ください。

 

マンスリー・プロジェクト(入場無料・要申込み)

 演劇講座1 「アメリカの演劇と映画」

 日時:9月16日(金)19:00/17日(土)11:00 情報センター

 講師:平川大作(大手前大学メディア・芸術学部教授)

演劇講座2 シリーズ「世界の演劇の今」Ⅷ ―アメリカ 3 ―

 日時:10月23日(日)18:00 小劇場

 講師:谷 佐保子(早稲田大学非常勤講師)

予定しておりました内野 儀は、健康上の理由により登壇できなくなりました。代わりまして、谷 佐保子が「ピュリッツァー賞受賞作品とアメリカ社会」-2016年、日本に上陸した最新アメリカ演劇を中心に-というテーマで講演いたします。(10月19日発表)

 募集期間:上記の2講座とも7/21(木)~

 

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チケット料金(税込)

席種A席B席
6,480円 3,240円

座席表PDFファイルを開きます

クラブ・ジ・アトレ会員の方は、先行販売期間は上記料金の10%OFF、一般発売以降は5%OFFでお求めいただけます。

Z席 1,620円

今すぐチケットを購入する

前売り開始日

会員先行販売期間:2016年7月24日(日)~8月3日(水)
一般発売日:2016年8月7日(日)

2016/2017シーズン演劇 オープニング3作品セット割情報

10月「フリック」と11-12月「ヘンリー四世 第一部‐混沌‐」「ヘンリー四世 第二部‐戴冠‐」の3作品を同時購入すると割引になる"3作品セット割"を実施。
2016/2017シーズンのオープニングをつとめる3作品をセットでお得にお求めいただけます。

詳しくは、以下のバナーより御覧ください。 (一般前売り開始2016年8月7日(日)10:00~)

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座席表

座席表PDFファイルを開きます

スタッフ・キャスト

スタッフ

アニー・ベイカー
翻訳
平川大作
演出
マキノノゾミ
  • 平川大作

    (翻訳)

    平川大作

  • マキノノゾミ

    (演出)

    マキノノゾミ

プロフィールを表示する

プロフィール

アニー・ベイカー(Annie BAKER)
1981年生れ。アメリカの劇作家。
2013年にPlaywrights Horizonsで上演されたオフ・ブロードウェイ作品『フリック(The Flick)』で2014年第98回ピュリッツァー賞を受賞。マサチューセッツの寂れた映画館を舞台にした3人の従業員たちの物語を丁寧に描いた。
その他の主な作品に『ボディ・アウェアネス(Body Awareness)』、『サークル・ミラー・トランスフォーメーション(Circle Mirror Transformation)』、『ザ・エイリアン(The Aliens)』など。
平川大作(HIRAKAWA Daisaku)
九州大学文学部、大阪大学大学院演劇学専攻で学び、「ひょうご舞台芸術」に調査研究員として参加。2000年より大手前大学に勤務。メディア・芸術学部教授。主な翻訳作品に01年『コペンハーゲン』(新国立劇場)、03年『扉を開けて、ミスター・グリーン』(ひょうご舞台芸術)、12年『アテンプツ・オン・ハー・ライフ』(エイチエムピー・シアターカンパニー)、13年『OPUS/作品』(新国立劇場、15年『バグダッド動物園のベンガルタイガー』(新国立劇場)など。11年『モジョ ミキボー』(オーウェン・マカファーティ作)で第3回小田島雄志・翻訳戯曲賞受賞。
マキノノゾミ(MAKINO Nozomi)
1984年劇団M.O.P.結成、2010年の解散公演まで主宰を務める。1994年『MOTHER』で第45回芸術選奨文部大臣新人賞を、97年『東京原子核クラブ』で第49回読売文学賞、98年『フユヒコ』で第5回読売演劇大賞優秀作品賞、2000年『高き彼物』で第4回鶴屋南北賞、01年『黒いハンカチーフ』『赤シャツ』で第36回紀伊國屋演劇賞個人賞、08年『殿様と私』で第15回読売演劇大賞優秀作品賞、10年『ローマの休日』の演出・脚本の成果に対し第36回菊田一夫演劇賞受賞など、受賞多数。演出のみを手掛けた主な作品に、『かもめ』、『淋しいのはお前だけじゃない』、『マリーアントワネット』、『雪まろげ』、『秘密はうたう』など。新国立劇場では『怒濤』を演出している。

