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『イロアセル』出演 箱田暁史×山下容莉枝 インタビュー

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もし、私たち一人ひとりが発する言葉に固有の色がついていたら? 現代のインターネット、SNS社会を風刺したファンタジー『イロアセル』(二〇一一年初演)。その二〇二一年版が、作家・倉持裕自らの演出と、フルオーディションを経て選ばれたキャストによって上演される。色つきの言葉が飛び交う不思議な島に移送され、無色の言葉を駆使して波紋を広げる囚人役の箱田暁史と、この島の町長・ネグロ役の山下容莉枝の話から見えてくる、新版『イロアセル』の魅力とは。

インタビュアー:鈴木理映子 (演劇ライター)




これまでにない形でのオーディション

場面の見せ方の可能性に驚きも



─お二人が今回この作品のオーディションに参加されたのはなぜですか。応募書類にも「志望動機」の欄があったようですが、どんなことを書かれたのでしょう。


箱田 戯曲を読んで、主人公の囚人がジェットコースターのように駆け上がって転落していく、その浮き沈みがエンターテインメントとしていいなと思いました。一発逆転を狙う、ハリウッド映画みたいな印象。成功していくと、檻の中の調度品もすごく豪華になったり(笑)。だから「受かったら僕の好きなあの感じがやれる!」と思いました。それと、僕は劇団(てがみ座)に入っているんですけど、主役は十年くらい前に一度やったきりで。囚人役は三十歳代後半までと書かれていて、年齢的にはオーバーしちゃってる不安もありつつ、とにかくやりたい!と......詳しい内容までは思い出せないんですが、すごい意気込みで応募書類を書いたことは覚えています。

山下 私は、この『イロアセル』ワールドが好きだし、そこに入りたいなと思ったんです。ちょっと異国のSFみたいな匂いがするのがいいんですよね。実は三十歳くらいからしばらくは舞台に立つのが怖くて、五年に一本くらいしか舞台をやっていなかった時期があったんです。それで四十代後半になってから、自分の伸びしろのなさに驚いて。全然芝居がうまくなっていない。「これは、もう一度ちゃんとやらざるを得ない」と少しずつ舞台の仕事を始めて......応募書類には確か、そんなことも書き込んだ気がします。


─お二人ともオーディションそのものは、映像も含めていろいろなところで経験されていますよね。それでもこの作品への意気込みは特別だったということですか。

箱田 舞台のオーディションで「この役で」っていうの、案外少ないんです。「この演出家の作品に出演する人」ということの方が多い。でも今回は、あらかじめ戯曲を読んだうえ

で希望する役をこちら側が選べて、その役のイメージを膨らませてオーディションに臨めたので、緊張というよりは、没頭して楽しくできた気がします。

山下 私は舞台のオーディションは初めての経験でしたし、一二〇%受かるとは思ってなかったんです。「新国立劇場のオーディションに? 私なんかが? 受けていいの?」と思いつつも、「行くだけ行ってみよう!」と。だから、背負うものもないし、楽しくてしょうがなかったです。一次では六人くらいの方と同じ台詞を読んだんですけど、一人ひとり全然違っていて、それを聞いているだけで楽しくて。


―ご自身の役について、それぞれお持ちになっているイメージをお聞かせいただけますか。

箱田 言葉に色がついている町の人たちと、そうではない囚人。そこにチャンスを見い出して、島の中でいつの間にか人々の心を掌握していく。礼儀正しく見せてはいるけど、何かを手に入れるために隠していることがある。そんなひとひねりある感じが好きなんですよね。あんまり言うとハードルがあがっちゃいますけど。

山下 町長のネグロさんは、わりと威圧的というか、言葉の色も「夜の闇よりも黒い」って書かれていますし、威厳のある方なのかなと思っていました。ただ、オーディションである場面をやった時に、倉持さんが「それを面白くやってください」っておっしゃったんです。「え? どういう方向なの? ネグロさんてそういう人なの?!」と驚きました。わからないなりに挑戦はしたんですけど、やってみたら「へええ!」と思った部分もあって。

箱田 僕もオーディションの時、深刻に演じた場面を「もっと、明るくキラキラした目で」と倉持さんに言われて、「そっちか!」と思ったことがありました!


