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『エンジェルス・イン・アメリカ』出演・岩永達也&山西 惇、インタビュー

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ピュリッツァー賞やトニー賞など数々の賞に輝く『エンジェルス・イン・アメリカ』二部作(1991・92年初演)が、これまでも新国立劇場で多くの作品を生み出してきた上村聡史の演出により、この春一挙上演される。舞台は1980年代のニューヨーク。政治、同性愛とエイズ、宗教、人種問題と、アメリカが抱える苦悩や葛藤を浮き彫りにするトニー・クシュナーの傑作戯曲に挑むのは、「フルオーディション企画」で役を勝ち取った8人の俳優たち。経験豊かなベテラン、フレッシュな若手が揃う座組みから、岩永達也と山西惇に作品の魅力を聞く。

インタビュアー:川添史子(演劇ライター)




オーディション

プレ稽古......

本稽古が始まる前から豊かな体験が

―『エンジェルス・イン・アメリカ』は一九八五年のニューヨークを舞台に繰り広げられる群像劇。当時不治の病とされたエイズに感染したことで人生が一変するゲイのプライアー役を演じる岩永さん、大物弁護士ロイ・コーン役を演じる山西さん、お二人にお話をうかがってまいります。この公演は、全出演者をオーディションで選考する「フルオーディション企画」での上演。ベテランの山西さんが応募していたことに驚きました!


山西 この企画の第一弾『かもめ』(二〇一九年、鈴木裕美演出)から「これは画期的な試みだぞ。機会があったらぜひ参加したい」と考えていたんです。ただスケジュールの兼ね合いもありますし、当然ながら自分に合う役がないと応募できないじゃないですか。いい機会をうかがっていたら、ロイの年齢が僕と同じ五十九歳(オーディション当時)だと知り、「これは受けないとあかん」と即応募しました。参加者たちと実際の場面を演じる課題があったのですが、相手が変われば演技も変わるし、同じ役にエントリーされた方々の演技も拝見できて、これがとても豊かな体験で。みんなで一緒に帰る道すがら「お互いベストを尽くしましたね!」なんて語らってしまったり、本来ライバルのはずなのに、不思議な友情も芽生えましたね(笑)。


―まだ三十代の岩永さんにとっては、チャレンジングな経験でしたね。


岩永 「お芝居の仕事がもっとやりたい」と思っていたところにこのフルオーディション企画を知り、実はひとつ前の『イロアセル』(二〇二一年、倉持裕演出)でも応募していたんです。たとえ役を掴めなくても、とりあえず劇場の方や演出家の方に知ってもらいたい、顔を見てもらいたい、どうにか爪痕を残したいと思って参加しました。なので書類審査が通った時点で「よっしゃー!」とすごく嬉しかったです。実技を見てもらえるからには、「のちのち自分の中で後悔しないものをぶつけよう」とプランをガチガチに固めてその日を迎えたのですが、当日、上村さんの一言で自分の演技が想定外のものになっていくのがすごく楽しくて。無我夢中で脳みそも目いっぱい使ったので、気づいたら「あれ、終わった?」みたいな放心状態。合格の連絡をいただいた時はびっくりしました。


―選ばれたキャストが揃い、昨年はプレ稽古も行われたとか。


岩永 とにかくベテランの皆様による役の解像度が高くて、これ"プレ"じゃなくない?とおののく、ドえらい稽古でした!(一同笑) 「あの人たち本当に読んでる?台詞全部覚えてない?」と、ルイス役の長村(航希)くんとジョー役の坂本(慶介)くんの三人で、思わず顔を見合わせちゃいましたから。


―百戦錬磨の舞台を経験してきた強者揃いですから......。


岩永 「頑張ろう、俺たち」って、この日をきっかけに若者チームが自然と結束し、すっかり仲良くなりました(笑)。今日から毎日稽古したい、先輩方から全部吸収したい、こんな贅沢な場所があるんだ!とひしひしと感じられる稽古でした。