美術
奥村泰彦
照明
中川隆一
音響
内藤博司
衣裳
三大寺志保美
ヘアメイク
川端富生
演出助手
郷田拓実
舞台監督
澁谷壽久

キャスト

木村 了 ソニン 村岡哲至 菅原永二

    • 木村 了

    • ソニン

    • 村岡哲至

    • 菅原永二

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ものがたり

マサチューセッツ州ウースター郡の古びた映画館。いつか映写係になることを夢見て働くサム。映画狂のエイヴリー。まだ35mmフィルムで映画を映写しているこの映画館だからこそ働きたい、とようやく働き口を見つけたにも関わらず、時代の波はデジタル化に向かい、フィルム映写機からデジタル映写機に移行するという話が持ち上がる。どうせ自分は下流階級に属しているからと卑屈になりながらも、与えられた仕事をそれなりに、けれど懸命にこなす従業員たちだったが、デジタル化が意味するものは、従業員の数を減らすという通告でもあった......。

英国 ナショナル・シアター『フリック』観劇レポート

ナショナル・シアター
National Theatre
- Photo Credit: Philip Vile from LondonTown.com



イギリスのナショナル・シアターで『フリック』(2016.4/13~6/15)が上演され、話題の公演として大変注目を浴びました。

英国から熱を伝えるようなレポートが届きましたので、ご紹介します。
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その奥の深さと出来の良さで、ロンドンでの批評も絶賛
既に再演の噂も

ニューヨークで評判だったピュリッツァー・ドラマ賞受賞の話題作は、その奥の深さと出来の良さで、ロンドンでの批評も絶賛。 短い期間の公演で、既にロンドン公演は終了していますが、再演が噂されています。

―――――
舞台は米国東部マサチューセッツ州のとある映画館。

今だにデジタルではなく35ミリの映写機を使い、前近代的ですたれ気味のこの映画館で若者3人は働いている。
清掃係りのサムは、映画俳優ビル・マーレイのようなコメディアン。
映写機係りのローズは、髪を緑に染めたドロップアウト寸前だった肉食系女子
大学休学中にアルバイトに来た黒人青年エイヴリーは、一年前に自殺未遂し、ナイーブで繊細さのある、現代を象徴的する草食系の若者。

映画の放映後、サムとエイヴリーはいつもの清掃に取り掛かり、その間、二人はあらゆる話をし、各々の告白劇となる。
一方ローズは、発情期の猫のようにエイヴリーを口説こうとするが、失敗。
陰ながらローズに恋心を抱いていたサムは、エイヴリーの頭上にゴミ箱を広げて、嫉妬心を露わにし、怒り狂う。
―――――

目に見えない何か大きな愛に
包まれているような特別な感じを受けた

ゆっくりと時間が過ぎ、何故この作品がピュリッツァードラマ賞を受賞したのか前半の途中まで疑問に思っていたが、あらゆる名映画の逸話とそれらの背後にある哲学や、 劇中語られる映画の解釈や意味付けが、台詞で滑らかに語られ、目に見えない何か大きな愛に包まれているような特別な感じを受けた。

低額所得者の若者達の葛藤、実らない恋、嫉妬、幸せを夢見ながら、将来への不安と不確実性を見事に描き、我々現代人に問いかける魂の叫び声が、心に強く響きます。

劇中流れるあらゆる映画の名曲が、見事で効果的。感動させられた。

近年のナショナルシアターでの傑作の一本であると、自信を持って言えます。 これ絶対に間違いありません!