―同じ人にもいろんな顔があるように、場面の見え方、見せ方にもいろいろな可能性がありますよね。その選択や全体の緩急をこれから稽古して詰めていくのかもしれませんね。


箱田 考えてみれば、ラストシーンもコメディーになっているんです。この対談の前にもう一度戯曲を読んで、はっきりそう思いました。囚人は、いち早く人の欲望に気がつくことでのしあがってきた人間なのに、それを見誤ってしまう......っていう。こういう設定、ヤクザ映画のラストみたいなところもあって、痺れます。


絵が浮かんでくる戯曲

言葉のやりとりからどう色が見えるか


―登場人物の心情、過去の出来事など、詳細には書かれていないことも多い戯曲ですが、モヤモヤはないですか。


箱田 それもリアルだし、映画っぽくていいなと思ったんですよ。内面のモノローグがないぶん、相手に長く語りかける場面では、心の奥にある欲望が垣間見えるようになっていて。「これこれ!」という感じ。僕はどういうタイプの戯曲、台詞がいい、みたいな好みがあるわけでもないんですけど、自分がいる劇団でやっているものとは全然違って、それも楽しいです。


―演出の倉持さんによれば、箱田さんの囚人役は、「なんでもない感じの奴だからこそ、いったい何やっちゃってここにきたんだろうと想像を刺激する」と。

箱田 その理由は僕も知りたいです(笑)。ただ、そういうところが気になりつつも、どんどん読み進めていける戯曲でした。演じる限りは、囚人はどういう犯罪を犯したのか、具体的に考えなきゃいけないんだろうけど。

山下 私はそういうことも、稽古をやっていくうちにわかってくるんじゃないか、わからなかったら聞こう! と思っています。みんなでこれから解明してもいいし。


―味を生み出して解釈を促す言葉、台詞というよりは、まるで絵筆のように世界を描いていく戯曲なのかもしれません。

山下 すごくわかります。絵が浮かんでくるんですよね。その言葉のやりとりがどんなふうに色として舞台で見えてくるのかも楽しみです。たとえば今はみなさん、電車でメールしたりLINEしたりするでしょう。私、今日ここへ来るあいだにも、そんな様子を見て「あぁ、この中身が全部色つきで見えちゃうんだなぁ」って想像したりして。

箱田 物語としては、後半に向かって、色が見えていても、いなくても同じような状況になっていく、というのも面白いですよね。要は、色があろうがなかろうが、言葉は刃物と同じで、役に立つものでもあるし、振り回したら危ないから、気をつけて使いましょうってことなんですけど。


―稽古はこれからですが、日程の合うメンバーで一度本読みをしたそうですね。

箱田 そうなんです。オーディションではお目にかかれなかった方もいらして、「ああ、ちゃんとやらなきゃ」って妙に緊張しました(笑)。それまでは、どうしても自分の役を中心に読んでしまっていたんです。でも、さきほど山下さんもいろんな読み方が楽しいとおっしゃってましたけど、まさにそういう感じで、すごく新鮮でした。


―参加するキャストの皆さんも、登場するキャラクターも、それこそカラフルな舞台になりそうですね。


山下 そうそう。深刻に暗く受け取ることもできる本でもありますけど、明るいファンタジーとしてみていただけると嬉しいですね。


新国立劇場・情報誌 ジ・アトレ 11月号掲載

<はこだ あきふみ>

文学座附属演劇研究所本科卒。2012年より、てがみ座に所属。以降ほぼ全てのてがみ座公演に出演。他、映像では近年の主な出演作にドラマ『すぐ死ぬんだから』などがある。【主な舞台】『燦々』『グリークス』『海越えの花たち』『 木ノ下歌舞伎「東海道四谷怪談-通し上演-」』『空のハモニカ』など。

<やました よりえ>

文学座附属演劇研究所を卒業後、劇団夢の遊眠社へ入団。劇団解散後は、映画・ドラマ・舞台と幅広く活躍している。近年の主な出演作に、映画『あのこは貴族』『坂道のアポロン』『愚行録』、ドラマ『ハルカの光』『あの子が生まれる』などがある。【主な舞台】『息子の証明』『〇〇ちゃんが好きなのよ』『ぼくのタネ 2019』『実は素晴らしい家族ということを知ってほしい』『どうか闇を、きみに』など。



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『イロアセル』

会場:新国立劇場・小劇場

上演期間:本公演 2021年11月11日(木)~28日(日)

プレビュー公演 2021年11月7日(日)

作・演出:倉持 裕

出演:伊藤正之 東風万智子 高木 稟 永岡 佑 永田 凜
西ノ園達大 箱田暁史 福原稚菜 山崎清介 山下容莉枝

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関連リンク
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・11月公演『イロアセル』(作・演出 倉持 裕)
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