山西 本稽古開始前に、それぞれの声が聞けたことがすごくよかったですよね。


岩永 そう思います。プライアーにとってポイントになるだろうな......と想像していた会話や場面がいくつかあったのですが、後半部分でプライアーを助けるジョーの母親、ハンナの声が思っていたよりもずっと深く心に響いてきて驚きました。実際に台詞を交わし、コミュニケーションを取っていくと、さまざまな登場人物の台詞の中にプライアーを考えるヒントが散りばめられていて、それを肉声で聞くことでハッとするんですよ。「まだまだ自分が見えていない発見があるんだろうな」と、本稽古への期待が増してきています。


―山西さんは新国立劇場『城塞』(安部公房作、二〇一七年)で上村演出をご経験されています。


山西 「○○しなさい」とは絶対に言わない、役者に考えさせてくれるタイプの演出家さんですよね。すっかり「自分で自由に泳いでいる」と思っていたら、すでに網の中にいるみたいな、追い込み漁のような演出家です(笑)。



病におかされたロイとプライアー

それぞれの立場とは

―それぞれの役についてもうかがえますか?


山西 ロイは誰かを動かさないといけない、エネルギーが必要な役。人に影響を与える役の方が、受けながら動いていく役よりもパワーがいるじゃないですか。さらに、人にどう見られるのか/どう見せるかを必死に考え続けている人物なので、本当はどういう人物なのか、もしかしたらお客さんには最後まで分からないかもしれません。


―ロイは赤狩りで有名なマッカーシー議員の片腕だった実在の人物。ユダヤ人でゲイで反共産主義者......確かに劇中でも悪の権化のような面と、ジョーに対して父親のような温かさも見せる、多面性が魅力です。


山西 そうなんですよね。ある意味ものすごく強い信念がある人物だとも言えますし。


―ロイもプライアーもエイズにおかされていますが、政治力を使ってどうにか治療薬を手に入れるエゴイスティックなロイ、愛する人との関係に悩みながらひたすら病気と向き合うプライアー、社会的立場の対比も印象的です。


山西 ロイが唯一、本音らしきことを言っていると感じられるのが「アメリカ人は病人を受け入れない」って台詞なんです。結局、民主主義・自由主義が究極的にたどり着く先は「強いものが勝てばいい」で、まさに今、日本もそうなっているじゃないですか。弱っている人を置いてけぼりにし、強い者だけが生き残ればいいと考える風潮は、コロナ禍の今、さらに加速していますし。悲惨な状況に目をつぶって経済を回していけばいのか?という問いを、強者であったはずのロイの姿を通して見せられたらと思っています。去年、こまつ座が『貧

乏物語』という作品を上演しましたよね?


―井上ひさしが、日本のマルクス経済学の先駆者・河上肇をモチーフに描いた戯曲ですね。


山西 その中で「人間みんな同じだという真理と、それでもやはり努力したものは報われるという真理と、この二つの真理をどう結びつけるか」という台詞があって、共産主義と民主主義の対立をこんな端的な言葉で言えてしまうんだ!とものすごく腑に落ちたんです。ロイは共産主義をあれだけ憎み、自由主義の権化のように生きてきたのに、病気で弱った途端にそこからはじかれてしまう。皮肉ですよね。


―そんな彼が病床で、元ドラァグクイーンである看護師ベリーズと交わすやりとりは印象的です。


山西 ロイは虚勢を張ってここまできたけれど、「こんな正直に生きる方法もあったのか」と、病気にならなかったら絶対に見えなかった発見がもたらされる瞬間ですよね。「お互いここまで、ニューヨークでよく頑張ってきたよな」という共感も滲む気がします。


―原題のサブタイトルに「A Gay Fantasia on National Themes(国家的テーマに関するゲイ・ファンタジア)」とあるように、プライアーの前に天使が登場し「お前は預言者である」と告げられる場面は幻想的。ここはちょっぴりユーモラスでもありますね。


岩永 プライアーは「恐怖一択」しかなかった病気への向き合い方が、どんどん変化していく面白い役だと感じます。ルイスに捨てられた孤独、天使からの神託、モルモン教信者ハーパーやハンナとの出会い......思いがけない出来事や出会いによって浮遊していくようでもありつつ、病気であることを忘れさせるぐらい強い意志が心の奥から生まれてくる感覚もあって。ポジティブにならざるをえない状況に追い込まれていく劇構造になっていますし、とても現実的で、自分をすごく俯瞰して見ている人物。これが彼の病気との向き合い方なのかもしれません。