イギリス、ナショナルシアター、ドーフマン劇場にて上演


三原英二(英国在住プロデューサー、新国立劇場調査員)

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その5 無人島ゲーム

イメージ

「たった一本だけ映画を無人島に持っていけるとしたら何にする?」。いまどき無人島ゲームに映画は不向きでしょうね。「だったら衛星放送を受信できるアンテナとモニターにする」とか、「携帯端末だけ持っていくけどそこ電波は届くんだよね」なんて答えが続出しそうです。


いやいや、そういうことじゃなくて、たった一本自分にとって一番の映画を選ぶとしたら、どうするか? いわゆる「最後の晩餐」の後に観る映画は何にするのか? スティーブン・キング原作の『グリーンマイル』では、冤罪の死刑囚が刑の執行前にひとつだけ希望をかなえてやると言われて、アステアの映画をみせてくれ、と頼んでいました。生きることがどれほど喜びに満ちているのか全身で感じたいなら、アステアの『トップ・ハット』は確かにベストチョイスなのかも。


さあ、どうしよう。勘兵衛や菊千代と共にずぶ濡れになって戦うか、大きな骨を空に投げて木星近くの星の門をくぐりぬけるか、老夫婦ふたりで熱海の海をぼんやり眺めるか、人造人間を完成させて乱痴気フロアショーで踊りまくるか、東京を燃やし尽くしたあとで隻眼の博士と海底で心中するか、キューバで上機嫌にバナナ・ダイキリをオーダーした後ボートの上でマリア様にお祈りするか。人生究極の一本として『ゴッドファーザーPart II』は余りに陰惨すぎるかも知れないけど、好きなんですよね、ジョン・カザール演じるフレドーのあの情けなさ。


いずれにしろ「この一本」を選ぶとなるとトコトン迷って自問自答をしながらも、いろいろな自意識が蠢いてしまって、「これだと王道すぎてちょっと恥ずかしい」とか、「あれだとマニアック過ぎて嫌味かも」など雑念に邪魔されてしまいます。そもそも世間で評価されている名作や傑作というのは仮に人格になぞらえれば、伝記が山ほど書かれるような偉人や歴史上の大人物に相当するわけで、そういう存在を上から目線でチョイスするなんて、なんだか随分おこがましいことのようにも思えてきます。


確かにかつて映画館で公開されて、そのとき目の前の観客を楽しませたに違いないのだけど、今となっては誰からも思い出されることがなければ、見直したところでそれほど出来が良いワケでもなく、むしろ欠点ばかりが目に付いてしまう「よくある」映画。自分の人生を虚心坦懐に振り返ると、そういう一本が丁度釣り合いが取れる感じなんだろうなあ。


さて、『フリック』の主人公・映画マニアのエイヴリーは、ある奇想(?)によって自分の生涯の一本に向き合います。どんな方法でどんな作品に辿りつくのか、ぜひ劇場でお確かめください。


平川大作

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その4 映画への愛

E.T. The Extra-Terrestrial
Universal Pictures

中学生の冬休み、公開を待ちにまった『E.T.』を観るために電車に乗って名古屋駅前の映画館に出かけた1982年、今みたいに「数日前に座席指定でチケットをゲット」なんて便利な方法はまだ世の中に存在しなかったので、当然長い長い行列に並んで映画館に入るしか手はありませんでした。

広い劇場は観客でギッシリ、空いた座席を探してウロウロすることもできない混み具合だったので(もちろん当時は自由席で早い者勝ちですからね、田舎から出てきた中学生は完全に出遅れていたわけです)、仕方なく座席ブロックの間の階段に座り込んで上映開始を待つことに。多くの映画館で座席分しかチケットを販売しない今では考えられませんよね。

本編前の『男はつらいよ 花も嵐も寅次郎』予告編で、伸ばした二本の指が近づく絵柄に、『E.T.』のコピーをもじった「Let's See Tora」という文字がキラキラ光ったときは観客みんなで大笑いしたっけ。映画館全体がワッと湧くあの感じ。最近はあまり出くわさなくなった気がします。最近流行の「参加型上映」に集まるのは、その映画の信奉者ばかりだから、それはまた別として。

演劇の場合、「こんな作品を観た」という鑑賞経験には必ず「いつ/どこで/誰と」という思い出が付随するものです。映画も長い間そうでしたが、時代が新しくなるにつれ鑑賞方法の選択肢が広がり、今となっては観客というより視聴者やユーザーといった名称が相応しい状況で映画と出会うことが特に若い世代には増えていますね。

ウディ・アレンの『アニー・ホール』で描かれていたみたいに、劇場前の行列の中、女の子相手にいいカッコしたいばかりにこれから観ようという映画について得々と弁舌を繰り広げる無粋な男に出くわしてゲンナリすることもほとんどなくなりました。あ、あの現象はネットとSNSに移行しただけのことか。

任侠映画を観たあとの孤独な男たちは、みな肩で風を切って渋い顔つきで映画館から出てきたとか。今でいうと『スター・ウォーズ』を観終わった観客たちがみな、心の中でライトセーバーを構える孤高のジェダイになってしまうのと同じですね。それが高じると好きな映画の一場面を完コピして、せりふや演技を自分で再現してしまうという段階に至ります。マルセ太郎さんはそれを自分の語り芸にまで洗練させましたね。

さすがに『E.T.』の後は観客がみんな宇宙生命体になりきって出てくる、なんてことはありませんが(あれば面白かった・・・・・・でも指先での挨拶は真似したっけ)、ともかく映画への愛は私たちの身体に一瞬(あるいは一生)登場人物を宿らせます。最近のPCや携帯端末の画面にはそうした力があるのかないのか。なんとなくに過ぎないのですが、観客が登場人物を「自分だけのもの」にして一体化するためには、大きな画面とそれを一緒に見守る他人が集う場所、すなわち映画館が必要なんじゃないかなという気がしています。



平川大作

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その3 映写機の守護天使

映写室からの眺め (イメージ)
© Jorge Royan / http://www.royan.com.ar,
via Wikimedia Commons
フィルムが切れて上映がストップしたのに初めて遭遇したのは、たしか高校生の頃、名古屋は中日シネラマ会館の名画座で『博士の異常な愛情』を観ていたときのことでした。いきなりプツッと映像が途切れて画面が真っ暗になり、館内が沈黙に包まれるあの独特の瞬間を経験されたことがあるのは一定の年齢以上の方でしょうね。寺山修司の『田園に死す』や、手塚治虫の『おんぼろフィルム』、新しいところだとタランティーノとロドリゲスの『グラインドハウス』などが、あの「プツッ」を趣向として作品に取り込んでいました。いずれの作品も、映画がフィルムで出来ているという実感を鋭く観客に伝える仕掛けでした。フィルムが切れたら即つなぎ直して映画を救出しなければいけませんし、緊急事態に陥らずともフィルムの一巻分が終わったら、間髪いれず次の巻を回し始めないといけませんから、映写技師は映写機のそばを離れるわけにはいきません。

そのあたりの実際を上手く物語に取り込んでいたのが『ニュー・シネマ・パラダイス』でした。中盤、映画館に入り損ねた不運な人々に映写技師アルフレードがささやかな親切心を示した幸福な場面が一転、事故でフィルムが燃えはじめて狭い映写室が炎に包まれたのは衝撃的でした。初公開当時、わたしは大学生で自主映画サークルに参加していましが、その上映会でも8ミリフィルムが映写機の電球の熱で燃えだして、スクリーンにその瞬間が写し出されたことがあったっけ。

フィルムは劣化し、滅びるからこそ美しいと言ったのは、鈴木清順監督だったはず。ときにプツッと切れてしまいかねないフィルムの映写には、観客の頭の後方上に位置する映写室に閉じ籠って、映画の滞りない上映を見守る人が必ず存在するものでした。その存在はやや大げさに言えば、映画館という特別な場所での儀式を司る不可視の司祭であり、映写機から放たれる光に何がしかの人間的な温もりを加えて作品を画竜点睛のものとする無名の芸術家でした。私たち観客は、映写機の守護天使に随分お世話になってきたわけです。映画が誕生した1895年以来、つい最近までは。

かつてサイレントがトーキーに移行したのと同時に、その役割を終え一斉に姿を消した弁士のように、映画のデジタル化とともに映写機は撤去され、それを操る術を知る技師は映写室から去ってしまいました。もはや希少な機会を除くと、一般に私たちが映画を観ているとき、映写の光の源に誰かの佇まいを感じることはありません。もはやガラス張りの映写室で、映写機のカタカタカタという動作音を封じ込める必要はなくなりました。何か大切なものを失ってしまった寂しさと引き換えに、映画の上映はあっという間にシステム化され、不安定要素を払拭して安全かつ快適になったのです。テクノロジーの発達が促進する時代の流れを避けることはできない以上、せめてこの変化が観客の新しい幸福につながるものだと信じたいところです。