―第一部&第二部が各四時間、トータル八時間の上演時間。とにかく気力体力が必要な舞台になりそうですね。


山西 数えてみると、一部が二十六場、二部が三十三場、単純計算すると一場面平均約八分。一日一シーンの稽古だと間に合わないじゃん!と思って。当初マラソンのようなイメージを抱いていましたが、各場面に必ずドラマが起きていて、短距離走の連続、シャトルラン(往復持久走)的な芝居になるんじゃないかと想像しています。だから......大変だよね(一同笑)。


岩永 恐怖が増してきました......。


山西 あ、おどかしちゃった(笑)。ペースを間違えなければ大丈夫。


岩永 (奮い立つように)いや、楽しみしかありません!


山西 両方を通した瞬間にどんな感情が湧き上がるのか、まだ全く想像もつきませんが、ぜひお客様も劇場で一緒に、未知の領域を体感してください!


新国立劇場・情報誌 ジ・アトレ 3月号掲載

ものがたり


第一部「ミレニアム迫る」
1985年ニューヨーク。青年ルイスは同棲中の恋人プライアーからエイズ感染を告白され、自身も感染することへの怯えからプライアーを一人残して逃げてしまう。モルモン教徒で裁判所書記官のジョーは、情緒不安定で薬物依存の妻ハーパーと暮らしている。彼は、師と仰ぐ大物弁護士のロイ・コーンから司法省への栄転を持ちかけられる。やがてハーパーは幻覚の中で夫がゲイであることを告げられ、ロイ・コーンは医者からエイズであると診断されてしまう。職場で出会ったルイスとジョーが交流を深めていく一方で、ルイスに捨てられたプライアーは天使から自分が預言者だと告げられ......。


第二部「ペレストロイカ」

ジョーの母ハンナは、幻覚症状の悪化が著しいハーパーをモルモン教ビジターセンターに招く。一方、入院を余儀なくされたロイ・コーンは、元ドラァグクイーンの看護師ベリーズと出会う。友人としてプライアーの世話をするベリーズは、「プライアーの助けが必要だ」という天使の訪れの顛末を聞かされる。そんな中、進展したかに思えたルイスとジョーの関係にも変化の兆しが見え始める。

いわなが たつや

2011年、大学在学中にモデルのオーディションを受け、モデルデビュー。大手通販サイトのファッションモデルとしてキャリアをスタートし、雑誌、広告、CM、MVなどのさまざまな媒体で活動。19年、恋愛リアリティーショー『恋愛ドラマな恋がしたいシーズン3』にタツヤとして出演し、知名度を上げる。近年は、映画『彼女来来』、ドラマ『アボカド日和-My avocado Diaries-』に出演。【主な舞台】『少女罰葬』『マトリョーシカ』『役者の証』『いのちのしるし~泣いてたまるか~』『Life pathfinder 2013』『不思議な街の王子様第2章』『Girls Rocletter』など。

やまにし あつし

京都大学在学中、劇団そとばこまちに参加。2001年に劇団退団後は、舞台のほか、映像作品でも活躍。映画『Dr.コトー診療所』『ナニワ金融道』『相棒-劇場版IV-』、大河ドラマ『真田丸』、ドラマ『忠臣蔵狂詩曲No.5 中村仲蔵出世階段』などに出演。ドラマ『相棒』シリーズの角田課長役で全国区の知名度を得る。『イーハトーボの劇列車』『木の上の軍隊』で第27回読売演劇大賞優秀男優賞を受賞。【主な舞台】『迷惑な季節』『世界は笑う』『夜来香ラプソディ』『日本人のへそ』『生きる』『七転抜刀!戸塚宿』『宝塚BOYS』『百年の秘密』『きらめく星座』『陥没』『イニシュマン島のビリー』『藪原検校』など。新国立劇場では『城塞』『マニラ瑞穂記』『象』『雨』に出演。



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『エンジェルス・イン・アメリカ』

会場:新国立劇場・小劇場

上演期間:2023年4月18日(火)~5月28日(日)

作 トニー・クシュナー

翻訳 小田島創志

演出 上村聡史

出演:

  • 浅野雅博 岩永達也 長村航希 坂本慶介 鈴木 杏 那須佐代子 水 夏希 山西 惇



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