古ぼけた映画館を描く『フリック』を通して、現在社会の各分野で進行している不可逆な変化と、その中で生きていかねばならない私たちについて思いをはせていただければ、これに勝る喜びはありません。


日本で初めてCGIになったゴジラが東京を炎の海にした夏に記す

平川 大作



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その2 ケヴィン・ベーコン・ゲーム

ケヴィン・ベーコン
By Genevieve Uploaded by MyCanon (Kevin Bacon)
[CC BY 2.0], via Wikimedia Commons
ケヴィン・ベーコンといえば『フットルース』。80年代の映画を愛する映画好きならそう答えるでしょう。『インビジブル』の主役ですよ、と言われればピンとくるのはもう少し若い世代かな(やたらテレビ放映でリピートされている印象がありますからね)。わたしなら断然『トレマーズ』。えっ、そんな映画は知らない? 『トレマーズ』は後にシリーズ化されて5作目まで製作された人気モンスター映画なんだけど、ケヴィン・ベーコンが出てるのは一作目だけなんですよね。全作出ているのはマイケル・グロス、強烈なガン・マニアのキャラクターで、もうこれが・・・・

話がそれました。
一時期ケヴィン・ベーコンが主に脇役としてやたらめったら映画に出まくっているという印象をもとにケヴィン・ベーコン・ゲームという遊びが発明されました。あらゆる映画俳優を共演作で関係づけていけば6ステップ以内で必ずケヴィン・ベーコンにたどり着ける。なぜならば彼こそハリウッドの中心に鎮座している俳優の中の俳優だから! たとえばマリリン・モンローが『荒馬と女』で共演しているのがイーライ・ウォラック、イーライ・ウォラックが『ミスティック・リバー』で共演しているのが・・・ケヴィン・ベーコン。なんとたったの2ステップ(詳しくは Six Degrees of Kevin Bacon あるいは The Oracle of Bacon で検索を)。

ケヴィン・ベーコンの名前こそ出してはいませんが、戯曲『フリック』のエイヴリーとサムは映画館の仕事の気晴らしとして、同じようなゲームに興じています。ルールは簡単、いかにも結びつきそうにない映画俳優二人の名前をサムが挙げると、二人を結ぶ最短距離のステップをエイヴリーが答えるというもの。ネットを使ってデータベースを活用すれば即座に正解は得られますが、エイブリーのような映画マニアたるもの、映画にささげる愛情を自他に証明するためにも記憶だけを頼りに博覧強記ぶりを示さなくてはいけません。

だからこの戯曲の一部ではせりふのやり取りのなかで映画のタイトルや俳優の名前がポンポンと飛び交います。相当な映画ファンでなければまるで呪文のように聞こえるかもしれませんが、もちろん臆することはありません。映画のタイトルの羅列が醸し出す時代の感触が分かる人はニヤニヤすればいいし、そうでない人はサムと同じく、エイブリーの映画狂ぶりに驚きながらもちょっと斜めに構えて「その能力と情熱、映画以外のことに使った方がよくはないか?」という心持で冷静に聞き流せば大丈夫。

ところで今回調べてみたら、『トレマーズ』に出ていたアリアナ・リチャーズって『ジュラシック・パーク』で恐竜から逃げてた女の子なんだって。え、逃げていたのは男の子ふたりの兄弟だったはず? 違うちがう、それは『ジュラシック・ワールド』! 

平川 大作



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その1 映画館のものがたり

キートンの探偵入門学
販売元 IVC
歌舞伎の時代に遡ったり、大衆的な演目となれば話は別ですが、いわゆる現代的な演劇の劇場では飲食が禁止されていますね。一方、映画館では肘掛部分にドリンクホルダーがあるし、いわゆる売店で買ったポップコーンなどをパクパク食しながらの鑑賞はむしろ推奨されているくらいです。

だから上映が終わり、お客さんが去った映画館は劇場に比べて掃除がたいへん。1924年の名作『キートンの探偵学入門』の冒頭でも、主人公は大きな箒で映画館の床に散らばったゴミを掃き集めています。彼の夢はホームズみたいな名探偵になることですから、映画館での雇われ仕事はあくまで仮の姿。夢が膨らむほど「しがない稼業」の単調さが浮き彫りになるだけです。上映係として映写機の隣に座っていても、居眠りにふけってしまうのが関の山。

アニー・ベイカーの戯曲『フリック』は、そうした映画館の仕事をきっかけに出会った三人を描きます。上映後の清掃、決められた時間の映写機操作、チケットもぎり、ポップコーンの販売・・・・ キートン演じる『探偵学入門』の主人公は眠りこけている間に、彼にとってどうにも上手くいかない現実を離れて、煌びやかなスクリーン上の世界にさまよいこみ、自分の夢と一体になることができましたが、『フリック』ではそんな非現実的な奇跡が起きることもありません。

アフリカ系二十歳の熱烈な映画マニアであるエイヴリー、ボストンを本拠地とする球団レッドソックスのファンで白人三十五歳のサム、上映担当であけすけな魅力を放つ白人二十四歳のローズ。場所はマサチューセッツ州の時代遅れの映画館、デジタル化の波に乗り遅れていまだにフィルムで映写している「ザ・フリック」。



波に乗り遅れているのは映画館だけではありません。物語が進むにつれて、三人のしがない稼業の向こう側にどうにも上手くいかない現実が見えてきます。お互いの現実が見えてくるとちょっとした理解も得られますが、それと同時にどうしても分かち合えない何かがはっきりしてしまうもの。現実はスクリーンの中のように調子良くいきませんからね。でも三人は笑い、憤り、傷つきながら、優しく、滑稽に、気高く生きていこうとします。きっと私たちと同じように。

フィルム上映のスクリーンはチカチカと明滅して見えます。そうした明滅する光を指すflicker という言葉は、やがてflick と短くなり映画や映画館を指す俗語となりました。今となっては古めかしい呼び方をタイトルに冠した本作は、映画に胸躍らせながら日々を生きる私たちみんなの物語です。



62年目のゴジラ新作を観た翌日に

平川 大作



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チケット購入・割引等のご案内

チケットについて別ウィンドウで開きます

割引等のご案内

お申し込みの際に、割引をご利用の旨お知らせください。(Z席は対象外)

  • 高齢者割引(65歳以上)・学生割引:5%割引
    • ボックスオフィス(窓口・電話)、チケットぴあ一部店舗のみ取扱。要年齢証明書または学生証。
  • ジュニア割引(中学生以下):20%割引
    • ボックスオフィス(窓口・電話)、Webボックスオフィス、チケットぴあで取扱。入場時年齢確認あり。
  • 当日学生割引:50%割引
    • 公演当日10:00より残席がある場合のみボックスオフィス窓口、チケットぴあ一部店舗で取扱。要学生証。
  • 障害者割引:20%割引
    • ボックスオフィス(窓口・電話)のみ取扱。要障害者手帳等。

学生割引チケットは、JR各社の学生割引を利用できる学生の方が対象です。
車椅子をご利用のお客さまはボックスオフィスまでお問い合わせください。

Z席の購入方法

  • Z席は舞台が見づらいお席です。予めご了承ください。
  • 公演当日朝10:00から新国立劇場ボックスオフィス窓口にて販売いたします。1人1枚、電話予約はできません。

グループでのお申し込み

10名以上でのご観劇の場合は新国立劇場営業部(TEL:03‐5352‐5745)までお問い合わせください。

チケット購入時の注意

  • 就学前のお子様のご同伴・ご入場はご遠慮ください。お子様も1人1枚チケットをお求めください。
  • 公演日、席種によっては、お求めになれないことがあります。
  • 壁際、手摺近くバルコニーの一部のお座席で、舞台が見えにくい場合がございます。
  • 公演中止の場合を除き、チケットの変更・払い戻しはいたしません。
  • やむを得ない事情により出演者が変更になる場合がございます。あらかじめご了承ください。

チケット取り扱い

チケットぴあ

0570-02-9999

WEBからのご購入はこちら別ウィンドウで開きます(PC&携帯)

【Pコード:452-170】

イープラス

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ローソンチケット

0570-000-407(オペレーター受付)

0570-084-003(Lコード:39361)

WEBからのご購入はこちら別ウィンドウで開きます(PC)

CNプレイガイド

0570-08-9999(オペレーター受付)

WEBからのご購入はこちら別ウィンドウで開きます(PC&携帯)

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